コラム 組織の分類法

人体の組織の正しい分類法 〜脂肪組織〜 2020.6.19更新

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脂肪組織の構造、脂肪細胞の構造

皆さん、脂肪や脂肪細胞や脂肪組織という言葉から連想されるのは、単純に食べた脂肪や、摂りすぎた糖分が脂肪になって、皮下脂肪や内臓脂肪になって太って格好悪いというイメージしかないでしょう。ここでそのイメージを覆してあげましょう。

もう一度復習しますが、皮膚は表層から表皮、基底膜、真皮、皮下組織、筋膜、筋層、骨膜、骨から成り立っており、体をぐるっと取り巻いています。真皮より深層の部位、つまり真皮と筋膜との間に挟まれた部位を皮下組織と呼ぶのです。筋膜は表層筋膜とか浅筋膜とも呼ばれ、筋肉を皮膚から隔てているともいえます。皮膚の最下層である基底層(基底膜)を境に、表皮と真皮の境界は明瞭であるのですが、真皮と皮下組織の境界は多くの場合、明瞭ではないのです。顔の一部では、皮下組織に骨格筋のシートである表情筋が入っています。また体の一部の部位では、皮下組織に頭皮に見られるように3〜6年続く毛の増殖期の毛包の下部や、腋窩にあるアポクリン汗腺や、手掌と足底にあるエクリン汗腺が皮下組織に入り込んだりしているのです。

上の図を見ながら説明します。皮下組織は脂肪細胞(fat cell)が集合して形成された脂肪小葉(fat septum)で大部分が構成されているので、皮下脂肪組織と呼ぶのです。fat septumのseptumは隔膜とか隔壁という意味で、脂肪細胞の集まりである脂肪小葉どうしを隔てているわけですが、脂肪細胞どうしを隔てている膜ではないことを確認しておいてください。皮下脂肪組織は結合組織の特殊なタイプなのです。皮下脂肪組織はほとんどが白色脂肪細胞から成り立っているので、脂肪小葉も白色脂肪細胞から成り立っているのです。各脂肪小葉は結合組織性隔壁により区切られています。この隔壁には血管網やリンパ管や神経も含まれ、皮下組織の骨格となり、安定性を維持しています。また、パチニ(層板)小体と呼ばれる神経終末も含まれています。パチニ小体はあらゆる圧変化と振動を感知する神経終末です。皮下組織のみならず真皮にも含まれています。脂肪組織には、脂肪滴を蓄えた脂肪細胞のほか、間質(結合組織性隔壁)に様々な種類の細胞が存在します。特にリンパ球やマクロファージに代表される免疫細胞は、脂肪細胞と密接に連携して脂肪組織の機能を調節すると同時に、アレルギーなどの慢性炎症の形成に重要です。真皮から発生している線維束がところどころで、皮下脂肪組織を貫いて筋膜や骨膜と強靭に結合しています。この線維束によって、真皮とその深部組織との結合が強固になっていますが、同時に皮下組織が存在することで、皮膚の移動性、ずれが可能となっています。

白色脂肪細胞の中身は大型の脂肪滴であり、その脂肪滴の主成分は、不飽和脂肪酸であるオレイン酸や飽和脂肪酸であるパルミチン酸です。これらの脂肪酸が細胞質の85%を占めているので、上の右図に見られるように、核などの細胞内小器官は端に追いやられています。単房性の油滴は大量のエネルギーを効率よく細胞内にパッキングしています。オレイン酸やパルミチン酸は、中性脂肪、英語でトリアシルグリセロールであり、エネルギー代謝の上で脂質の新生や蓄積と分解を絶えず繰り返しています。このような交代は、主としてノルアドレナリンのなど、種々のホルモンによって調節されています。脂肪細胞の大きさも栄養状態によって常に変化しております。脂肪組織の厚さは身体の部位や年齢、性別によって異なり、また、ホルモンによっても調節されます。かつ遺伝的に決められているのも知っておいてください。インスリンや薬物を皮下注射すると、脂肪分は速やかに脂肪細胞に取り込まれます。

白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の機能

白色脂肪細胞は英語でwhite adipocyteであり、余剰のエネルギーを蓄える貯蔵庫としての機能に加え、多様なホルモン様物質を放出することで、体で最大の内分泌器官として種々の調節を行います。ホルモンとしてレプチン、生理活性物質としてはレジスチン、サイトカインとしてはアディポネクチンなどの多様なホルモン様物質を産生しています。過剰に摂取されたカロリーの貯蔵庫として中性脂肪を大量にため込んでいます。体のエネルギーが足りない時に脂肪酸に分解し、血中に放出、利用されます。 白色脂肪細胞は組織のための巨大な栄養貯蔵庫です。一方、褐色脂肪細胞は英語でbrown adipocyteであり、brown adipocyteの働きは、食事などを食べすぎてカロリーを余分に摂取することなどにより、体に脂肪をためこんで肥満になります。このぜい肉となる脂肪のことを、白色脂肪細胞であることは既に述べましたが、褐色脂肪細胞(brown adipocyte)は、筋肉のような働きをして白色脂肪細胞を燃焼して熱に変換し、消費カロリーを増加させることができるのです。褐色脂肪細胞は褐色を帯びていますが、それは褐色脂肪細胞に白色脂肪細胞よりもはるかに豊富に含まれているミトコンドリアのシトクロムの色によるものです。シトクロムは、別名チトクロム、サイトクロム、シトクロームなどといわれますが、酸化還元機能を持つヘム鉄を含有しています。シトクロムがbrownなのは、ヘム鉄の鉄の色が反映されているからです。シトクロムはヘムタンパク質の一種であります。酸化還元機能を持ち好気呼吸に重要な役割を持ちます。さらに褐色脂肪細胞のミト コンドリアには特異的な分子脱共役タンパク質1、英語でuncoupling protein1、略してUCP1が発現しています。UCP1(uncoupling protein1)は、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化を脱共役させる活性をもっており、これが活性化されると脂肪酸やグルコースの酸化分解で生じたエネルギーがATP合成に向かわずに直接熱へと変換され、熱として散逸し消費されてしまいます。UCP1(uncoupling protein1)による褐色脂肪による熱産生は、交感神経によって直接支配されており、冬眠や麻酔低体温からの覚醒時や寒冷曝露時の体温上昇と維持に寄与しています。つまり寒冷曝露などの生理的刺激が加わると褐色脂肪に密に分布する交感神経の活動が亢進し、ノルアドレナリンがβアドレナリン受容体に結びついて、ホルモン感受性リパーゼを活性化させる一連の反応によって脂肪酸が遊離します。この脂肪酸は酸化 分解されて熱産生の基質となると同時に,UCP1(uncoupling protein1)を活性化して発熱をひき起こします。また、このノルアドレナリンが白色脂肪に作用すると、同様に脂肪分解が起こりますが、ここで生じた脂肪酸は血中に放出され、褐色脂肪や筋肉で消費されます。

脂肪細胞に貯蔵されている脂質は、既に述べたように、中性脂肪、英語でトリグリセリド、すなわち脂肪酸エステルであるオレイン酸やパルミチン酸と、3価のアルコールのグリセリンです。グリセインはグリセロールとも呼ばれます。トリグリセリドは必要時まで脂肪滴内に貯蔵されています。脂質は身体の要求に反応して、体全体のいたるところで均一に動員されます。白色脂肪は、余剰エネルギーを中性脂肪として蓄える臓器として古くから知られていますが、前述したように、アディポネクチン、レプチンに代表されるアディポカイン以外に、炎症性サイトカインやケモカイン、遊離脂肪酸(free fatty acids略してFFA)、あるいはリポカインを、積極的に血中へ大量に分泌するので、白色脂肪細胞が人体最大の内分泌器官として考えられるようになったのです。パルミチン酸から生合成されるパルミトレイン酸は、英語でPalmitoleic acidといい、あらゆる皮下組織に存在しますが、特に肝臓に多く存在しています。このパルイミトレイン酸の働きは、肝臓への脂肪の沈着や、インスリン様作用や、パルミチン酸塩や脂肪酸の合成に関わっている、ホルモン様の効果を持つ脂肪をリポカインといいます。

脂肪細胞は生後早期に数が増えますが、その後数は増加しません。肥満は全身の脂肪組織の量が多いわけですが、ここでは1個の脂肪細胞が一般の細胞の数倍とかなり大きくなっています。一方、脂肪細胞の数自体が多いこともあります。これは脂肪細胞の数が決まる前に栄養過多があったと考えられ、こちらの方が肥満としては重篤です。高カロリー摂取や運動不足などのよって、脂肪細胞は次第に肥大化して、肥大化脂肪細胞となります。

褐色脂肪組織は、英語でBrown adipose tissue、略してBATといいます。褐色脂肪は哺乳類で見つかった2つのタイプの脂肪または脂肪組織の1つである。もう1つのタイプは白色脂肪組織である。 褐色脂肪組織は、新生児や冬眠動物では特に豊富である。その主な機能は、動物や新生児が体を震わせないで体の熱を生成することである。単一の脂肪滴が含まれている白色脂肪細胞とは対照的に、褐色脂肪細胞は、ミトコンドリアにヘム鉄を含んでおり、既に述べたようにヘム鉄の鉄が茶色を呈し、多数の小さな液滴とはるかに多い数のミトコンドリアが含まれているので、さらに茶色に見えるのが褐色脂肪細胞なのです。褐色脂肪組織は、ほとんどの組織よりも多くの酸素を必要とするため、褐色脂肪組織は多くの毛細血管が集まっています。ノルアドレナリンが褐色脂肪細胞上のノルアドレナリンβ3受容体に結合すると、UCP1(脱共役タンパク質)が生成され、ミトコンドリアで脱共役が起こり、熱が産生されることは既に述べました。これこそ動物の冬眠時に良く見られる運動に伴わない熱産生の手段なのです。日本人を含めた黄色人種ではノルアドレナリンβ3受容体の遺伝子に遺伝変異が起こっていることが多く、熱を産生することが少ない反面、カロリーを節約し消費しにくいので、この変異した黄色人種の遺伝子は節約遺伝子と呼ばれています。

なぜ女性は冷房に弱いのか?

逆説的な答えですが、女性の皮下脂肪が厚いからなのです。熱を保存する皮下脂肪が厚ければ厚いほど寒さに強いはずなのに、どうして女性は冷房に弱いのでしょうか?実は、皮下脂肪の脂肪は熱を伝えにくいのです。厚ければ厚いほど熱が伝わりにくくなります。周囲の寒さ暑さに応じて人体は寒さ暑さを感じますね。例えば身体の表面の温度が下がった場合、皮下脂肪がさほど厚くない男性は体内の奥にある皮下脂肪組織から、表面へ素早く伝え熱を補います。他方、皮下脂肪の厚い女性は、志望の熱の伝導が伝わりにくくなっているので、冷えた皮膚表面の温度を素早く上げることができず、冷たさを感じやすいのです。既に述べたように、脂肪組織は脂肪細胞から成る組織で、疎性で不規則な結合組織で囲まれ、単独又は集団として大きな凝集を形成しており、人体の外表を覆う体のあらゆる部位に存在し、男性では全体重の15~20%、女性は20~25%を占めるので、熱の伝わり方が遅い脂肪組織を持っている女性の方が冷房が効きすぎて寒く感じてしまうのです。

脂肪組織の脂肪細胞が産生するレプチンとレジスチンとアディポネクチンについて

 真皮に存在する脂肪組織は、英語でadipose tissueといい、adiposeは脂肪という意味です。脂肪組織(adipose tissue)は脂肪細胞で構成された疎性結合組織です。脂肪組織の主な役割は、1つ目が、脂肪としてエネルギーを蓄えることであります。2つ目が、外界からの物理的衝撃を吸収することで、3つ目が、重要な器官を保護したり、4つ目は、外界の温度変化から断熱して体温を保ったりする機能も持っています。上皮組織の下の非上皮組織にあるので、上皮組織を助ける支持組織(結合組織)としての働きがあるのは言うまでもないことです。

 左に、真皮にある脂肪組織の絵図を掲載しておきます。脂肪組織は、脂肪細胞で構成された疎性結合組織です。既に述べたように、主な役割は脂肪としてエネルギーを蓄えることでありますがが、外界からの物理的衝撃を吸収することで重要な器官を保護したり、外界の温度変化から断熱して体温を保ったりする機能以外に、レプチンのようなホルモンを作り出す重要な内分泌器官でもあります。脂肪細胞は大食細胞が産生するTNF-αも作り出しています。脂肪細胞によって作られるレプチンは、飽食しすぎているというシグナルを脳に伝え、交感神経活動亢進によるエネルギー消費増大をもたらし、肥満の抑制や体重増加を抑制してくれるペプチドホルモンであります。また脂肪細胞は、レジスチンやアディポネクチンなどを産生しています。

レジスチンは脂肪細胞やマクロファージが分泌する生理活性タンパク質で、インスリンに対する抵抗性を増やし、肥満によって分泌が上昇し、糖尿病の原因となります。

アディポネクチンはベタベタ引っ付き易い構造をもった分泌タンパクであり、脂肪組織(adipose tissue)だけで作られ、アディポーズ(脂肪)由来のネクチン(ベタベタ引っ付く)という意味で、アディポネクチンという名前が付けられました。アディポネクチンは、血中濃度は一般的なホルモンに比べて桁違いに多く、インスリン受容体を介さない糖取り込みを促進させ、脂肪酸の燃焼や、細胞内の脂肪酸を減少してインスリン受容体の感受性を高め、血糖を下げる作用があります。肝臓のAMPキナーゼを活性化させることによるインスリン感受性の亢進、動脈硬化抑制、抗炎症、心筋肥大抑制など、多彩であり、まさに現代の飽食糖尿病時代の救世主といっても過言ではないのです。アディポネクチン万歳!アッハッハ!アディポネクチンの受容体には、AdipoR1、AdipoR2、T-Cadherinなどがあります。骨格筋においてアディポネクチンは受容体に結合し、AMPキナーゼを活性化して、通常はインスリンにしか反応しないインスリン感受性のグルコーストランスポーターであるGLUT4を膜の表面へ移動させ、グルコースを取り込む作用があります。アディポネクチンは、インスリンの作用を介さずに、運動効果とほとんど類似のグルコースを取り込む作用を持っています。

脂肪組織の構造

脂肪組織は、皮下脂肪といわれる脂肪は皮膚の下に見られるますが、他方、内臓の周囲でも見られ内臓脂肪といわれます。極度の肥満体の人の腹から垂れ下がる余分な脂肪組織は、パンヌスと呼ばれます。パンヌスがひどい病的な肥満体の手術を複雑にします。脂肪組織は、結合組織(支持組織)ですが、他の結合組織とは形態が異なるのは、上の脂肪組織の図でお分かりになると思いますが、脂肪組織は、結合組織というよりむしろ、細胞の中に存在する基質(細胞内マトリックス)と言ったほうがイメージに合いますね。

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