ヘルペスウイルスが宿主細胞の染色体DNAに組み込まれるときに組み込まれる仕方とは以前から部位特異的DNA組み換えと言い続けてきましたが実はもっと勉強して分かったことがありますので今回訂正してお詫びします。ごめんなさい。
Herpesウイルスは、感染した細胞の核内で環状DNA(エピゾーム)として存在することが通常ですが、宿主細胞の染色体DNAに組み込まれることがあります。この組み込みは、レトロウイルスのような特定の機構によるものではなく、不規則な遺伝子組み換えの結果として起こると考えられています。
レトロウイルスの組み込みとは、レトロウイルスが宿主細胞に感染後、そのゲノム(遺伝情報)に自身の遺伝情報を挿入し、統合する過程です。まず、ウイルスは逆転写酵素を用いてRNAをDNAに変換し、次にインテグラーゼ酵素がそのDNAを宿主の染色体に組み込みます。この組み込みにより、ウイルスは感染細胞とともに増殖し、持続感染状態となります。
レトロウイルスのゲノムDNAの組み込みの過程。1.RNAのDNAへの変換(逆転写):レトロウイルスは、細胞に侵入後、ウイルスのゲノムであるRNAを、逆転写酵素を用いて二本鎖DNAに変換します。2.DNAの細胞核への移行:作成されたウイルスDNAは細胞核内へ移行します。3.宿主ゲノムへの統合(組み込み):インテグラーゼという酵素の働きにより、このウイルスDNAは宿主細胞の染色体DNAに組み込まれます。この組み込まれた状態のウイルスDNAはプロウイルスと呼ばれます。
レトロウイルスの感染細胞のゲノムDNAの組み込みの意義と影響。1.持続感染:プロウイルスは、宿主のDNAの一部となるため、細胞が分裂するたびに娘細胞へも受け継がれ、ウイルスの持続感染を可能にします。2.遺伝子導入:生物医学研究においては、レトロウイルスを遺伝子治療のベクターとして利用することがあります。この場合、目的の遺伝子をレトロウイルスに組み込み、宿主細胞のゲノムに恒久的に導入する目的で使われます。3.レトロウイルスによる疾患:①HIV(ヒト免疫不全ウイルス)などのレトロウイルスの場合、ゲノムDNAの組み込みが感染症や発がんといった疾患の原因となることがあります。②ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)HTLV-1の組み込みが白血病やリンパ腫(成人T細胞白血病/リンパ腫: ATLLなど)の原因となるレトロウイルスです。
herpesウイルスの感染細胞のゲノムDNAの組み込みの仕方の特徴。
1. ランダムな組み込み:例えばEBウイルスの組み込みは、特定の遺伝子配列や場所を標的とするわけではなく、ゲノム全体にわたって不規則に起こります。ただし、がん細胞では、特定の染色体領域(脆弱領域)への組み込みが頻繁に見られるという報告もあります。
2. 断片的な組み込み:EBウイルスゲノム全体が組み込まれることもありますが、多くの場合、ゲノムのごく一部が組み込まれます。過去の研究では、患者由来のバーキットリンパ腫細胞株で、ウイルスゲノムの断片が宿主DNAに組み込まれていたことが報告されています。
3. 非相同組換えによる組み込み:EBウイルスには、レトロウイルスが持つような、染色体への組み込みを仲介するインテグラーゼと呼ばれる酵素がありません。そのため、組み込みは、細胞が持つDNA修復や不規則な遺伝子組換え(非相同組換え)の過程で、偶発的に起こることもあります。特に、EBウイルスが溶菌サイクルに入った後や、細胞のDNAがダメージを受けた際に、ウイルスのDNA断片が宿主の染色体DNAに紛れ込みます。
4. 組み込み部位の偏り:胃がんや上咽頭がんといったEBウイルス関連悪性腫瘍の解析では、組み込みが起こる特定の宿主遺伝子座に偏りがあります。このような組み込みは、がん化に関わる重要な遺伝子の発現を変化させ、細胞の増殖に影響を与えます。例えば、EBウイルスが起こすーキットリンパ腫細胞株で、EBVゲノムが特定の染色体(第2染色体短腕2p13)の単一サイトに組み込まれています。
5. エピジェネティックな相互作用:組み込まれたEBウイルスは、エピジェネティックな変化を介して宿主細胞の遺伝子発現を制御することがあります。これにより、細胞の性質が変化し、がん化をさらに促進します。
エピジェネティックな遺伝子発現の相互作用とはDNAの塩基配列そのものを変えることなく、DNAやヒストンタンパク質の化学修飾によって遺伝子のオン・オフを制御し、その状態が細胞分裂で次世代に伝わる現象を指します。この作用により、同じDNA配列を持つ細胞でも、環境や細胞内外のシグナルに応じて多様な遺伝子発現パターンが生じ、細胞の分化や機能発現、あるいは環境への適応が可能になります。
エピジェネティックな遺伝子発現の相互作用の主なメカニズム:1.DNAメチル化:DNAの特定の塩基にメチル基が付加されることで、遺伝子の働きが抑制されます。
2.ヒストン修飾:DNAが巻き付いているヒストンタンパク質の化学修飾(アセチル化、メチル化など)により、DNAの巻きつき方が変化し、遺伝子の発現が調節されます。
3.クロマチンリモデリング:DNAとタンパク質の複合体であるクロマチン構造を変化させることで、特定の遺伝子へのアクセスが容易になったり、逆に困難になったりします。
4.非コーディングRNA:DNAに直接結合しないが、遺伝子発現を調節する短いRNAが、遺伝子発現に影響を与えることがあります。
エピジェネティックな遺伝子発現の主な役割:
1.細胞の分化と発生:同じゲノムを持つ細胞が、肝臓細胞や神経細胞などの異なる種類の細胞に分化する際、必要な遺伝子だけがオンになり、不要な遺伝子がオフになるように制御します。
2.環境への適応:生物が環境の変化(ストレス、栄養など)に対応するために、遺伝子発現パターンを変化させ、生存戦略を調整する役割を担います。
3.疾患との関連:DNAメチル化やヒストン修飾の異常は、がんやアルツハイマー病などの様々な疾患と関連していることが分かっています。
エピジェネティックな変化は可逆的であり、外部のシグナルによって調節されることが多い点が特徴です。この性質は、疾患の治療や予防に繋がる新しいアプローチの可能性を秘めています。エピジェネティックな変化は可逆的であり、外部のシグナルによって調節されることが多いのでエピジェネティックな変化による癌はヘルペスによる癌と比べて進行することは心配することはないのです。9・16今日はここまで