伝染性単核症は伝染性リンパ球症というべきではないでしょうか?
「伝染性単核症」という病名は、血液検査で単核球(リンパ球の一種)が著明に増加し、異型リンパ球と呼ばれる特殊な細胞が出現するという特徴的な所見に由来しています。
ご指摘の通り、この疾患はリンパ球の増加を伴いますが、病名が「伝染性単核球症」となっている主な理由は以下の通りです。
病名の由来: 1920年代にこの疾患が初めて報告された際、血液塗抹標本で白血球中の単核球の割合が異常に増加していることが特徴とされたため、”infectious mononucleosis”(伝染性単核症)と命名されました。
実際にはリンパ球: この疾患で増加する細胞は、実際にはリンパ球系(特にTリンパ球やBリンパ球)の細胞であり、それらが活性化して異型を呈するものです。
慣用名として定着: 現在では、病態の中心がリンパ球の増殖であることは理解されていますが、最初に命名された「伝染性単核球症」という名称が医学用語として広く定着しているため、そのまま使用されています。
したがって、医学的には「伝染性リンパ球症」と呼ぶ方が病態を正確に表している側面もありますが、歴史的な経緯と慣用名としての定着から、現在も「伝染性単核球症」という名称が一般的かつ正式に用いられています。
「伝染性単核症」という名称の由来は何でしょうか?病態の主な特徴である「単球というリンパ球の一種」に由来しており、「伝染性リンパ球症」という名称も病名として考えられますが、医学的に確立された用語は「伝染性単核球症」です。これは、この病気で特異的な「異型リンパ球」が血液検査で増加することに由来するものです。そのため、医学的な文献や診断基準では「伝染性単核球症」が使われています。
単核球とは: 単球は白血球の一種です。伝染性単核球症では、この単球が感染した際に単球以外の白血球が増加する特徴があります。
異型リンパ球: 伝染性単核球症の診断において、血液検査で「異型リンパ球」が顕著に増加していることが特徴です。
正式名称: 「伝染性単核球症」が正式な病名で、医学的な文献でも使用されています。
誤解: 「伝染性リンパ球症」は、病態の主要な特徴であるリンパ球の増加を捉えた名称ではありますが、「単核球」という特定のリンパ球の増加に注目した「伝染性単核球症」がより正確な病名です。
何故EBウイルス (EBV) が主にBリンパ球などの単核球に感染しやすいのでしょうか?
EBウイルス (EBV) が主にB細胞に感染しやすいのは、B細胞の表面に存在する特定の受容体(レセプター)に、EBウイルスが持つ糖タンパク質が特異的に結合するためです。
主なメカニズムは以下の通りです。
特異的な結合: EBVのエンベロープ(外膜)にある主要な糖タンパク質であるgp350/220が、B細胞の表面にあるCD21(補体受容体2型、CR2とも呼ばれる)という分子に結合します。gpはグリコプロテイン(糖タンパク)の略です。
細胞内への侵入: gp350/220がCD21に結合した後、EBVの別の糖タンパク質であるgp42が、抗原提示細胞でもあるB細胞の持つ主要組織適合遺伝子複合体クラスII (MHC-II) 分子と複合体を形成し、異物と認識されてウイルスがB細胞内に侵入するのを助けます。
このように、B細胞の表面に特有の受容体が存在することが、EBVのB細胞に対する高い指向性(親和性、トロピズム)を決定づけています。
なお、EBVはB細胞だけでなく、咽頭上皮細胞にも感染することが知られていますが、そのメカニズムはB細胞への感染とは異なり、gp42を必要としない別の経路が関与しています。
伝染性単核球症は何故伝染性という名前が付けられたのでしょうか?
伝染性単核球症はウイルス(EBウイルス)が原因で、細菌のように「伝染する」と感じられるのは、唾液などの体液を介してEBウイルスが感染が広がるためです。具体的には、キス、飛沫(ひまつ)、「回し飲み」といった日常的な濃厚接触によってEBウイルス感染が起こるからです。
EBウイルス伝染するメカニズム
ウイルスが唾液に排出される: 伝染性単核球症の原因となるEBウイルスは、一度感染すると多くの人が一生涯にわたって、無症状のまま唾液中にウイルスを排出し続けます。
唾液を介した感染: 感染者が唾液を介してウイルスを排出するため、キスやコップの使い回しなどで、感染していない人と唾液が接触することでウイルスが伝わります。
飛沫感染: 感染者の咳やくしゃみによってもウイルスが飛ぶことがあり、これを吸い込むことでも感染することがあります。
感染が広がる理由: 感染が広がるのは、ウイルスが唾液中に存在する状態(いわゆる「ウイルスを排出している状態」)になるからです。これは、細菌が感染症を引き起こすメカニズムと似ているため、細菌のように伝染すると感じられるのです。
まとめ:伝染性単核球症は、細菌ではなくウイルス(EBウイルス)が原因です。
唾液や飛沫など、体液を介して感染が広がるため、細菌のように「伝染する」と感じられます。濃厚接触が感染の主な原因です。
EBウイルスはT細胞にも感染して病気をどのようにして起こしますか?
はい、EBウイルスはT細胞に感染して病気を起こすことがありますが、これは一般的ではなく、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)のような特殊な病態です。通常、EBウイルスは主にB細胞に感染しますが、免疫が弱っている場合などにT細胞やNK細胞に感染し、細胞が異常に増殖して発熱、リンパ節の腫れなどの症状を引き起こすことがあります。
EBウイルスとT細胞の感染について
主な標的はB細胞: EBウイルスは、まず咽頭上皮細胞に感染し、増えたウイルスが主にBリンパ球に感染します。
T細胞への感染はまれ: ごくまれにT細胞やNK細胞に感染することがあります。
引き起こされる病気: このT細胞への感染が、CAEBVや血球貪食性リンパ組織球症(HLH)といった病気を引き起こす原因となります。
症状: CAEBVでは、発熱、倦怠感、リンパ節の腫れ、肝臓の腫れ、皮疹など様々な症状が出ます。
原因: どのようなメカニズムでEBウイルスがT細胞に感染し、異常な活性化を引き起こすのかは、完全には未だ解明されていません。
CAEBVとは:CAEBV(シーエーイービーブイ)は、慢性活動性EBウイルス感染症の略称で、EBウイルス(ヘルペスウイルスの一種)に感染したT細胞やNK細胞が増殖し、臓器に浸潤して多彩な症状を引き起こす、稀で難治性の疾患です。発熱、肝機能障害、肝脾腫などが特徴ですが、進行すると悪性リンパ腫や白血病に進行することもあります。
CAEBVの原因ウイルス:成人の9割以上が感染しているEBウイルスが関わっています。
慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)発症メカニズム: 感染したT細胞やNK細胞のゲノムDNAに感染して、増殖関連遺伝子のみならず他の様々な遺伝子変異をもたらし制御できずに増殖し続け、さらに一部が腫瘍化するからです。
慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の症状:伝染性単核球症に似た症状(発熱、リンパ節腫脹、肝脾腫、肝機能障害など)が持続または再発します。皮膚症状として、日光に当たることで水疱ができる種痘様水疱症や、蚊に刺されることで潰瘍ができる蚊刺過敏症が起こることがあります。
蚊刺過敏症(ぶんしかびんしょう)とは、蚊に刺された部位が激しく腫れ、水ぶくれができて、ときに潰瘍化して痕が残る、非常にまれな疾患です。発熱やリンパ節・肝臓・脾臓の腫れ、肝機能障害といった全身症状を伴うこともあり、将来的にリンパ腫などを発症するリスクが高いことが知られています。発症には、多くの方が感染しているEBウイルスが関係していると考えられています。局所症状:刺された部位がひどく腫れる(500円玉大以上に腫れる、硬い腫れが続くなど)。水ぶくれができる。潰瘍(深い傷)ができ、治りにくい。傷痕が残りやすい。全身症状:発熱(38℃以上になることも)。リンパ節の腫れ。肝臓や脾臓の腫れ。肝機能障害。蚊刺過敏症の原因:蚊の唾液に含まれる成分に対する過剰なアレルギー反応で、EBウイルスが関係している。EBウイルスは、多くの人が子どもの頃に感染するありふれたウイルスで、一度感染するとリンパ球に潜伏感染します。蚊に刺されることが引き金となり、潜伏感染しているEBウイルスが再活性化し、過剰な免疫反応が引き起こされるのです。
種痘様水疱症とは種痘様水疱症(Hydroa vacciniforme; HV)は、日光に当たる部位に種痘に似た水ぶくれが再発する、まれな光線過敏症です。原因は、EBウイルスに感染したT細胞の増殖が関与しており、小児期に発症することが多いです。
顔、耳、手の甲など日光に当たる部分に、中心部がへこんだ水ぶくれ(種痘に似ている)ができます。水ぶくれが破れてかさぶたになり、治癒後に浅い傷跡(痕)を残します。皮膚症状のほか、眼の充血や口の中の潰瘍ができることもあります。発熱、肝臓の障害、リンパ節の腫れといった全身症状を伴う「全身型」と、皮膚症状のみの「古典型」があります。治療:古典型の 治療の基本は徹底的な遮光です。全身型は高herpes剤であるアシクロビルの大量投与です。古典型は、成人までに自然に治癒することが多いです。全身型は、慢性活動性EBウイルス感染症やリンパ腫などを合併することがあり、注意が必要です。
種痘(しゅとう)とは何でしょうか?かつて世界中で猛威を振るった天然痘(てんねんとう)という感染症を予防するための接種方法、またはそのために使われたワクチンそのものを指します。
種痘(しゅとう)の目的:天然痘は非常に致死率が高く、治癒してもひどい痕が残る恐ろしい病気でした。一度かかって回復した人は二度とかからない(免疫ができる)という性質を利用し、人工的に免疫を獲得させるためです。
種痘(しゅとう)の歴史:人痘法(じんとうほう)は古くは中国などで、天然痘患者のかさぶたや膿を健康な人に接種して、軽度の天然痘を発症させることで免疫を得る方法が行われていました。しかし、この方法は安全性に問題があり、接種した人が重症化したり、他の人に感染を広げたりする危険がありました。牛痘法(ぎゅうとうほう)は:1796年、イギリスの医師エドワード・ジェンナーが画期的な方法を考案しました。彼は、牛がかかる「牛痘(ぎゅうとう)」という病気が人には軽くしか感染しないこと、そして牛痘にかかった人は天然痘にもかからないという俗信に注目しました。ジェンナーは、牛痘にかかった女性の水疱から採取した液を少年に接種し、免疫ができることを証明しました。この牛痘を用いた方法が「種痘」として世界中に広まりました。
この種痘の普及により天然痘の予防接種が徹底され、1980年に世界保健機関(WHO)によって天然痘の根絶が宣言されました。人類が撲滅に成功した唯一のウイルス感染症です。
日本での歴史:日本では江戸時代末期に牛痘法が伝わり、蘭方医たちの努力によって全国に普及しました。定期接種は1976年まで行われており、それ以前に生まれた世代の肩には、種痘の痕が残っていることがあります。
現代では天然痘が根絶されたため、通常の予防接種として種痘が行われることはありません。
血球貪食症候群とは何でしょうか?
血球貪食症候群(Hemophagocytic Syndrome: HPS、または血球貪食性リンパ組織球症: Hemophagocytic lymphohistiocytosis です。略称は HLH)は、免疫システムの異常により、活性化したマクロファージなどの細胞が自分自身の血球である赤血球、白血球、血小板に感染したEBウイルスを貪食するために血球ごと食べてしまうことで起こる当然のことなのです。血球貪食症候群は、原因によって主に2つに分類されます。
一次性(家族性)HPS: 生まれつきの遺伝子異常が原因で発症します。乳幼児や小児期に発症することが多いです。
二次性(反応性)HPS: 他の基礎疾患に続発して発症します。成人での発症はこちらが多く、主な誘因として感染症で 特にEBウイルス感染症が多いですが、細菌や真菌感染症も原因となります。悪性腫瘍では 特にT細胞性/NK細胞性リンパ腫などに合併することが多いです。自己免疫疾患(膠原病)でも見られ この場合、マクロファージ活性化症候群(MAS)とも呼ばれます。
血球貪食症候群の主な症状は、過剰な炎症反応(サイトカインストーム)によるものです。持続性の高熱(1週間以上続くことが多い)。血球減少は白血球、赤血球、血小板の2系統以上が減少し、貧血や出血傾向、易感染性を引き起こします。臓器腫大 肝臓や脾臓、リンパ節の腫大が見られます。その他の症状は 肝機能障害、凝固異常、意識障害などの中枢神経症状、発疹、黄疸などが現れることもあります。
発熱、臓器腫大、血球減少といった臨床所見。
高フェリチン血症(診断の手がかりとして重要)。
骨髄穿刺を行い、活性化したマクロファージが血球を貪食している像(血球貪食像)を確認します。
マクロファージによる貪食とは何でしょうか?
マクロファージによる貪食(どんしょく、ファゴサイトーシス)とは、体内に侵入した異物や、体内で発生した不要な細胞などを取り込んで消化・排除する働きのことです。これは自然免疫における重要な防御機構です。
貪食される対象マクロファージはアメーバのように動きながら、以下のような様々な対象を貪食します。
病原体: 細菌やウイルス、真菌などの微生物。
死んだ細胞: アポトーシス(プログラムされた細胞死)を起こした細胞の残骸や、古くなった赤血球など。
異物: 体外から侵入した微粒子(シリカ、アスベストなど)や、体内で発生した異常なタンパク質の凝集物。
がん細胞: 体内で発生したがん細胞なども認識し、排除しようとします。
貪食の仕組みとプロセス
貪食は、主に以下のプロセスで進行します。
認識と結合: マクロファージは、異物や死細胞の表面にある特定の分子や、それらに結合した抗体(オプソニン)などを認識する「受容体」を持っています。この受容体が対象物に結合することで、貪食が開始されます。
取り込み(陥入): 結合後、マクロファージの細胞膜が陥入(内側にくぼむ)し、対象物を細胞内に取り込みます。取り込まれた対象物は「貪食空胞(ファゴソーム)」と呼ばれる袋状の構造体に包まれます。
消化と殺菌: 貪食空胞は、マクロファージ内にある「リソソーム」という消化酵素を豊富に含む小器官と融合します。これにより「ファゴリソソーム」が形成され、内部の消化酵素や活性酸素などによって、取り込まれた異物は分解・殺菌されます。
役割
マクロファージの貪食は、体を感染症から守るだけでなく、組織の恒常性を維持する上でも不可欠な「体の掃除屋」としての役割を担っています。また、単に取り除くだけでなく、取り込んだ異物の一部を他の免疫細胞(T細胞など)に提示する抗原提示という働きも持ち、獲得免疫応答の活性化にも関与します。
マクロファージによる貪食(どんしょく、ファゴサイトーシス)はウイルスに感染した様々な細胞も貪食しますか?
はい、マクロファージはウイルスに感染した細胞も貪食します。マクロファージは、細菌やウイルスなどの異物を貪食するだけでなく、ウイルスに感染して変性した細胞なども認識して取り込み、分解することで、感染の拡大を防ぎます。
異物を認識して貪食する: マクロファージの表面にある受容体が、細菌やウイルスのような異物を認識し、取り込みます。
感染した細胞も貪食する: 感染した細胞は、マクロファージに認識される目印(パターン)を表面に持っており、マクロファージがそれを貪食することで、ウイルスがさらに広がるのを防ぎます。
免疫システムを助ける: 貪食と同時に、マクロファージはサイトカインなどの情報伝達物質を放出し、他の免疫細胞(例えば、好中球やリンパ球)を呼び集めて、感染への対処を促します。
マクロファージによる貪食(どんしょく、ファゴサイトーシス)はEBイルスに感染した様々な細胞も貪食するのですがただし、ウイルスが細胞内に入り込んで増殖している状態では、マクロファージなどの貪食細胞は直接ウイルスを捕捉するのが難しくなります。このため、ウイルス感染細胞の除去には、主に以下のような免疫細胞との連携が重要となります。
ナチュラルキラー(NK)細胞:ウイルス感染細胞やがん細胞をいち早く認識して破壊します。
細胞障害性T細胞(キラーT細胞):NK細胞やヘルパーT細胞からの情報を受けて活性化し、ウイルス感染細胞を特異的に攻撃・破壊します。マクロファージは、これらの細胞によって破壊された感染細胞の断片や、細胞外へ放出されたウイルス粒子そのものを効率的に貪食・処理します。また、貪食したウイルスの断片を他の免疫細胞(T細胞など)に提示する「抗原提示」という役割も果たし、獲得免疫の活性化に貢献します。このように、マクロファージは他の免疫細胞と連携して、ウイルス感染防御の重要な役割を担っています。