ポリモーダル受容器(ポリモーダル自由神経終末)とは、私たちの全身に張り巡らされた「何でも感知する、最も原始的でタフなセンサー」のことです。
通常のセンサー(レセプター)は、「光だけ」「音だけ」のように決まった刺激しか受け取れませんが、ポリモーダル受容器は「多種多様な(Poly)様式(Mode)」の刺激にすべて反応するため、この名がつきました。
1. ポリモーダル自由神経末梢センサーとしての「3つの顔」
一つの末梢神経で、以下の異なる刺激をすべてキャッチし、脳へ「痛み」として伝えます。
機械的刺激: 強くつねる、切る、刺す、圧迫されるといった物理的なダメージ。
熱的刺激: 43〜45℃以上の「熱い!」と感じる温度(火傷の危険)。
化学的刺激: 炎症で発生する物質(ブラジキニンなど)や、トウガラシの成分(カプサイシン)、酸など。
2. ポリモーダル自由神経末梢レセプターの生理学的な特徴
情報を伝えるスピードはゆっくり(時速3〜7km程度)で人の歩く速さと同じくらいです。ぶつけた瞬間の「アッ!」という速い痛みではなく、その後に続く「ズキズキ、ジワーッ」という長く不快な痛みを担当します。
閾値(しきいち)が高い: 弱い刺激(そよ風など)では反応せず、「生体に危険が及ぶ強い刺激」が加わった時に初めてスイッチが入ります。
感作(かんさ)が起きる: 炎症が続くとセンサーの感度が上がり、普段なら痛くない刺激でも激痛として感じるようになります。これが慢性痛の正体の一つです。
感作(かんさ)とは漢方医学でも現代医学でも、「感作(かんさ)」は病態を理解する上で非常に重要なキーワードです。一言で言えば、「センサー(神経や免疫)の感度が上がり、過敏になってしまった状態」を指します。
大きく分けて、「痛みの感作」と「アレルギーの感作」の2つの意味があります。
1. 痛みの感作(神経が過敏になる)
ポリモーダル受容器などの神経末端が、繰り返し刺激を受けたり炎症物質にさらされたりすることで、「痛みのスイッチ」が入りやすくなる現象です。
痛覚過敏: 以前は少し痛かった程度の刺激が、激痛に感じる。アロディニア: 普段なら痛みを感じない「服の摩擦」や「そよ風」程度で痛みを感じる。アロディニアの日本語は「異痛症(いつうしょう)」と呼びます。 一般社団法人 日本ペインクリニック学会などの医療現場でもこの用語が使われています。本来なら痛みを感じないはずの、ごくわずかな刺激を「激痛」として感じてしまう状態を指します。
慢性痛の正体: 組織の怪我が治っても、神経が「感作」されたままだと、痛みだけが脳に伝わり続けてしまいます。
2. アレルギーの感作(記憶免疫が覚える)
特定の物質(花粉やダニ、食物など)を、免疫システムが「敵(抗原)」として記憶・登録してしまうプロセスです。
感作の成立: 初めてその物質に触れた際、体内に「IgE抗体」が作られます。この時点では症状は出ませんが、準備完了の状態です。
発症: 次にその物質が入ってきた際、記憶され登録された抗体が過剰に反応し、ヒスタミンなどが放出されて「かゆみ」や「鼻水」が起きます。
3. 漢方医学による「感作」へのアプローチ
漢方では、過敏になった状態を「熱」や「気の逆上」、あるいは「水」の滞りとして捉え、感度を正常に戻そうとします。
黄連解毒湯(おうれんげどくとう):強力に炎症(熱)を冷まし、神経や皮膚の興奮を鎮めます。
小青龍湯(しょうせいりゅうとう):アレルギー感作による「体の水分に含まれた化学物質の暴走」を抑え、過剰な鼻水を止めます。
抑肝散(よくかんさん):脳や神経の興奮を鎮め、過敏になった感覚(怒りや痛み)を和らげます。
現代医学の「痛み止め」が一時的に信号を遮断するのに対し、漢方は「感作されにくい土壌(体質)」を作っていくのが得意です。
3. なぜポリモーダル「自由」神経終末なのか?
ポリモーダル受容器は「多種多様な(Poly)様式(Mode)」の刺激にすべて反応するため、この名がつきました。「自由」は、神経の末端が特定の形(カプセルなど)に包まれておらず、むき出しの状態で組織に広がっていることを意味します。これにより、周囲の化学物質の変化をダイレクトに察知できるのです。
4. 漢方や鍼灸との深い関係
ポリモーダル受容器は「鍼(はり)」や「灸(おきゅう)」の刺激をダイレクトに受け取るメインの窓口です。
鍼灸による刺激がポリモーダル受容器に伝わると、脳内で「オピオイド(天然の鎮痛物質)」が放出され、痛みをブロックする仕組みが科学的に解明されています。
人体の「防衛本能」そのものと言えるこのポリモーダル「自由」神経終末センサーは、私たちが危険を避けて生き延びるために不可欠な存在です。
特に今、特定の場所(腰や肩、内臓など)に長く続いている「ジワーッとした痛み」はありますか?その痛みこそ、ポリモーダル受容器が発しているサインかもしれません。
あらゆる種類の痛みを感じるポリモーダル自由神経末梢レセプターは人体に何か所あるのですか?
ポリモーダル受容器(神経末梢)は、特定の「数か所」にあるわけではなく、私たちの全身(皮膚・筋肉・内臓など)に網の目のように張り巡らされています。 人体の感覚点(センサー)の中でも最も数が多く、密度が高いのが特徴です。
1. 全身の分布場所 特定の部位ではなく、以下の組織に広く分布しています。
皮膚全域: 全身を覆う皮膚の真皮層などに、非常に高い密度で存在します。
深部組織: [筋肉, 筋膜, 腱, 骨膜, 関節包]などに分布し、深部の痛みを感じ取ります。関節包とは骨と骨がつながる関節全体をすっぽりと包み込んでいる「頑丈な袋」のことです。
関節が外れないように固定しつつ、スムーズに動くための環境を整える非常に重要な役割を担っています。
1. 関節包の二重構造
関節包は大きく分けて2つの層でできています。
外側:線維膜(せんいまく)の層でコラーゲン線維からなる非常に強靭な膜です。骨と骨をしっかりつなぎ止め、関節の安定性を保ちます。ここには、ポリモーダル受容器(痛みセンサー)が密集しているため、捻挫などでここを引き伸ばすと激痛が走ります。
内側:滑膜(かつまく)の層で薄い膜で、関節の潤滑油である「滑液(かつえき)」を作り出します。滑液が関節内に満たされることで、軟骨同士がこすれず、滑らかに動くことができます。
2. 関節包にトラブルが起きるとどうなる?関節包に問題が生じると、以下のような症状が現れます。
関節水腫(水が溜まる):ヘルペスや外傷による炎症によって滑膜から滑液が過剰に分泌されると、袋(関節包)がパンパンに膨らみます。これが「膝に水が溜まった」状態です。
拘縮(こうしゅく):ヘルペスによる四十肩(肩関節周囲炎)などのように、ヘルペスは殺しきれないので炎症が長引いて関節包が分厚く硬く縮んでしまうと、関節が動かなくなってしまいます。
3. 漢方によるアプローチ
漢方では、関節包のトラブルを「水(すい)」の滞りや「血(けつ)」の不足として捉えます。
防已黄耆湯(ぼういおうぎとう):関節包に溜まった余分な水を取り除き、腫れと痛みを改善します(膝の水などに)。
疎経活血湯(そけいかっけつとう):血行を良くし、関節包や周囲の筋肉の痛みを和らげます(腰痛や関節痛に)。
桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう):冷えを取り、関節を温めて動きをスムーズにします。
内臓: 胃、腸、膀胱などの[内臓組織]にも存在し、内臓痛の原因となります。内臓のそれぞれの臓器にもその臓器を包む膜ですべて覆われていますか? 2. 密度の目安(どれくらい多いか) 正確な総数は個人差がありますが、皮膚の面積あたりの密度からその多さがわかります。 痛点(ポリモーダル受容器の末端): 皮膚 1\(cm^{2}\) あたり約 50〜350個存在します。比較: 温点(1〜4個/\(cm^{2}\))や冷点(3〜15個/\(cm^{2}\))に比べ、圧倒的に数が多く、人体で最もポピュラーなセンサーといえます。 3. 特徴:何でも感知する万能センサー ポリモーダル(Polymodal)とは「多種多様な様式」という意味で、一つの受容器が以下のすべてを感知します。 機械刺激: 強くつねる、圧迫する温度刺激: 43℃以上の熱、または極端な冷たさ化学刺激: 炎症物質、発痛物質、トウガラシ成分など これらのセンサーが全身に隈なく配置されているおかげで、私たちはどこを怪我しても、あるいは内臓が炎症を起こしても、異常を「痛み」や「不快感」として即座に察知できるのです。 全身にこれほど多くのセンサーがあるからこそ、漢方の「鍼灸」などの刺激も特定の場所(ツボ)を通じて効果を発揮できると考えられています。