コラム なぜシリーズ

グルコースにL型とD型があるのは何故でしょうか?2020.9.26更新

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①グルコースにL型とD型があるのは何故でしょうか?

6単糖の5番目の炭素の右にOHがあるのをD型といいます。英語のdexterous(器用な、右利きの)のDですね。カルボニル基から最も遠い不斉炭素(C5)に結合したヒドロキシ基が右側であれば,その糖をD-糖とよびます。英語のdexterous(器用な、右利きの、右側の)のDですが、ちなみに左側のという意味の英語は、sinisterです。

②グルコースにα型、β型があるのは何故でしょうか?

すべての単糖はヒドロキシ-メチル基(CH2OH)をもっています。単糖はアルドースとケトースの2種類に分けられます。アルデヒド基を持っている単糖をアルドースといい、ケトン基(C=O)を持っている単糖をケトースと言います。ケトースは、両端にヒドロキシ-メチル基を持っていますが、アルドースは一端だけにヒドロキシ-メチル基を持っています。グルコースはアルドースですから、CH2OH は1つしか持っていません。鎖状から環状の立体構造をとった時に、フィッシャーの投影式で立体構造を表したときに、このCH2OHと同じ側(上側)にOH基があるのをβ型といい、CH2OHと反対側にあるグルコースをα型といいます。ちなみに1890年代にグルコースの構造を初めて見つけ出したのは、このフィッシャーです。

③アセタールとは何でしょうか?

アセタールは有機化合物のうち、R³−C−R⁴ で表されるエーテルの呼び名です。アセタールはアルデヒドもしくはケトンに酸触媒下でアルコールを縮合させると得られます。かつてはアルデヒドから得られるものをアセタール、ケトンから得られるものをケタールと呼んで区別していましたが、現在はいずれもアセタールと呼びます。

④ヘミアセタールとは何でしょうか?

ヘ ミアセタール(Hemiacetal)は、有機化合物で、アルデヒド基とアルコール性OH基とが結合してできる構造で、生体物質では糖の環状構造が代表です。RCHO + R’-OH → R-CH(OH)-OR’と反応します。RCHOのCHOがアルデヒド基です。このアルデヒド基とR-CH(OH)-OR’の中のOHのアルコール性OH基から形成するのがヘミアセタールであり、ケトン(CO)とアルコールから形成するのがヘミケタール(hemiketal)です。

⑤アセタールとヘミアセタールとは何が違うのか? 

 まずアセタールとヘミアセタールの構造の違いを見てみましょう。上の図のアセタールの構造式でR1、R2は炭化水素なので、C(炭素)を含んでいるので-C-O-C-O-C-という構造になります。-C-O-C-はエーテル結合そのものなのでエーテル結合が2つ並んでいる状態です。つまり-C-O-C-O-C-の前3つの-C-O-C-と後ろ3つの-C-O-C-の2つのダブルエーテル構造となっているのをアセタール構造といいます。

上や左の図のヘミアセタールの構造式を見て下さい。ヘミアセタールのヘミというのは、半分を表しますので、エーテル結合が上のアセタールの半分しかないのでヘミアセタールというのです。左の図の片方のOHがアルキル基でなく水酸基(OH)になっていますね。このような「半分エーテル」を英語でヘミアセタールと言います。

左の図を見ながらαグルコース(α型グルコース)とβグルコース(β型グルコース)の鎖状構造が平衡状態になっている関係について説明しましょう。

 糖というのは、α型の環状とβ型の環状が平衡状態にあります。化学では,「正反応と逆反応の反応速度が等しくなり、見かけ上反応が止まったように見える状態」をいいます。従って平衡状態は、一方向にのみ進む反応ではなく、逆反応が起こる可逆反応も生じている状態です。

グルコースの99%は、環状の状態ですが、水中では水溶液ではα-グルコースとβ-グルコースは36:64の比で平衡状態が見られます。

そして、この環状が鎖状になるときに環が開く(環が切れる)場所が『ヘミアセタールのヒドロキシ基(OH)』です。ヘミアセタールはもっと具体的にどのようにして環状が鎖状になるかをグルコース(血糖、ブドウ糖)を例に考えていきましょう。グルコースは結晶ではほとんどがα型です。

 単糖は鎖状から環状構造をとるのですが、どのようにヘミアセタール結合をして鎖状が環状になるか説明しましょう。

 単糖であるグルコースは鎖状構造から環状構造をとります。グルコースの鎖状構造はフィッシャーの投影式で表せます。一方、グルコースの環状構造はハースの式で表せます。まず、下にフィッシャーの投影式とハースの投影式を書きます。

 示性式は有機化合物の化学式の1つです。

 化学式は大きく分けて物質の元素組成を示す組成式と、分子構造を表示する構造式とに分類されます。組成式も構造式も物質を構成する元素の種別は元素記号を使って表現します。また同一原子の個数を示すために元素記号の右下付き添え字をつけて表現します。主な化学式の種類は5種類あり、1)組成式、2)分子式、3)示性式、4)構造式、5)電子式化学式の5つです。私たちが用いるのは、2)分子式と、3)示性式と、4)構造式です。示性式は分子式と構造式の中間的性格をもっています。

例えばエチルアルコール(エタノール)の分子式はC2H6Oですが、さらにその特定の官能基を明示するために示性式があり、C2H5OHと書きます。OHが最後につくと、C2H6Oの分子式で明示されなかったアルコールということが示されます。さらに分子の性質をさらによく示すには見慣れている構造式の登場となります。

 ここでグルコースのような単糖には異性体(Isomer)が多いので、Isomerについて語るのは難しいのですが、簡単に説明しておきましょう。

 異性体(Isomer)とは分子式は同じですが、互いに異なる物質であります。異性体には2種類あり、構造異性体と立体異性体の2つです。

 構造異性体は、分子式が同じですが構造式だけが違います。単糖のアルドースとケトースは構造異性体です。構造異性体は判別が簡単です。ところが立体異性体を理解するのははるかに難しいのです。

 立体異性体は分子式も構造も同じですが、原子配置が違います。原子配置というのは、原子の中の電子の配置と考えてください。電子配置とは、英語でElectron configurationと書き、多くの電子で構成されている原子の電子状態や、さらに分子の電子状態が近似的に得られる原子の電子軌道あるいは分子の電子軌道に複数の電子が詰まった状態と考えたときに、電子がどのような軌道に配置しているのかを示したもので、各元素固有の性質が決定され、かつ分子固有の性質が決定されるのです。このような3次元で成り立っている分子の立体異性体の違いがどのように生まれ、どのように違うかを判別するのは極めて難しいのです。立体異性体の違いについて少し具体的にふれておきましょう。

 例えば、グルコースのC-5の-OH基が右にあるのがD型で、左にあるのはL型ですが、DグルコースとLグルコースの立体異性体の違いはエナンチオマーだけの違いが生まれるのです。エナンチオマーは英語でEnantiomarと書き、日本語で鏡像異性体と訳します。鏡像異性体とは鏡に映すとぴったり重なり合う違いであります。この違いを光学活性だけが違うといいます。それでは、光学活性というのは何でしょうか?難しく言うと、光学活性とは光を当てた時の偏光(光の偏り)が違いから生まれると説明されます。

 次に鏡に映してもぴったり重ならないジアステレオマー、英語でDiastereomerという立体異性体があります。ジアステレオマーは鏡に映してもぴったり重ならない上に物理化学的な性質も違うのです。

 もう一つ立体異性体の種類があり、エピマーといい、英語でEpimerと書き、-OH基の向きが一ヶ所だけ違う時にエピマーという構造異性体が生じます。たとえば、グルコースとガラクトースは互いにジアステレオマーであり、かつエピマーなのであります。つまりグルコースとガラクトースは構造異性体ではありますが、実は鏡に映してもグルコースとガラクトースはぴったり重ならないジアステレオマーであると同時に、グルコースとガラクトースは同じアルドースであると同時に、かつ六炭糖(ヘキソース)であるにもかかわらず、Cの4番目(C4)についている-OH基の向きだけの一ヶ所だけが異なるエピマーであるのです。つまり、グルコースとガラクトースは互いにジアステレオマーであると同時に、エピマーなのであります。

 さて、これからの文章は、アノマー(anomer)とアイソマー(isomer)とα型グルコースとβ型グルコースの関係のみならず、ヘミアセタールと糖類の環状構造の関係、さらにヘミアセタール炭素に関するエピマーとアノマー(anomer)の関係や、グルコースの環状構造の水酸基がアキシアル方向のα-アノマーと、水酸基がエカトリアル方向のβ-アノマーの意味など、これら全てを説明していくのですが、自分自身のための勉強です。難しすぎる人は飛ばしてください。

アキシアル原子とエクアトリアル原子について

 既にフィッシャー投影図とハースの式によるグルコースの鎖状構造の図を上に掲載しましたが、実を言えばもう一つグルコースの構造図の書き方があるのです。それが左に示した、イス形配座と言われるものです。このイス型配座の環を構成する各炭素原子から伸びる電子軌道には大きく分けて2つの方向である垂直方向と横方向とがあることがわかっています。これが既に述べたように、立体異性体に関わる原子配置とか電子配置の意味の一つです。垂直方向に伸びた電子軌道の先にある原子をアキシアル原子またはアキシアル位にある原子と呼び、横方向に伸びた電子軌道の先にある原子をエクアトリアル原子、またはエクアトリアル位にある原子と呼びます。アキシアルは、英語でaxialと書き、エクアトリアルは英語でequatorialと書きます。アキシアルは英語のaxis(軸)の形容詞であり、エクアトリアルは英語のequator(赤道)の形容詞です。軸は垂直に立って伸びていますし、一方、赤道は真横に向かって伸びていますね。従って地球になぞらえると、アキシアルは“地軸方向の”という意味から“垂直の”とか“上下に”という意味が生まれ、垂直方向の電子軌道がイメージされますね。一方、エクアトリアルは“赤道面方向の”という意味から、“真横の”とか“水平の”という電子軌道をイメージできますね。 また、環を構成する炭素原子とアキシアル原子である真上の原子との間の原子間結合をアキシアル結合と呼び、一方、炭素原子とエクアトリアル原子である真横の原子との間の原子間結合をエクアトリアル結合と呼びます。

 ここでグルコースと同じくヘキソース(六炭糖)であるシクロヘキサンの構造式を用いて、より分かりやすくアキシアル結合と原子やエクアトリアル結合と原子について説明しましょう。ついでにどうして糖に異性体があったり、構造式が5〜6つもあるかについて詳しく説明しましょう。下図にシクロヘキサンのイス型配座と舟形配座の構造式と、その構造が変換しながら平衡を保っている反応式を掲載しておきます。

 まずシクロヘキサン (cyclohexane) は、分子式 C6H12で、シクロアルカンの有機化合物の一種です。最も単純な芳香族炭化水素である六員環のベンゼン(C6H6)の水素付加によって作られます。シクロヘキサンは、6つの各構成炭素原子にエクアトリアル水素(水平向き水素)とアキシアル水素(上下向き水素)がそれぞれ1つずつついています。垂直方向と横方向だけでなく、環を固定して考えたときに、上側か下側かについても同様の向きとなるように電子軌道を持つ炭素原子は1個おきにあり、これらの電子軌道は互いに反発しあっているのです。

シクロヘキサンは6つの炭素が平面上に並んでいるわけではなく、折れ曲がった形を取ることで安定な構造を保っていますが、ときにはもうひとつの真ん中の舟形配座を取ることもあり、これらの平衡が成りたっています。ただし、舟形配座よりもイス型配座の方が安定しているので、平衡はより安定なイス形に偏ります。 このイス形配座と舟形配座の関係を、配座異性体といいます。 上図を見てもわかるように、いす形配座では各々の炭素同士と水素同士がどれも離れているために安定性が高いのです。 一方、舟形については、炭素同士と水素同士がやや近づく箇所がどうしてもできてしまうため、相対的には不安定な構造ということができます。しかし、どちらも結合角ひずみはないため、そういう意味では安定な構造といえます。 結 合角は英語で bond angleといいます。結合角は分子構造の構造要素の一つで、それぞれの原子から伸びている手が作る2つの化学結合のなす角度を示すと考えておいて下さい。

 結合角のひずみとは何でしょうか?

元素の基本単位は原子で、中心は原子核で、その原子核の周りを電子が惑星のように動いているのです。原子を野球場の大きさとすれば、原子核は中央に置かれた豆粒ほどの大きさであります。原子核の周りを動き回っている電子は決められた電子軌道の上を電子が動き回っているのです。電子軌道は内側から1s、2s、2p、3s、3p、4s、3d、4p、5s、4d、5p…というように原子番号が大きくなればなるほど、電子軌道も増えていきます。なぜならば、原子番号と電子の数が同じだからです。しかもsがつく軌道には2個しか電子が入りません。pがつく軌道には電子が6個しか入れないのです。dの付く軌道は10個しか電子が入れません。1つの元素の原子の電子軌道の数と電子の数も決まっているのですが、原子が分子を作ると電子が動き回る電子軌道は新たにsp3と名づけられる混成軌道という軌道を作ってしまいます。例えば、炭素は水素と化学結合してメタン(CH4)という分子を作る時にお互いに1つずつの電子を出し合って、1対の電子を共有結合し合うのですが、この時、新たにsp3という混成軌道を作ってしてしまいます。一方、炭素は水素の電子と共有しない孤立電子対と呼ばれる1対の非共有電子対を残しています。sp3混成軌道が新たに作られると、このsp3混成軌道とCのもつ2sにある孤立電子対(非共有電子対)の軌道との反発などにより結合角はわずかに変化します。これを結合角のずれといいます。

 孤立電子対とは、原子の最外殻の電子対のうち、共有結合に関与していない電子対のことであり、それゆえ、非共有電子対とも呼ばれます。ついでに自分のためにsp3 混成軌道について説明しましょう。

 sp3混成軌道とは何でしょうか?

 混成軌道は英語で Hybrid orbitalといい、原子が化学結合を形成する際に、新たに作られる原子軌道です。典型例は、すでに述べた炭素原子です。炭素は、sp3、sp2、spと呼ばれる3種類の混成軌道を形成することができますが、これが、有機化合物の多様性に大きく関与しているのです。混成軌道の概念は、第2周期以降の原子を含む分子の幾何構造と、原子の結合の性質の説明に非常に役に立つのです。(皆さん、覚えていらっしゃるでしょう。メンデレエフ元素の周期表には7周期あることもご存じでしょう。) 原子は、混成軌道を形成することにより、化学結合を形成するのに適した状態に変化するのです。この状態を原子価結合法において原子価状態と呼ばれる状態となれるのです。原子価結合法とは、量子化学において化学結合を各原子の原子価軌道に属する電子の相互作用によって説明する手法です。新たに作られる混成軌道は、基本となる軌道とは異なるエネルギーや形状等を持ちますが、当初、この現象の成因として、異なる種類の軌道が混ぜ合わさったものだと考えられたために、混成(hybridization)と呼ばれるようになりました。分子の構造は各原子と化学結合から成り立っているので、化学結合の構造が原子核と電子を用いた量子力学でどのように解釈されるかは分子の挙動を理論的に解釈できる基礎になるのです。

 化学結合を量子力学で扱う方法には、分子軌道法と原子価結合法の2つがあります。分子軌道法は分子の原子核と電子との全体を一括して取り扱う方法であるのに対して、原子価軌道法では分子を、まず化学結合のところで切り分けた原子価状態と呼ばれる個々の原子と価電子の状態をまず想定します。価電子とは、電子の軌道の最も外にある軌道である最外殻と呼ばれる電子軌道にある電子の数であります。次の段階として、分子の全体像を原子価状態を組み立てることで明らかにしてゆくのです。

 原子価とは、ある原子が何個の他の原子と結合するかを表す数であり、高等学校の化学教育ではすでに私が使っているように他の原子と結びつく手の数として表されます。元素によっては複数の原子価を持つものもありますが、特に遷移金属は多くの原子価を取ることができるため、多様な酸化状態や反応性を示すことができるのです。具体的には個々の原子の軌道や混成軌道をσ(シグマ)結合やπ(パイ)結合の概念を使って組み上げることで、共有結合で構成された分子像を説明していくのです。したがって、原子軌道から原子価状態(他の原子と結びつく手の数)を説明する時に利用できる混成軌道の概念は原子価軌道法の根本に位置するのです。

 電子殻とは何でしょうか?

 元素に電子が多数ある場合,電子は原子の周りにいくつかの層に分かれて存在しています。この層を電子殻といいます。左の下図に示したようにそれぞれの電子殻に決まった数の電子が配置されています。内側からK殻,L殻,M殻,N殻……と名づけ,各電子殻に入り得る電子の最大数はそれぞれ2コ,8コ,18コ,32コ……と決まっています。各々の殻の最大数の計算方法は決まっており2n2と表せれるのです。nの数は原子核に一番近い殻(K殻)を1とし、2番目に近い殻(L殻)を2とし、3番目に近い殻(M殻)を3とし、4番目に近い殻(N殻)を4……とする番号です。K殻の電子の最大数は2n2=2×12=2×1=2となり、L殻の電子の最大数は2n2=2×22=2×4=8となり、M殻の電子の最大数は2n2=2×32=2×9=18となり、N殻の電子の最大数は2n2=2×42=2×16=32となるのです。下図に周期表と各元素の原子番号(陽子数)と・で電子の数も示しておきます。例えば、6Cは炭素の原子番号が6という意味ですね。さらに、メタンの化学式と原子価表現と分子構造と原子価結合法と原子価状態と原子軌道と混成軌道を掲載しておきます。

 この原子価結合法と分子構造を初めて提唱したのは、かの有名なノーベル化学賞受賞者であり、メガビタミン療法の提唱者であるライナス・ポーリングであります。ちなみにポーリングは1950年にアミノ酸がαヘリックスという2次構造を取っているという概念も初めて提唱した大天才です。彼は世界で初めて、上で説明したメタン (CH4) といった分子の構造を説明するために混成理論を開発提唱したのです。この概念はメタン(CH4)のような単純な化学分子のために開発されましたが、正しい混成理論であったので今でも幅広く応用され、今日では有機化合物の構造を合理的に説明する有効な経験則となっているのです。もちろん混成理論は、分子軌道法ほど、定量的計算には実用的ではないのでいつくかの問題を含んでいます。ポーリングの混成理論の問題点は、配位化学や有機金属化学において化学結合にd 軌道が関与する場合に特に顕著になります。d軌道を持っている遷移元素は全て金属元素でありますが、d軌道またはf軌道などの最外殻電子軌道以外の内殻(内側)に空位(電子が詰まっていない)の軌道を持つために、つまり不対電子の軌道を持つために典型元素の金属とは異なる化学的性質を持ってしまうのです。何故かというと、そもそも不対電子は不安定であるために対電子を持とうとするのですが、d軌道だけは安定な不対電子を持つことが可能な特性を持っているからです。そのため、これら金属元素は「遷移金属」とも呼ばれます。遷移元素は周期表中央の凹型領域に位置する原子の集団です。遷移という意味は、定まった状態から別の定まった状態へ変化することです。したがって、d軌道の最外殻電子軌道以外の内殻(内側)に安定な不対電子を持つことが可能なため、遷移金属の多くは常磁性であったり、複数の酸化数をとることが容易です。あるいはd軌道はさまざまな配位子と結合して、同じ元素でも多様な錯体を形成します。錯体とは、金属と非金属の原子が結合した構造を持つ化合物です。この非金属原子は配位子であります。配位子とは、金属に配位結合する化合物をいいます。配位結合は、英語で coordinate bondであります。配位結合とは二つの原子が化学結合するときに、2つの原子の一方からのみ結合電子が分子軌道に提供される化学結合であります。一方、最外殻電子軌道以外の内殻軌道(内側の軌道)が閉殻の金属である3つの亜鉛族元素のグループである亜鉛(Zn)やカドミウム(Cd)や水銀(Hg)は、電子配置も化学的性質も典型元素の金属に近いので遷移元素とはされません。閉殻とは、原子の電子軌道の最外殻に最大数の電子が入っている状態のことです。これとは反対に最外殻に最大数の電子が入っていない状態のことを開殻と呼びます。多くの原子において、閉殻の状態になると安定します。なお貴ガス(稀ガス、希ガス)の場合、閉殻の状態に無くとも安定ですが、これは最外殻電子が完全に詰まっている8個の電子を持っているからです。ちなみに貴ガスと稀ガスは高貴なガスという意味ですが、周期表の最右列のグループにあるHe(ヘリウム)、Ne(ネオン)、Ar(アルゴン)、Kr(クリプトン)などだけが他の原子とは絶対に混じり合わない単体で存在しているから高貴ガスと言われるのです。

 遷移元素化学において混成理論を用いることは可能ですが、上で述べたように一般的に正確ではないのです。軌道は分子中の電子の挙動のモデル表現であって、単純な混成の場合は、この近似は原子軌道に基づいているのです。炭素や窒素、酸素のようなより重い原子では、2sおよび2p軌道が原子軌道として用いられています。混成軌道はこれらの原子軌道が混合したものと仮定され、様々な割合で互いを重ね合わせるのです。混成理論はこれらの仮定の下において最も適切であり、ルイス構造と等価な単純な軌道の描写を与えます。

 ルイス構造とは、元素記号の周りに最外殻電子軌道以外にある内殻電子を無視して最外殻電子のみを点で表した化学構造式の一種で、分子中に存在する原子間の結合と孤立電子対を示す図です。ルイス構造は、どの原子同士が互いに結合を形成しているか、どの原子が孤立電子対を持っているか、どの原子が形式電荷を持っているかが分かるため有用であります。形式電荷とは、化学では、相対的な電気陰性度に関係なく、すべての化学結合の電子が原子間で等しく共有されると仮定すると、形式的な電荷は分子内の原子に割り当てられる電荷です。分子に最適なルイス構造を決定するとき、各原子の形式電荷ができるだけゼロに近くなるようにルイス構造が作れます。

2020/9/26

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