コラム

ステロイドが、どのように細胞に入り込み、遺伝子の発現を狂わせるのか

投稿日:2019年12月31日 更新日:

 現代では、様々な病気の標準医療において合成ステロイドホルモンが使われていますが、私は常日頃から「合成ステロイドホルモンは、命に危険が及ぶ時以外使ってはいけない」と言い続けています。元来、ステロイドホルモンは体内でも作られているもので、一時的に普段より多く作ることはありますが、基本的には副腎皮質で産生される量は、一定の範囲となるよう厳密にコントロールされています。普段より多く作るのは、主にストレスに耐えるためで、決して病気の症状を取るために作るものではないのです。

 実は合成ステロイドホルモンは、正しくは、合成糖質コルチコイドというべきです。人体が副腎皮質で作る自然な糖質コルチコイドは、コルチゾールといわれます。一方、医者が用いる場合のステロイドは合成糖質コルチコイドです。以下で用いるステロイドという言葉は、コルチゾールである場合と合成糖質コルチコイドである場合がありますが、いずれにしろ働きは同じです。

 副腎で自然に分泌される糖質コルチコイド(コルチゾール)は、下垂体前葉からの分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によって調整されています。このホルモンが運ばれていく器官を標的器官といいます。コルチゾールが、この標的器官の細胞に入り込むと、以下のような作用をもたらします。

①アミノ酸を放出する。
②脂肪を分解する。
③糖を新たに作る。
④筋肉と脂肪細胞がグルコース(糖)を抑制することによって血中グルコース濃度を上昇させる。
⑤心筋の収縮を促進する。
⑥人体の水分の貯留量を増大させる。
⑦炎症を抑えます。アレルギーの症状を抑える。

 合成ステロイドホルモンが臨床において用いられるのは、この7番目の働きを発揮させるためで、ステロイドを外部から大量に入れると、異物と戦う免疫の働きが抑制され、あらゆる不愉快な症状が消え、間違った喜びを患者に与えることができるものですから、世界中の医者は、嬉々としてステロイドを用いるのです。

 この患者に快楽を与える⑦の働きについてはかなり詳しく調べられています。しかし、①~⑥の遺伝子レベルでの働きについては、ほとんど解明されていません。しかもステロイドを用いれば、あらゆる器官において様々な副作用が生ずるのでありますが、その副作用がどうして生じるのかについても誰も解明していないのです。

 ステロイドの働きを簡単に説明すると、人体の細胞は細胞内部で様々なタンパクを合成するために、DNAの遺伝子情報をRNAに転写する必要があるのですが、ステロイドはこの転写の過程を促進、あるいは逆に抑制する作用があるのです。このようにDNAに特異的に結合して、転写の調整に影響を及ぼすタンパク質の一群のことを転写因子と呼びます。ステロイドは転写因子の一つなのです。転写因子については、こちらで詳しく解説していますが、ともかくステロイドは、炎症を抑制する蛋白の合成を抑制するだけでなく、あらゆるタンパク質の合成過程を無理矢理、促進・抑制すること、タンパク質は多くても少なくても問題が起こし、様々な病気になるということを理解してください。

 次はステロイドが、どのように細胞に入り込み、遺伝子の発現を狂わせるか説明していきましょう。ステロイドは核内に入ると、核内にある核内ステロイド受容体と結びつきます。このステロイドも核内ステロイド受容体も、いずれもDNAの遺伝子情報をRNAに移し替える(転写)するときに利用されるので、両方とも転写因子と呼ばれます。

 ステロイドは細胞の細胞膜を通過した後、細胞質のグルココルチコイドレセプター(glucocorticoid receptor、英語でGRと略します。)に結合します。GRは全ての細胞に存在し、かつステロイドホルモンは全ての細胞膜を自由に通過していきます。ステロイドと結合したGRは、全ての細胞の核内へ自由に移行し、23対の染色体に乗っているDNAの遺伝子領域と、様々なpromoter(促進)、enhancer(亢進)、repressor(抑制)などの働きを持つタンパクと結びつきます。このようにステロイドと結びつく遺伝子をステロイドの標的遺伝子と呼びます。標的遺伝子にコードされている情報をmRNAに移し替えるときに、タンパクの合成を促進したり抑制したりする調節を「エピジェネティックな調節」とも呼びます。23対の染色体にはステロイドの標的遺伝子が無限にあるので、ステロイドを使った時に、どれだけ多くの遺伝子に影響を与えるかは誰にもわからないのです。

 次に、ステロイドホルモンが60兆個の細胞に自由に入り込む様子を『Janeway’s IMMUNOBIOLOGY』の絵を参考にしながら説明しましょう。まず、タイトルのMechanism of Glucocorticoid actionの説明ですが、Glucocorticoidというのは、glucoseとcortexとsteroidの3語の合成語の略語です。Glucoseは糖、cortexは皮質、steroidはまさにステロイドを意味します。私たちはステロイドと簡便に言っていますが、実はグルココルチコイドなのです。グルココルチコイドは副腎皮質が作るホルモンの一つで、糖質コルチコイドとも呼びます。

 図①はステロイドが外部から細胞膜を通って細胞質に入ろうとするところです。英語の説明文を訳すと、「ステロイドレセプターはヒートショックプロテイン90、略してHsp90と複合体を作って細胞質にいつも存在します。」となります。

 “Cytoplasm”は、細胞質という意味です。細胞質には、ステロイドレセプターとHsp90が結合して待っています。熱ショックタンパク質は、細胞が熱等のストレス条件下にさらされた際に発現が上昇して、細胞を保護してくれるタンパク質の一群であり、分子シャペロンとして機能します。シャペロンとは元来、若い女性が社交界にデビューする際に付き添う年上の女性を意味し、他のタンパク質分子が正しいフォールディング(特定の立体構造に折りたたまれる現象)をして機能を獲得するのを助けるタンパク質の総称です。分子シャペロン、タンパク質シャペロンともいいます。

 Hsp90にはHsp90αとHsp90βというアイソフォーム(構造は異なるが同じ機能をもつタンパク質)が存在します。Hsp90αとHsp90βはアミノ酸配列の相同性は高いのですが、刺激に対する応答性は若干異なります。Hsp90は非ストレス環境下においても細胞内発現量が高く、真正細菌や真核生物において広く発現して分子シャペロンとして機能します。Hsp90は細胞内において不活性状態のステロイド受容体と複合体を形成しています。また、Hsp90は癌の進展との関連が深く、Hsp90阻害剤は抗がん剤として期待されています。

 図②の説明文を訳すと「ステロイドは細胞膜を横切って、ステロイドレセプターと結びつくと、Hsp90が離れます」となります。

 図③の説明文を訳すと「ステロイドレセプターとステロイドが結びついた複合体が、今度は核膜を通ります」となります。Nucleusは、“核の”という意味です。

 図④の説明文は「ステロイドレセプターがNF-κβと相互作用して、NF-κβの標的遺伝子の転写を阻害します。」と訳します。NF-κβは、核内受容体と呼ばれる転写因子のひとつで、正式な英語は、“nuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells”です。

ステロイドとステロイドレセプターの複合体は核内に入って細胞質にあるときに、転写因子であるNF-κβと結びつくと、AP-1(これも転写因子です)などと結びつき、炎症を起こしている遺伝子の働きを阻害して転写ができなくなることで、炎症に関与するサイトカインなどが負に制御され、結果として炎症がなくなります。つまり、世界中で使われているステロイドは、この遺伝子の働きをOFFにして炎症を止めてしまっているのです。炎症は病気を治すための第一歩ですから、ステロイドは症状を取るだけで病気を治しているわけではないのです。ただ、免疫抑制作用が強力に発揮されるので、最高の抗炎症剤として用いられるのです。図④は、まさにステロイドがNF-κβという核内転写因子と結びつくと、この制御エレメントの遺伝子の働きを抑制し、抗炎症作用を発揮していることを描いています。

 図⑤は細胞の核の中でステロイドのレセプターが、ある一つの特定の遺伝子配列と結びついて、遺伝子DNAの情報をRNAに転写する因子を活性化させているという図であります。もっと具体的に言えば、図⑤の意味は、文字通りステロイドがたった1箇所の遺伝子の制御エレメントに働いて、制御因子によって制御されている遺伝子の発現を制御因子と共同で調節していることを図示しているのです。そして、ステロイドが結びつく遺伝子は1種類だけではなく、あらゆる組織や器官の遺伝子に無数にあることも表しています。

 どのような遺伝子をONにしたりOFFにしたりするかは“Examples of genes regulated by GR”という資料に関するコラムをご覧ください。

 図⑤の説明文は、「核内において特異的な遺伝子制御配列に結びついて、転写を活性化する」と訳します。Regulatoryという意味は、制御とか調節という意味があります。Sequenceというのは、遺伝子の塩基の並び、ヌクレオチドの配列のことです。この図⑤はステロイドの副作用を説明するときに極めて大切な意味を持つので、しっかり理解してもらいましょう。

 図⑤の下に“upstream regulatory element”と記されていますね。この意味は、「上流にある遺伝子の制御要素(エレメント)」であります。Regulatory element(レギュラトリーエレメント)とは一体何でしょうか?文字通り訳せば、制御エレメントとか調節エレメントという訳になります。実は同義語は、英語も日本語も入れると全部で10以上あります。まず英語では、control element、control region、Nucleic Acid Genetics Regulatory Region、Nucleic Acid Regulator Region、Nucleic Acid Regulatory Sequence、regulatory domain、regulatory element、Regulatory Regionなど難しい英語が8種類あります。日本語では、核酸制御配列、制御ドメイン、制御領域、調節エレメント、調節領域など、これも慣れ親しめない日本語が5種類ありますが、一番わかりやすく日本語で説明すれば、「遺伝子の発現スイッチの役割をするDNAの塩基配列」です。英語では“Regulatory element”で代表され、日本語では「制御エレメント」と訳されるのですが、いずれにしろこれらの言葉の本質は、人体にある特定の遺伝子の発現を増やしたり減らしたりするのを調節する遺伝子の一部分であるということです。

 次にUpstreamについて説明します。Upstreamとは上流の意味で、下流もいずれで出てきますので説明しておきましょう。まず転写というのは、二重鎖でできているDNAをRNAに移し替えることです。二重鎖のDNAを同時に読み取ることはできませんから、まず二重鎖をほどいて一重鎖にする必要があります。どちらの一重鎖のDNAを読み取るかを決めねばならないのですが、読み取る鎖はなぜだか決まっていて、永遠に同じ遺伝子を作り続けるのでこれを「半保存的な複製」といいます。つまり同じ遺伝子を永続的に保存しながら子孫に伝えていくということになります。

 RNAに移し替えようとするDNAを鋳型鎖といい、別名アンチセンス鎖といいます。読み取らない一重鎖を非鋳型鎖といい、センス鎖といいます。新しく出来上がるDNAは、言い換えると、転写するということは、新しく非鋳型鎖を作ることになるのです。なぜならば、鋳型鎖のT(チミン)に対応して、新しくできるDNAはA(アデニン)であり、鋳型鎖のC(シトシン)に対応して、できるのはG(グアニン)であるからです。逆に、-対応して新しく出来上がるDNAは、Tであり、鋳型鎖のGに対応して、新しくできるのはCであるからです。実は遺伝子の転写を仲介するRNAは、TがU(ウラシル)になっているのですが、もっと詳しく知りたい人は、高校の生物の教科書の遺伝子の項を読んでください。

 RNAに読み取られる転写の進行ですが、鋳型鎖は必ず3’→5’の方向で読み取られることを知っておいてください。3’と5’の意味は五炭糖について述べたコラムの中で解説していますので、興味があるかたを読んでみてください。その順番で非鋳型鎖が合成されます。鋳型鎖において、転写の開始部位の3’末端側を上流、5’末端側を下流といいます。遺伝子を読み取ってRNAに転写するのは、ちょうど川の流れと考えて、水が上流から下流へと流れるように読みとられていくので、読み取りの始まりを上流といい、終わりを下流というのです。読み取り始めの3’末端側を上流、5’末端側を下流といいます。

 いずれにしろ、医者が使用したステロイドがアトランダムに細胞膜を通って細胞質にあるステロイドレセプターと結びつき、ステロイド・ステロイドレセプター複合体となり、ステロイドに反応する遺伝子のプロモーター領域にある、病気を治す事とは関わりのない訳のわからない特定のDNAの配列に結びついて、遺伝子の発現を呼び起こし、その結果、様々な副作用をもたらしているということが分かっていただけたかと思います。

 それでは、このような遺伝子発現を調節する遺伝子の一部分は、人間の全ての遺伝子に何箇所あるかを考えてみましょう。まず、人間の遺伝子の全てを乗せている染色体は23対あります。この生体内にある23対の染色体にはこのような制御エレメントが分かっているだけで数十万箇所あります。このような制御エレメントは、400万箇所もあると書いている研究者もいます。私が以前からしばしばホームページで「遺伝子の発現のON/OFFに関わるエピジェネティックな箇所は400万もある」と言い続けたのはこのことなのです。皆さん、やっと私が言い続けた400万の意味がお分かりになったでしょう。

 遺伝子DNAとは何か?遺伝子発現とは何か?に対する答えを出すために、DNAの発現、つまりアミノ酸を作る出発点から終点までの経過についてコラムを書いていますので、興味のある方は、こちらもお読みください。

以前、私はいくつかのコラムで転写因子としてのステロイドがどのように細胞の核に入り込み、炎症を抑制する遺伝子について書きました。しかし、それ以外の遺伝子にどのような影響を及ぼすかについては、説明しきれませんでしたので、そこで今回はグルココルチコイドレセプターによって制御される遺伝子の例という英語の資料を元に、それについてお約束したとおりに解説していきましょう。

 黒字は原文、青字は日本語訳、赤字は私の解説になります。

Examples of genes regulated by GR(グルココルチコイドレセプターによって調節される遺伝子の例)

(人間は副腎皮質でグルココルチコイドを生き続けるために必要なだけ毎日毎日作っています。このグルココルチコイドが過剰に体外から投与されると、機能が過剰になったり、正常な機能の制御ができなくなります。グルココルチコイドによって制御される遺伝子は他にもあるはずですが、分かればさらに後日追加し、解説していきます。)

Gene Names (遺伝子の名前) Function (機能) Regulation (制御・抑制か促進)
Glutamine synthetase (グルタミン合成酵素)   Amino acid metabolism (アミノ酸代謝) Up (促進)
TAT(tyrosine amino transferase) (チロシンアミノ基転移酵素) Amino acid catabolism (アミノ酸異化) (チロシン分解の最初の反応を触媒する酵素) Up (促進)
Tryptophan oxygenase (トリプトファン酸化酵素)   Amino acid catabolism (アミノ酸異化)   Up (促進)
PEPCK (liver) (肝臓) (phospho enol pyruvate carboxy kinase) (ホスホエノールピルビン酸カルボキシナーゼ) (オキサロ酢酸の、脱炭酸とリン酸化によってPEP(ホスホエノールピルビン酸)を作る酵素。糖新生の調節点となる酵素です。) Gluconeogenesis (糖新生) (アミノ酸や脂肪酸などの、炭水化物以外の物質からブドウ糖を生合成することです。高等動物の主に肝臓と腎臓にこの機能があります。) Up(促進)
G6Pase(Glucose 6-phosphatase) (グルコース-6-ホスファターゼ) (グルコース-6-リン酸からリン酸部分を除去する糖新生経路の酵素である。 グルコースが細胞に 取り込まれると直ちにリン酸化が起こるのは、これが拡散してしまうのを防ぐためであります。) Gluconeogenesis(糖新生) Up(促進)
Angiotensinogen(アンジオテンシノーゲン) (別名ハイパーテンシノーゲンともいいます。つまり高血圧に関わりのある物質です。) Precursor of angiotensin I; vasoconstriction, electrolyte balance, etc. (アンジオテンシン1前駆体;血管収縮、電解質バランス、その他) (肝臓で合成されて血中に放出された後、レニンの作用によってアンジオテンシン1を生成します。) Up (促進)
Leptin (レプチン) (脂肪組織から分泌されるホルモンで体脂肪の蓄えを調整します。obという遺伝子によって作られるホルモン。) Energy metabolism (エネルギー代謝) Up (促進)
VLDLR (Very Low Density Lipoprotein Receptor) (超低密度リポタンパク受容体) 肝臓で生成されて血中に放出される。約1:5の割合でコレステロールとトリアシルグリセロールが含まれ、末梢組織にトリアシルグリセロールを供給する。構成するアポリポタンパク質としてアポリポプロテインB-100(apo B-100)、アポリポプロテインC-II(apo C-II)、アポリポプロテインE(apo E)がある。) Lipoprotein metabolism (リポタンパク代謝) (脂質異常症といわれるのは総コレステロールとLDLが高い人ですね。LDLはLow Density Lipoproteinのことであり、さらに密度が低いLDLをVLDLというのです。このVLDLと結びつくレセプターがVLDLRであり、未熟な脳の発達に極めて重要な役割を持っています。) Up (促進)
PEPCK (adipose) (脂肪) (phospho enol pyruvate carboxy kinase) (ホスホエノールピルビン酸カルボキシナーゼ) (オキサロ酢酸の、脱炭酸とリン酸化によってPEP(ホスホエノールピルビン酸)を作る酵素。糖新生の調節点となる酵素です。) Glyceroneogenesis (糖新生) Down (抑制)
aP2 (脂質シャペロンである脂肪酸結合タンパク。シャペロンは物質を輸送するタンパクのことです。) Intracellular lipid shuttling and metabolism (細胞内脂質輸送と脂質代謝) (シャトルとは、往復輸送するという意味です。) Up (促進)
GLUT4(Glucose transporter type 4) (グルコース輸送体4型) (インスリンが分泌されると、細胞の内側にあるこのGLUT4というタンパクが細胞の表面へ移動します。血液中のブドウ糖を、筋肉組織や脂肪細胞などに送り届ける役割をはたしているのです。GLUTには12番まで存在し、例えばGLUT2は、主に肝臓におけるグリコーゲン生成に関与しています。) Glucose transport (糖輸送) (2型の糖尿病は、インスリンが充分あるにもかかわらず血糖が細胞内に取り込まれない場合に起こります。これをインスリン抵抗性といいます。この原因のひとつは、ステロイドホルモンが細胞のインスリンの受容体に結びつくことにより、インスリンが結びつくことができなくなるからです。ストレスの多い生活をしていると、自分でステロイドを出しすぎて糖尿病を作っていることになります。) Up (促進) 
【補足】GLUT4の活性が低下する主な要因としては、加齢による代謝の低下やTNF-αがあるといわれますが、どうして感染症の炎症の最初に大食細胞が作るTNF-αが血糖を上げるのでしょうか?TNF-αは、また脂肪細胞からも分泌されます。このTNF-αは、インスリン受容体チロシンキナーゼの活性を弱め、糖輸送能を著しく低下させてしまいます。なぜインスリン受容体チロシンキナーゼの活性が落ちるのでしょうか?ステロイドホルモンが増えるからです。なぜステロイドホルモンが増えるのでしょうか?感染症に際して、副腎皮質から分泌されるコルチゾール(ステロイドホルモン)や、単球(マクロファージ)から産生されるPGE2は、細胞膜を安定化させ(細胞を炎症から保護し)、抗炎症作用を示します。生体は、感染症に際して、自分の細胞の膜を安定化させ、保護しようとして、抗炎症作用のある、コルチゾールや、PGE2を、増加させるためです。ついでに言えば、風邪をひくとステロイドホルモンが出され、アトピーが良くなります。しかし風邪が治ったあとに再びアトピーが悪くなるのは、感染症の最中はコルチゾールが増え、終わるとコルチゾールが減ってリバウンドが出るからです。)
HSL(hormone-sensitive lipase) (ホルモン感受性リパーゼ) (リパーゼは脂肪を分解する酵素ですね。その酵素は、様々なホルモンに出会うと働き出します。そのホルモンは、エピネフリン、ノルエピネフリン、ACTH、TSH、MSH、グルカゴン、セロトニン、甲状腺ホルモン、成長ホルモン、副腎皮質ホルモンなどがあります。  逆に、インスリンPGE1(プロスタグランジンE1)、アデノシンは、ホルモン感受性リパーゼの作用を抑制する方向に作用します。  HSLは、筋肉(骨格筋細胞や心筋細胞)にも存在します。HSLは、筋肉の筋線維間(遅筋線維の間)に存在するトリグリセリドを、運動時などに、分解し、生成される遊離脂肪酸は、エネルギー源として利用されます。) Lipolysis (脂肪分解) (脂肪組織の脂肪細胞内に存在し、脂肪細胞内の中性脂肪(トリアシルグリセロール)を、脂肪酸とグリセロール(グリセリン)に加水分解します。中性脂肪はトリアシルグリセロールや、トリグリセリドともいいます。皆さん、脂質異常症の方はTGが高いと言われたことがあるでしょう。このTはトリアシルやトリのTであり、GはグリセロールやグリセリドのGであります。) Up (促進)
LPL(lipo protein lopase) (リポタンパクリパーゼ) (成長ホルモンは、脂肪組織のリポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性を、抑制(低下)させます。 逆に、インスリンは、脂肪組織のリポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性を、上昇させます。) Lipid metabolism (脂質代謝) リポ蛋白リパーゼ(LPL)は、脂肪組織などで合成・分泌され、毛細血管の血管内皮細胞表面(脂肪細胞外)に存在します。リポ蛋白リパーゼ(LPL)は、細胞外で、血液中の中性脂肪トリグリセリド)を、遊離脂肪酸とグリセロールに分解し、細胞内(脂肪細胞内など)に、遊離脂肪酸を取り込ませます。脂肪細胞では、リポ蛋白リパーゼ(LPL)により分解されて取り込まれた遊離脂肪酸は、アシル-CoAを経て、中性脂肪に再合成され、貯蔵される(LPLは、脂肪細胞の中性脂肪貯蔵を促進します)。 Up (促進)
【補足】アシルCoAというのは、アシルコエンザイムAと読み、上に述べたように、脂肪酸の代謝にかかる補酵素です。補酵素というのは、触媒である酵素の手助けをするタンパクであり、助酵素ともいわれます。この補酵素にアシル基がつくと、アシルCoAになり、アセチル基がつくとアセチルCoAになります。
TNF-α(Tumor necrosis factor α) (腫瘍壊死因子) (TNF-αとは、サイトカインの1種であり、狭義にはTNFはTNF-α、TNF-β、LT-α(リンホトキシンα)およびLT-β(リンホトキシンβ)の3種類であります。TNF-αは主にマクロファージにより産生され、固形がんに対して出血性の壊死を生じさせるサイトカインとして発見されました。腫瘍壊死因子といえば一般にTNF-αを指します。これらの分子は同一の受容体を介して作用し、類似した生理作用を有します。広義にTNFファミリーと称する場合にはFasリガンドCD40リガンド等の少なくとも19種類以上の分子が含まれます。) Inflammation and apoptosis (炎症とアポトーシス) (mTNF-αとsTNF-αの2種類があります。“m”は“membrane”の略であり「膜」のことです。“s”は“soluble”の略であり「可溶性」のことです。TNF-αは主に活性化されたマクロファージによって産生される他、単球T細胞NK細胞平滑筋細胞、脂肪細胞も産生します。) Down (抑制)
Osteocalcin (オステオカルシン) (オステオカルシンは、骨の非コラーゲンタンパク質として25%を占める、カルシウム結合タンパクであります。骨芽細胞のビタミンK依存性カルボキシラーゼによって、タンパク質のγ-グルタミン残基に炭酸イオンが付加されたものです。骨の形成やカルシウムイオンの恒常性維持に寄与しています。ホルモンとしての作用もあり、膵臓のβ細胞に働いてインスリン分泌を促したり、脂肪細胞に働き、脂肪細胞のインスリン感受性を高めるタンパク質であるアディポネクチンの分泌を促進します。骨が形成されている度合いを見るマーカーとして用いられます。) Marker for mature osteoblasts (成熟した骨芽細胞のマーカー) (オステオカルシンは骨芽細胞のみから分泌され、骨の代謝調節および骨形成促進性に働きます。また、骨の石灰化とカルシウムイオンの恒常性維持に関与します。) Down (抑制)
CRH(corticotropin-releasing hormone) (副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン) Stress mediated/feedback hormone release (ストレスに仲介され、フィードバックホルモン放出) (ストレスが生ずると、その情報が脳の視床下部に伝えられ、CRHが放出されて副腎皮質ホルモンが作られるということです。) Down (抑制)
POMC(Pro-opio-melanocortin) (プロオピオメラノコルチン) (241個のアミノ酸残基からなるポリペプチド前駆体。285個のアミノ酸残基からなるポリペプチドのプレプロオピオメラノコルチン(pre-POMC)から作られます。) Precursor of pituitary hormones (下垂体ホルモンの前駆物質) (POMCの働きについては、こちらに書いてあります。) Down (抑制)
Prolactin (プロラクチン) (乳腺刺激ホルモン) Hormone critical for reproduction (プロラクチン) Down (抑制)
【補足】プロラクチンは、英語で縮めてPRLと書きます。女性も男性も主に下垂体前葉のプロラクチン分泌細胞(lactotroph)から分泌しています。 泌乳に対しては乳腺の分化と発達を促します。思春期において、乳管の分枝構造を発達させます。また妊娠期には乳腺葉を発達させます。乳汁合成のときは、カゼインラクトアルブミンなどのタンパク質合成を促進します。赤ちゃんの吸引刺激に応じて乳汁を分泌します。妊娠維持のときには、胎盤ができるまでは卵巣に残された黄体(妊娠黄体)を刺激してプロゲステロン分泌を維持させます。このプロゲステロンの作用は排卵を抑え、また子宮内膜を肥厚させることです。妊娠8週ころになると妊娠黄体の機能は低下を始めて、今度は「胎盤」から黄体ホルモンが分泌されることで妊娠の継続が可能になるのです。 女性の母性行動については、赤ちゃんに対する敵から守り、敵に対する攻撃性を強めます。夫に対しても攻撃的になります。さらに免疫を高め、浸透圧調節も行い、血管新生にも関わります。ついでに書けば、男性でプロラクチン値が高い場合には、インポテンツ(ED)や、性欲低下が現れます。男性の場合は、射精オーガズムの後に、急速に性欲を失う原因となっています。)
Proliferin (プロリフェリン) (英語で縮めてPLFといいます。プロラクチンや成長ホルモンとの関わりがあると同時に、細胞の増殖にも関わりがあるので、この遺伝子によって作られるタンパクはプロリフェリンと呼ばれているのです。) Angiogenesis (血管新生) (成長や分化に必要である血管新生に関わっていることはわかっています。プロリフェリンは、成長ホルモン(GH)、胎盤性ラクトジェンおよびプロラクチンと同一の遺伝子ファミリーであり、GH/PRLファミリーと呼ばれています。哺乳動物の胎盤では,このファミリーに属する多種類の蛋白が見出されています。プロリフェリンが属するファミリーの大部分は特定の動物種にのみ見出される不可思議な進化を遂げた蛋白であります。 Down (抑制)
Glycoprotein hormone α-subunit (グリコプロテインαサブユニット) Common subunit of gonadotropin hormones (性腺刺激ホルモンの共通サブユニット) (サブユニットとは、高分子を成り立たせる基本単位の分子のことです。) Down (抑制)
【補足】性腺刺激ホルモンのLH(黄体化ホルモンとか黄体形成ホルモンともいいます)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン、英語で“Human chorionic gonadotropin”といいます。ゴナドトロピンは性腺刺激ホルモンの意味です。)は糖タンパク質で、タンパク質サブユニットの二量体のそれぞれがと結合しています。そのタンパク質二量体にはα及びβサブユニットと呼ばれる2つのポリペプチドユニットでできています。この構造はTSH(甲状腺刺激ホルモン)に似ています。これらのホルモンの糖の部分はフルクトースガラクトースマンノースガラクトサミングルコサミン、から成り立っています。LHの半減期はたったの20分であります。そしてLHの生物学的半減期に重大な影響を与えるのは糖であるシアル酸から成り立っています。)
IL-6 (インターロイキン6) (マクロファージ、Tリンパ球、Bリンパ球、線維芽細胞などで産生されるサイトカインです。免疫応答に関わり、造血幹細胞の増殖と分化を制御しています。) Proinflammatory cytokine (炎症促進性サイトカイン) (サイトカインとは、リンパ球やそのほかの免疫に関わる細胞から分泌される液性因子で様々な細胞を活性化します。そして生体の免疫機構を全体に作用し、制御します。) Down (抑制)
IL-8 (インターロイキン8) (ケモカインの一つであります。ケモカインとは、サイトカインのうち、白血球を炎症巣に遊走させる働きを持つ因子です。その分子中にアミノ酸のシステイン(C)の存在によってCXCX、CC、C、CX3C、ケモカインの4つのサブファミリーがあります。各サブファミリー名にリガンドのLをつけます。リガンドとは、細胞の受容体に特異的に結合する低分子物質です。50種類以上のケモカインが存在しますが、その作用は多様です。) Proinflammatory cytokine (炎症促進性サイトカイン) (別名、好中球活性化因子ともいいます。好中球を炎症の現場に遊走させたり、好中球の貪食作用を活性化させます。別名、CXCL8ともいいます。CXCL8のLは、リガンドのLです。つまりリガンドが細胞の受容体にひっつくと、情報が細胞に伝わり、その細胞の核の遺伝子をONにして様々なタンパクを作ることができるのです。) Down (抑制)
Collagenase (コラゲナーゼ) (コラーゲンやゼラチンを分解するタンパク分解酵(プロテアーゼ)であります。従って、コラーゲンというタンパクを分解するのでコラゲナーゼといいます。細胞のあらゆる基質に存在するタンパク分解酵素です。) Matrix protease (マトリックスプロテアーゼ) (マトリックスプロテアーゼの多くは、金属を含んでいます。それをマトリックスメタロプロテアーゼといいます。英語で、Matrix metallo-proteinaseといい、略してMMPと書きます。) Down (抑制)
【補足】(メタロプロテアーゼは、酵素の活性を中心に金属イオン配座し、その活性中心には亜鉛イオン(Zn2+)やカルシウムイオン(Ca2+)が含まれています。コラーゲンプロテオグリカンエラスチンなどから成る細胞の外にある古くなったり傷ついたりしたマトリックス(基質)の分解をはじめとし、細胞表面に発現する傷ついたタンパク質の分解、古くなった生理活性物質プロセシングなどその作用は多岐にわたります。MMPファミリーに属する酵素は分泌型と膜結合型の二種類に分類されます。分泌型MMPは産生後、分泌細胞から離れたところにおいても働きますが、膜結合型は細胞表面に発現しているので活動範囲は狭いのです。)
ICAM-1 (Intercellular Adhesion Molecule 1) (細胞間接着分子、CD54ともいいます。) (免疫系の細胞間相互作用を司る接着分子の一つで、リガンドであるLFA-1(lympho-cyte function associated antigen-1)と共同してリンパ球の抗原提示細胞への結合や、活性化リンパ球の血管内皮細胞への結合に関与します。さらに血管内皮細胞、胸腺上皮細胞その他の上皮細胞、線維芽細胞などのさまざまな細胞にICAMは認められ、各種炎症性サイトカイン(IL-1、TNFあるいはIFN-γ)によりその発現が増強されます。近年、敗血症、膠原病、癌転移などの病態における接着分子の役割が注目されています。) Inflammatory response (炎症反応) (近年、炎症の発症メカニズムにおいて、接着分子の関与が注目されています白血球がケモカインにより炎症部位へ遊走し移行・浸潤するには、まず血管内皮に接着することが必要であり、接着分子はその接着作用に不可欠であります。特にICAM-1は、種々の炎症性疾患に重要な役割を果たしています。ICAM-1 (CD54) は75~115kd の糖タンパクで、主に血管内皮細胞に発現を認め、そのリガンドであるLFA-1を有する白血球との接着に関与するIgスーパーファミリーに属する分子であります。IFN、IL-1、TNF等の炎症性サイトカインにより発現が増強され、免疫応答初期で作用しています。消化器癌、造血器腫瘍等でも発現し、転移時の他臓器浸潤に関与していることが分かっています。) Down (抑制)

次に、投与されすぎたステロイド(グルココルチコイド)が、心臓の血管や動脈硬化に影響を与える遺伝子の働きについてひとつひとつ具体的に説明していきます。言い換えると、そのような遺伝子の発現のON/OFFが行われているかを明らかにしたいと思います。下の表は、著名な心臓学者によって研究された成果であります。下の表の“Increase”という意味はステロイドによって発現が高まり、“Decrease”というのは発現が低下するという意味です。上の表の“Up”が“Increase”という意味であり、“Down”が“Decrease”と同じ意味になります。この表の“Effect”という意味は、上の表の“Function”と同じであります。また下の表の“ in vitro”は「動物実験において」という意味であり、“in vivo”は「人体において」であるという意味です。人体において実験ができないステロイドの作用について、動物を用いて実験したのが“in vitro”であります。

Table 1

Effects of glucocorticoids on cardiovascular risk factors and atherosclerotic mediators(コルチコイドが心血管の病気の発現を促す危険因子に及ぼす影響と動脈硬化を引き起こす仲介因子に及ぼす影響)

Risk factor/mediator Effect Evidence
Metabolic (代謝) (代謝とは簡単にいえば、古いものと新しいものが入れ替わることであります。従って新陳代謝のことです。生体内の物質とエネルギーの変化であります。代謝によって外界から取り入れた物質を基にして合成と分解を行い、そのためにはエネルギー消費すると同時に、新しくエネルギーが生産されるのです。)
Visceral obesity (内臓肥満) (脂肪細胞は語で“adipocyte”といい、細胞質内に脂肪滴を有する細胞のことです。脂肪細胞には白色と褐色があります。白色脂肪細胞は単胞性脂肪細胞といい、脂肪を貯蔵する仕事をします。一方、褐色脂肪細胞は多胞性脂肪細胞といい、細胞小器官が発達しているので、代謝型の脂肪細胞といいます。冬眠する動物では多胞性脂肪細胞を主体とする脂肪組織を冬眠腺と呼びます。脂肪組織に多くの脂肪幹細胞が見出され、脂肪幹細胞移植など再生医療のセルソース(細胞源)となっています。脂肪酸が脂肪細胞へ運ばれて脂肪細胞が成熟します。また、グルコースが脂肪細胞へ取り込まれると脂肪酸が合成されます。脂肪細胞は、インスリン受容体を介さずにグルコースの取り込みを促進し、さらに、インスリン受容体の感受性を良くするアディポネクチンを分泌します。高カロリー摂取や運動不足などによって脂肪細胞は次第に肥大化していき、肥大化脂肪細胞となり、これが内臓に溜まると内臓肥満になっていくのです。また、脂肪細胞も細胞分裂し、脂肪細胞の数も増加します。白色脂肪細胞はヒトにおいて250-300億個あります。) Increase Human adipocytes in vitro
Animals in vivo
Low-density lipoprotein cholesterol (低密度リポタンパクコレステロール) (臨床の場ではLDLコレステロールやLDLと呼ばれます。LDLは、リポタンパク質の中でコレステロール含有量が最も多く、末梢組織にコレステロールを供給します。そのため、悪玉コレステロールとも呼ばれます。LDLが酸化すると酸化LDLになり、さらに変性糖化することによってLDL受容体への親和性を失います。その場合、スカベンジャー受容体などを経てマクロファージに取り込まれ、マクロファージの機能を変化させることにより動脈硬化症を発症します。) Increase Healthy humans in vivo
High-density lipoprotein cholesterol (高密度リポタンパクコレステロール) (血管内皮細胞など末梢組織に蓄積したコレステロールを肝臓に運ぶ働きがあります。その結果、動脈硬化を抑える働きをするので、善玉コレステロールと呼ばれます。) Increase Healthy humans in vivo
Triglycerides (トリグリセリド) Increase Healthy humans in vivo
Insulin resistance/glucose intolerance (インスリン抵抗性・糖耐性) Increase Healthy humans in vivo
Vascular tone/oxidative stress (血管緊張・酸化ストレス)
Blood pressure (血圧) Increase Healthy humans in vivo
Endothelial function (血管内皮細胞の機能) (血管内皮とは、血管の内表面を構成する扁平で薄い細胞の層で、血液の循環する内腔と接しています。これらの細胞は心臓から毛細血管まで全ての循環器系の内壁に並んでいます。小さな血管と毛細血管では内皮細胞はもっぱら1種類の細胞しかみられません。内皮細胞は様々な仕事をすると同時に、様々な疾患にも関わっています。例えば、血管収縮血管拡張による血圧のコントロールや、血液凝固や、血栓症や、繊維素溶解や、アテローム性動脈硬化症や、血管新生(angiogenesis)や、炎症と腫脹(浮腫)などに関わっております。 血管内皮細胞はまた、血流にある物質や白血球を血管の内から組織へと運ぶ仕事もしています。いくつかの器官で高度に分化して濾過機能に特化した血管内皮細胞があり、そのような独特な内皮構造には腎臓糸球体血液脳関門があります。適切な血管内皮細胞の機能の消失は血管病の目印であり、しばしばアテローム性動脈硬化症を引き起こします。 Impaired Healthy humans in vivo
NADH/NADPH oxidase (NADH・NADPH 酸化酵素) (NADHにリン酸が付加したものがNADPHです。どちらも化学的性質は同じだと考えていいのです。NADは、英語で“nicotinamide adenine dinucleotide”の略で、「ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド」といいます。NADは、全ての真核生物にあり、ミトコンドリアで用いられる電子伝達体となっております。さまざまな脱水素酵素補酵素として機能し、酸化型は、NAD+かNADで示します。還元型は、NADHかNADPHで示し、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチドはこの還元型と酸化型の2つの状態を取り得るのです。略号であるNAD+(あるいはNADでも同じ)のほうが論文や口頭でも良く使用されています。またNADH2とする人もいるが間違いではありません。NADHオキシダーゼは、細胞膜に結合している酵素複合体であり、細胞膜や貪食細胞膜にみられます。元来、貪食細胞は病原体が人体に入ってくると、病原体を取り込んだ時にスーパーオキサイドを作り、過酸化水素を作り、最終的に活性酸素を発生します。これらの物質の働きで病原体が殺されます。ところが、マクロファージは病原体のみならずコレステロールをも取り込んでしまいます。動脈硬化は、コレステロールを蓄えたマクロファージ(泡沫細胞)が血管内膜に集積することで起こります。泡沫細胞とは、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が血管組織内に多量に溜まると、変性LDLコレステロールに変化するのですが、この変性LDLコレステロールがマクロファージ(大食細胞)によって食べられた後の大食細胞のことであります。NADHオキシダーゼは活性酸素を生産し、アクチンを重合させることでマクロファージを血管壁に接着します。これはNADHオキシダーゼ阻害剤や抗酸化物質で排除されます。このようにNADHオキシダーゼは動脈硬化症の主な原因となります。) Variable Human vascular cells in vitro
Inducible nitric oxide synthase (誘導性一酸化窒素合成酵素) (一酸化窒素合成酵素は語の略語でNOSと書きます。窒素酸化物である一酸化窒素(NO)の合成に関与する酵素です。NOは単純な化学的構造を持つ分子でありますが、人体においては常温では気体の状態で存在し、生体膜を自由に通り抜けて細胞情報伝達因子として機能しています。NOはアポトーシス血圧変動などに関わっています。NOSは常時細胞内に一定量存在する構成型NOS(cNOS)と炎症ストレスにより誘導される誘導型NOS(iNOS、NOS2)に分類されます。cNOSの“c”は、“constitutive”の頭文字であり、構成的という意味で、構造に一部になっているのです。さらにcNOSには、神経型のnNOS(NOS1)と、血管内皮型のeNOS(NOS3)が存在します。“nNOS”の“n”は“neuron”の頭文字であり、神経という意味です。“eNOS”の“e”は“endothelial”の頭文字であり、血管内皮の意味です。NOSの補酵素としてカルモジュリンや上に述べた還元ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチドリン酸(NADPH)が働いています。NOの機能は血管拡張作用と血小板凝集作用があります。) Decrease Human and animal endothelial cells in vitro
Endothelial nitric oxide synthase (血管内皮細胞一酸化窒素合成酵素) Variable Human in vitro
Endothelin-1 (エンドセリン1) (血管内皮細胞由来の21個アミノ酸から出来ているペプチド。このペプチドは血管収縮作用を持つ。平滑筋収縮因子のひとつ。) Increase Animal vascular endothelial cells in vitro
Endothelin-1 receptor (エンドセリン1受容体) (エンドセリン (endothelin) は、血管内皮細胞由来のペプチドで、強力な血管収縮作用を有するオータコイドの一種であります。オータコイドとは体内で産生され微量で生理・薬理作用を示す生理活性物質のうち、ホルモンおよび神経伝達物質以外のものの総称であります。エンドセリンは肺高血圧心不全腎不全といった病態との関連が指摘されています。エンドセリン受容拮抗薬である “bosentan” は肺動脈性肺高血圧症の治療薬として使用されています。) Decrease Animal vascular smooth muscle cells in vitro
Angiotensinogen (アンジオテンシノーゲン) (アンジオテンシンにはI~IVの4種が存在し、これらのうち、アンジオテンシンII~IVは心臓の収縮力を高め、細動脈を収縮させることで血圧を上昇させます。なお、アンジオテンシンIには血圧を上昇させる効果はないことを知っておいてください。アンジオテンシンの原料となるアンジオテンシノーゲン (angiotensinogen) は肝臓や肥大化した脂肪細胞から産生・分泌されます。 このアンジオテンシノーゲンは、腎臓傍糸球体細胞から分泌されるタンパク質分解酵素であるレニンの作用によって、アミノ酸10残基から成るアンジオテンシンI がまず作り出されます。このアンジオテンシンⅠは血圧を上げることができないので、その後、これがアンジオテンシン変換酵素のACE(angiotensin converting enzymeと書き、略語でACEとなります)とキマーゼカテプシンGの働きによってC末端の2残基が切り離され、アンジオテンシンII に変換されます。 アンジオテンシンI は血圧上昇作用を有さず、アンジオテンシンII が最も強い血圧上昇作用を持ちます。アンジオテンシンIII は II の4割程度の活性で、IV はさらに低いのです。また、アンジオテンシンII は副腎に作用して、鉱質コルチコイドで血液におけるナトリウムとカリウムのバランスを制御するアルドステロンを分泌させます。また、脳下垂体に作用し利尿を抑えるホルモンであるバソプレッシン(ADH)が分泌されます。 アンジオテンシンII は副腎皮質にある受容体に結合すると、副腎皮質からのアルドステロンの合成・分泌が促進されます。このアルドステロンの働きによって、腎臓の集合管でのナトリウムの再吸収を促進し、これによって体液量が増加する事により、血圧上昇作用をもたらします。また、脳下垂体後葉から分泌されるバソプレッシン(ADH)の分泌を促進し、水分の再吸収を促進することにより、さらに血圧上昇作用をもたらします。アンジオテンシンII には血圧上昇作用があるため、これを作らせないか、またはその作用をブロックする化合物ができれば血圧降下剤として用いることができます。アンジオテンシン変換酵素 (ACE) の働きを止めるタイプの薬剤をACE阻害薬 (angiotensin converting enzyme inhibitor、ACE inhibitor) と呼びます。またアンジオテンシンII の受容体に結合し、その作用をブロックするタイプの薬剤をアンジオテンシンII受容体拮抗薬 (angiotensin receptor blocker, ARB) と言います。いずれも臨床上重要な降圧剤として広く用いられています。また近年、これらの前の段階である、レニンを阻害するタイプの降圧剤も登場しています。 Increase Human adipocytes in vitro
Animal adipocytes in vitro
Angiotensin-converting enzyme (アンジオテンシン変換酵素) Increase Animal vascular smooth muscle cells in vitro
Angiotensin II type I receptor (アンジオテンシン2タイプ1受容体) Increase Animal vascular smooth muscle cells in vitro
Alpha-1 adrenergic receptor (アルファ1アドレナリン受容体) (アドレナリンは副腎髄質より分泌されるホルモンであり、また、神経節や脳神経系における神経伝達物質でもあります。交感神経興奮した状態、すなわち「闘争か逃走か (fight-or-flight)」のホルモンと呼ばれます。動物が敵から身を守る、あるいは獲物を捕食する必要にせまられるなどといった状態に相当するストレス応答を、全身の器官に引き起こします。アドレナリン受容体は現在、αはα1、α2の2種類と、βはβ1、β2、β3の3種類と、更にαは3つずつのサブタイプに分類されています。これらサブタイプは、次のように分類されております。 α1(α1A、α1B、α1D) – 血管収縮、瞳孔散大、立毛、前立腺収縮などに関与 α2(α2A、α2B、α2C) – 血小板凝集、脂肪分解抑制のほか様々な神経系作用に関与 β1 – 心臓に主に存在し、心収縮力増大、子宮平滑筋弛緩、脂肪分解活性化に関与 β2 – 気管支や血管、また心臓のペースメーカ部位にも存在し、気管支平滑筋の拡張、血管平滑筋の拡張(筋肉と肝臓)、子宮の平滑筋等、各種平滑筋を弛緩させ、および糖代謝の活性化に関与 β3脂肪細胞、消化管、肝臓や骨格筋に存在する他、アドレナリン作動性神経のシナプス後膜にもその存在が予想されています。基礎代謝に影響を与えているとも言われています。 ノルアドレナリンが褐色脂肪細胞上のβ3受容体に結合すると、UCP1(脱共役タンパク質)が生成され、ミトコンドリアで脱共役が起こり、熱が産生されます。動物の冬眠時に良く見られる運動に伴わない熱産生の手段であります。日本人を含めた黄色人種ではβ3受容体の遺伝子に遺伝変異が起こっていることが多く、熱を産生することが少ない反面、エネルギーを節約し消費しにくいことから、この変異した遺伝子を節約遺伝子と呼びます。) Increase Animal vascular smooth muscle cells in vitro
Prostacyclin E2 (プロスタサイクリンE2 (人体の組織でアラキドン酸から作られ、抗凝血作用や血管拡張作用があるホルモン様物質。別名プロスタグランジンI2 Decrease Animal vascular smooth muscle cells in vitro
Homeostasis (恒常性) (恒常性とは、生物体が体内環境を一定範囲に保つ働きであります。恒常性は生物のもつ重要な性質のひとつで生体の内部や外部の環境因子の変化にかかわらず生体の状態が一定に保たれるという性質、あるいはその状態を指します。生物が生物である要件のひとつであるほか、健康を定義する重要な要素でもあり、生体恒常性とも言われます。 恒常性の保たれる範囲は体温や血圧、体液の浸透圧pHなどをはじめ病原微生物ウイルスといった異物(非自己)の排除、創傷の修復など生体機能全般に及びます。恒常性が保たれるためにはこれらが変化したとき、それを元に戻そうとする作用、すなわち生じた変化を打ち消す向きの変化を生む働きが存在しなければならないのですが、これを、負のフィードバック作用と呼びます。この作用を主に司っているのが間脳視床下部であり、その指令の伝達網の役割を自律神経系や内分泌系(ホルモン分泌)が担っています。)
Platelet activator inhibitor-1 (血小板活性化阻害1) Increase Human adipocytes in vitro
Von Willebrand factor (ヴォン・ヴィレブランド因子) (血液凝固因子で血管内皮細胞によって分泌されます。血漿中にあり、血管損傷部位で血小板が血管内皮下組織のコラーゲンに粘着するのを促します。血漿中で第Ⅷ因子と複合体を形成し、第Ⅷ因子の活性化の低下を防いでいます。) Increase Human endothelial cells in vitro
Cellular adhesion molecules ICAM-1, ELAM-1 (細胞接着分子 Inter cellular adhesion moleculeの略がICAMであり、細胞間接着分子という意味で、Endothelial leukocyte adhesion moleculeの略がELAMであり、血管内皮白血球接着分子です。) (人体は38兆個の細胞でできています。毎日人体は必要な細胞同士がコミニュケーションを取るためには必ず接着する必要があるのです。) Decrease Human endothelial cells in vitro
Plasma matrix metalloproteinases MMP-2,9 (プラズママトリックスメタロプロテアーゼ2、9) (MMPは30種類近くあります。マトリックスという意味は基質です。基質というのは細胞の間にある細胞間物質であります。組織は細胞だけで成り立っているのではなくて、細胞の外にある組織を結合組織といい、基質から成り立っています。プロテアーゼというのは、このマトリックスにある様々なタンパクを分解したり、細胞表面に発言するタンパク質を分解したりします。) Decrease Healthy humans in vivo
Circulating cytokines IL-1,2,6 and TNF-alpha (血中に循環しているサイトカインの中のインターロイキン1、2、6とTNF-α) Decrease Depressed humans in vivo
Rheumatoid arthritis humans in vivo
C-reactive protein (C活性タンパク質) (体内で炎症反応や組織の破壊が起きているときに血中に現れるタンパク質肺炎球菌のC多糖体と結合するためこの名がある。CRPと略称されます。C反応性蛋白は細菌の凝集に関与し、補体の古典的経路を活性化する作用を有します。CRPのコーナーを読んでください。) Increase Human hepatocytes in vitro
Variable Animals in vivo
Decrease Rheumatoid arthritis humans in vivo

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