ヘルペスウイルスが自分のゲノムを感染細胞のゲノムに組み込んで感染細胞のゲノムの遺伝子を突然変異させて癌遺伝子させたり、癌関連遺伝子以外の遺伝子を突然変異させて先天的な遺伝子病のみならず後天的な遺伝子病を起こしたり、遺伝子の塩基の配列を変えたりして正常な蛋白を異常な変性した蛋白を作ってしまう遺伝子の組み替えはどのようにして起こるのでしょうか?ついでに今はやりのゲノム編集とは何であるかや、遺伝子組換えとゲノム編集との違いについて解説しましょう。
Herpesウイルスによる遺伝子組換えはヒトが持つ遺伝子(DNA)の一部を、herpesウイルスが感染したヒトの細胞の遺伝子に導入して、herpesの遺伝子を発現させることです。herpesの遺伝子を発現させというのはヘルペス自身が持っている遺伝子の情報をもとにして異常なタンパク質が合成されることであり遺伝子の変化として起こるあらゆる様々な病気の原因となっているのです。遺伝子組み換えとはどういう仕組みで起こるのでしょうか?
遺伝子組換えとは 遺伝子の本体は、細胞の核の中の「DNA(デオキシリボ核酸)」と呼ばれる化学物質です。 遺伝子組換え技術とは、ある生物が持つ遺伝子(DNA)の一部を、他の生物の細胞に導入して、その遺伝子を発現(遺伝子の情報をもとにしてタンパク質が合成されること)させる技術のことです一方、ゲノム編集とは、生物が持つゲノムDNA上の特定の塩基配列を狙って変化させる技術です。自然に起こりうる遺伝子の変化を人為的に誘発することがゲノム編集の特徴です。ゲノム編集に使用される、現在主流となっているツールCRISPR-Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats-CRISPR associated protein 9:クリスパー・キャスナイン)は、日本人研究者による発見がきっかけとなって開発されました。
ヘルペスウイルスのエンベロープは核膜が用いられています。
DNAヘルペスウイルスの複製は核の中で行われる。複製の各段階ではそれぞれ異なるウイルス遺伝子が発現される。早期は複製制御活性を持つ蛋白や複製時に用いる酵素に関わるものです。後期に発現するものにはウイルス粒子を形成する構造タンパク質などがある。単純な構造のDNAヘルペスウイルスは宿主細胞のDNA合成機構を使用する。ヘルペスウイルスは賢いので宿主細胞の機能を自身の複製に有利なように変化させます。更にそうした変化に対抗する細胞の機能や宿主の免疫系を阻害できます。
ヘルペスウイルスは免疫回避の天才と述べてもいいくらいに免疫の直接的な阻害が極めて優れています。ヘルペスウイルスファミリーのメンバーによって戦略が異なります。例えばサイトメガロウイルスによるMHC-1の発現減少、単純ヘルペスウイルスによるMHC-1へのペプチド輸送の阻害、エプスタイン・バーウイルスによるMHC-Ⅱへの提示阻害とエプスタイン・バーウイルスによるサイトカイン合成阻害作用を持つIL-10ホモログの産生、カポジ肉腫ウイルスによるアポトーシス阻害などがあります。
特にサイトメガロウイルスはMHC-1の発現阻害を徹底的に行うのです。更にサイトメガロウイルスはMHC-1の発現・機能・輸送も阻害します。具体的にはMHC-1分子に提示されるペプチドを作る過程を阻害したり、MHC-1分子お機能を阻害するサイトカイン類似物質を産生したり細胞の蛋白を模倣したりします。とりわけ、最もずる賢いのはサイトメガロウイルスは自分自身を感染細胞の蛋白質で覆っていることですから、免疫系から逃れられるのみならずMHC-1の抗原提示の機能を阻害することが出来るのです。というのも抗原提示細胞から隔離しているタンパク質はMHC-1分子に必須なβ2ミクログロブリンだからであります。
ヘルペスウイルス科のすべてのメンバーによる免疫回避の例をすべてあげましょう。①~⑨はヘルペスが能動的かつ積極的に人の免疫機構を直接に妨害して免役を回避している例です。⑩~⑫までは受動的にヘルペスウイルス科のvirusの免疫回避の例です。受動的にと言う意味は免疫機構を直接に妨害して免役を回避しているのではなくてherpes自身が他の免疫からの作用に対して受け身的に免疫から回避する反応です。
①herpesウイルス科のすべてのherpesは免疫細胞に感染出来ます。
②補体機能に対する妨害があるので感染初期の免疫に極めて大切な補体の働きが発揮できません。
③MHC-1の抗原提示の機能を妨害するのはサイトメガロウイルスだけではなくherpesのすべてができるのです。
④MHC-Ⅱ提示に対しての妨害。
⑤MHC-1ホモログを介してNK細胞をも阻害できます。ヘルペスにとっては癌をも殺すと言われているNK細胞をも阻止できるのです。ホモログとは相同体と訳します。 ここでは類似した塩基配列を持つ遺伝子など、2つ以上の生物種で似ている成分で、共通祖先に帰します。進化系統上で同一の祖先から派生した、類似性の高い器官や組織や、遺伝子などの一群で、同族とも言います。NK細胞で癌herpesが原因である癌が治せるはずがないのです。
⑥病原体を敵と自然免疫の見分けることが出来るToll like receptor(Toll 様受容体)機能に対する阻害ができます。ヘルペスがひとたび人に感染すれば自然免疫も獲得免疫も手も足も出ないのは当然なのです。だからこそherpesに対するワクチンは絶対に作れないのです。
⑦サイトカイン産生に対する妨害やサイトカインの作用に対する妨害もするのです。
⑧様々なインターフェロンの作用に対する妨害があります。
⑨アポトーシスに対する妨害。癌に見られる癌抑制遺伝子のP53が癌をアポトーシスできないのは癌の原因はherpesであるからです。
⑩ヘルペスは感染している宿主の分子を模倣してヘルペスウイルス抗原が宿主タンパク質にあるエピトープを模倣できるのです。エピトープとは、抗原決定基とも呼ばれ、免疫系、特に抗体、B細胞、T細胞によって認識される抗原の一部です。抗体は、病原微生物や高分子物質などの抗原と結合する際、その全体を認識するわけではなく、抗原の比較的小さな特定の部分のみを認識して結合する。この抗体結合部位を抗原のエピトープと呼ぶ。ヘルペスは免疫系は自己成分であるエピトープを攻撃することは絶対に無いことを知っているので宿主蛋白のエピトープを模倣して免疫の攻撃から逃れているのです。分子擬態とも呼ばれます。従って皮肉なことにherpes自身も自己免疫疾患は免疫が起こすことは無いことを知っているのですが阿呆な医者たちはherpesがおこした病気を自己免疫疾患と称して病人をいじめているのです。哀しいですね。
⑪virusの遮断。herpesウイルスを免疫に見つからないように遮断することです。次の潜伏感染が最高の免疫からの遮断になります。エピソームも免疫からherpesを遮断できる方法の一つです。
細胞が本来もっている染色体とは別に,比較的短い環状DNAが独立した染色体として安定的に維持されたもの.すべてのヘルペスウイルスは自然宿主に潜伏感染を成立させるが,いずれもこの形態を細胞質でも核の中でもとるのです。B細胞に潜伏するエエプスタイン・バー(EBV)の場合,B細胞の分裂に伴ってエピソームは娘細胞に分配されます。
⑫潜伏感染をする。ヘルペスウイルスのゲノムを感染細胞のゲノムに組み込んで潜伏感染を行なうのも免疫系から隠れる方法の一つです。潜伏感染の間はherpesウイルスは増殖はできないのですが免疫が落ちると細胞の分裂・増殖に歩調を合わせて自分の子孫である感染力の強いビリオン粒子を増やしてしまうのです。これがウイルスの再活性化でありその結果溶解感染と言われる細胞崩壊をもたらし細胞自身も生きられなくなって細胞が死んでしまうことも有るのです。潜伏感染の定義とはなんでしょうか?細胞のゲノムに潜んだヘルペスウイルスのゲノムのごく限られた部位の遺伝子が活性化しているだけでherpesウイルスの複製が起こっていないことです。例えば単純ヘルペス感染では急性感染後に神経節の神経組織の細胞において潜伏感染状態となります。この潜伏感染ではヘルペスウイルスのごく限られた遺伝子部位のみが活性化しており潜伏感染から増殖に関与している三つのRNA潜伏関連転写物 (latency-associated transcript略してLAT)を産生しています。この三つのRNA潜伏関連転写物の中で全長8・3kbの転写物は低いレベルで存在するが、残りの二つの転写物はそれよりも多く発現しています。これらのLATは増殖感染に必要な蛋白質発現を抑制することでherpesの潜伏状態を維持する役割を担っているのです。
潜伏している間、単純ヘルペスのゲノムはエピソームとして維持されLAT転写物のみを発現しているだけです。しかし染色体に組み込まれたりゲノムや、あるいは自己複製できる染色体外核酸であるエピソームとして留まってヘルペスウイルスが細胞内に潜伏感染しているのです。
ヘルペスの急性感染期には70種以上のタンパク質とそれらに対応するmRNA産生されているのはきわめて対照的です。ヘルペスウイルスは潜伏期には事実上沈黙して隠れており免疫系による抗原提示の対象にもならず宿主に対する影響もほとんどないのです。
潜伏感染のもう一つの形態はプロウイルスの組み込みと言われる状態でherpesウイルスゲノムはDNAにコピーされ細胞の染色体DNAに組み込まれてしまうのです。プロウイルス とは、宿主細胞のDNAに統合されたウイルスゲノムのことです。組み込まれたヘルペスウイルスDNAは宿主細胞のDNAとともに複製されるのでヘルペスウイルスが増殖するのは免疫が下がって宿主細胞の分裂・増殖する機会を狙って増えるのです。
ヘルペスウイルスが細胞に感染すると更に大きな問題を引き起こすのです。それは細胞のゲノムに潜伏したり増殖するときに細胞の遺伝子を突然変異させる形質転換(transformation)を引き起こし癌を作り出す800個もある癌関連遺伝子の少なくとも二つを癌遺伝子にしてしまうと一個の癌細胞が誕生してしまうのです。形質転換した細胞の遺伝子は癌関連遺伝子だけを変異させるのではなく同時に23500個の様々な遺伝子も突然変異を起こしているので形質転換した細胞は以下のような多くの変わった性質を表すのです。
①細胞増殖の制御の欠如が見られます。具体的には細胞密度の抑制の欠如、増殖因子依存性の欠如、足場依存性の欠如です。足場依存性とは生体から分離した細胞を培養するとき、培養皿に接着しない細胞は増殖することができません。 それどころかアポトーシスとよばれる自発的な死のプログラムを作動させて、細胞は自ら死んでしまいます。 この現象は細胞増殖の足場依存性と呼ばれていて、生きた人を含む動物の身体をつくるすべての細胞で観察される基本的な属性です。
②細胞の外形や構造の変化が起こり、細胞骨格の変化、異常な細胞表面タンパク質の発現、細胞接着力の減少、タンパク質分解酵素の分泌が起こるなどの変化です。
③異常な染色体数が見られます。これを染色体の異数性と呼びます。
④転写状態の変化と増殖因子産生の様式の変化が起こります。
⑤人に由来する培養細胞の不死化と言われる無限増殖性が見られます。
⑥細胞がヘルペスウイルスにより形質転換されるとき多くの場合、細胞ゲノムに組み込まれて存在するのです。
⑦癌に関連する遺伝子(oncogene)が発現して細胞機能が変化して癌になる。
⑧ウイルス感染による形質転換は不完全な感染の結果なのです。ウイルスはウイルス自身のDNAを複製させるのに必要な酵素を得るために、分裂していない静止期の細胞にはない酵素を得るために宿主細胞の複製を誘導することもある。もし感染が進行して細胞が死んでしまうと細胞はそれ以上の増殖はできません。もし感染が不完全で細胞が死ななければ細胞は制御不能な異常な増殖を始めてしまいます。その時ヘルペスウイルスの細胞のDNAに組み込まれたウイルスゲノム断片により細胞の遺伝子発現が変化してしまいます。この時ヘルペスDNAは正常なウイルスの生活環の一部として細胞DNAに組み込まれます。細胞遺伝子への組み込みの結果形質転換を引き起こし原因不明な様々な病気が生まれるのです。
ヘルペスによる免疫回避機構の中には能動的免疫回避と受動的免疫回避の療法の要素を持つものがあります。ヘルペスウイルスによるFc受容体の産生は免疫グロブリン(抗体)の尻尾の部分にあるFc領域と結合して覆うことによってherpesウイルスを見えなくして隠し又その結果として免疫グロブリンのFabレセプターでherpesウイルスを捕縛する機能を妨害できるのです。能動的免疫回避機構はヘルペスウイルスによるFc受容体の産生であり受動的免疫回避機構はherpesのFc受容体と抗体のFc領域が結合してしまうことです。
ヘルペスウイルスの発癌の仕組みはどうなっているのでしょうか?
感染細胞の形質転換はヘルペスウイルスの潜伏性ウイルスによる作用であり又潜伏感染ウイルス以外のウイルス感染にもよく見られる副産物です。感染細胞がゲノムのあちこちを形質転換をさせると増殖に対する統制が無くなってしまいその結果形質転換した細胞が積極的に増殖するようになります。形質転換はherpesウイルスによって誘導された細胞の遺伝子変異や細胞の形質転換による癌関連遺伝子の突然変異によって癌細胞が発生するのです。
形質転換した細胞は正常な増殖制限の喪失や抑制の喪失、異常な細胞表面タンパク質の発現、ウイルス遺伝子や遺伝子断片の挿入のようながんと関連した特徴を示します。
形質転換は発癌の最初の段階であり形質転換細胞から実際に癌細胞が生まれるのですが癌にならないそれ以外の形質転換細胞は癌を引き起こすことはできないのです。発癌には形質転換は必要条件ではありますが形質転換は癌の多段階発生の初期段階であり他の要因も必要なのです。さらなる要因には癌に対する免疫監視システムであり、特に細胞障害性T細胞(キラー細胞)による応答です。さらに増殖を支えるのに必要なハウスキーピング機能も必要であり組織の増殖をサポートする新しい血管形成、血管新生を誘導する能力も必要です。この段階で大変重要なのはp53遺伝子やRb遺伝子などの宿主細胞の持っている癌関連遺伝子の残りの遺伝子である癌抑制遺伝子の活性です。すでに述べたように癌関連遺伝子には二つあり一つは癌原遺伝子と残りの一つは癌抑制遺伝子です。この二つの癌関連遺伝子が二つとも突然変異してしまえば癌細胞の発生となるのです。癌抑制遺伝子であるp53遺伝子は遺伝子の守護者とも言われておりp53遺伝子の役割はDNAの安定と傷ついたDNAの修復、細胞周期の制御、アポトーシスのかいしにおける役割によって癌にならないための正常細胞の機能を保証してくれる遺伝子なのです。
p53遺伝子の機能が喪失すると異常な細胞機能を防御するための非常に多くの制御手段が失われてしまうのです。一方Rbタンパク質は細胞周期の調節に重要で細胞分裂開始を制御するのです。p53遺伝子と同様にRb遺伝子の変異は癌の進展と密接に関連しているのです。
ウイルスDNAが宿主のDNAに組み込まれることによりウイルス遺伝子の制御が失われたり、あるいはウイルスのDNA近くに位置する細胞の遺伝子の塩基の配列が変化してしまって近くの遺伝子の制御も変わって形質転換が生じてしまいます。この様な形質転換はウイルスDNAが不活性の場合も起き安定的な遺伝子組み込みと発癌性を有する遺伝子組み込みとの差異は非常に少ないと言えるのです。
1. ゲノム編集とは簡単にいえば何?
ゲノム編集とは簡単にいえば、生物が持つゲノムDNA上の特定の塩基配列を狙って、その孫部分の塩基配列だけを変化させる技術です。
ゲノムとは、生物の細胞内にあるDNA、およびそこに書き込まれた遺伝情報の全体を意味します。ヒトであれば23対の染色体に分けられて、細胞の核の中に全部収められています。遺伝情報はアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類の塩基の配列として構成され、親から子へ受け継がれます。
ゲノム編集技術は、このゲノムDNA上の特定の場所を狙い、ハサミの役目をするツールを使って切断します。切断されたゲノムは、生物に備えられているゲノム修復機構によって修復されますが、まれに修復ミスにより突然変異が起こります。この突然変異を利用して生物の性質を変化させ、目的に合った性質を持つ生物を作り出します。
ゲノム編集技術は、新たな治療技術の創出、創薬の加速、農作物の品種改良などによる食糧問題の解決、植物の光合成効率化・長寿命化などによる環境問題の解決など、さまざまな分野での応用が期待されています。その一方、狙った場所以外の塩基配列が変異することなどの危険性を指摘する声もあります。
2. ゲノム編集と遺伝子組換えの違いとは?
ゲノム編集と似た意味の言葉として「遺伝子組換え」があります。ここでは、ゲノム編集と遺伝子組換えの違いについて見ていきましょう。
遺伝子組換えとは、ある生物に「科」が異なる生物由来の遺伝子を導入することにより、細胞に新たな性質を付け加える技術です。遺伝子とはゲノムの一部分を意味し、たとえば顔や皮膚、目の色など生物の形質を決定づける情報です。遺伝子を構成するDNAの配列情報は、タンパク質を構成するアミノ酸の配列情報に変換され、タンパク質の設計図としての役割を果たします。
導入する遺伝子は、たがいに交配できない、異なる生物種のものも利用できます。たとえば植物に対し、微生物や動物の遺伝子の導入も可能です。
それに対してゲノム編集は、前述のとおりゲノムを切断し、突然変異を起こさせることにより、その生物に元からある性質を変化させるものです。したがって、結果として得られる新しい性質が、細胞の外部から導入されたものなのか、それとも細胞内部で変化したものなのかが、細胞の外部から導入されると遺伝子組換えとなり細胞内部で変化させるとゲノム編集となるのです。
ただし、植物のゲノム編集においては、ハサミの役目をするツールを発現するための遺伝子を、遺伝子組換え技術によって導入することもあるため、ゲノム編集と遺伝子組換えの違いがわかりにくくなってしまうところがあります。しかし、ゲノム編集生物から「ハサミ遺伝子」を、交配により取り除いてしまえば、導入した遺伝子が機能し続ける一般の遺伝子組換え生物とは異なるものとなります。
(交配によってハサミ遺伝子を取り除けるのは、交配後の次の世代にはメンデルの法則に従って、ハサミ遺伝子が受け継がれない個体が4分の1の確率で出てくるからです。)
動物のゲノム編集では、ハサミの役割をする酵素などが細胞内に直接注入される場合もあります。注入された酵素は次世代には残らないため、植物のゲノム編集と比べると遺伝子組換えとの違いがはっきりとしています。ハサミ遺伝子とは何でしょうか?“ハサミ遺伝子”とは特定の配列を認識し、DNAを切断するように設計した酵素をハサミ酵素と呼びます。ハサミ遺伝子は このハサミ酵素の遺伝子のことです。 細胞の中にはDNAを切断する機能を持つDNA切断酵素が色々と存在しています。
3. ゲノム編集技術 開発の歴史
次に、ゲノム編集技術の開発の歴史を見ていきましょう。
ゲノムの切断による突然変異の誘発自体は、古くから行われてきています。1950年以降には、放射線による突然変異の導入が農作物に対して行われ、「ゴールド二十世紀」をはじめとする多くの品種が作られました。
しかし、放射線などによるゲノムの切断は、ゲノム上のランダムな場所に起こります。それに対して、ゲノム上の狙った場所の切断を可能としたのがゲノム編集技術です。ゲノム編集技術で用いられるDNA切断酵素「人工ヌクレアーゼ」は、以下で見ていくとおりZFN(zinc-finger nuclease:ジンクフィンガーヌクレアーゼ)、TALEN(transcription activator-like effector nuclease:ターレン)、CRISPR-Cas9の3つに大別され、それぞれ利点・欠点を持っています。
3-1. ZFN
最初の人工ヌクレアーゼは、1996年に開発されたZFNです。ZFNは「制限酵素」を元にして作られました。制限酵素とは、細菌中で増殖するウイルスである「ファージ」などから、細菌が身を守るための防御機構です。侵入してくるファージなどのDNAを制限酵素が切断し、不活性化します。
多くの制限酵素は、ゲノムDNA上の4~6個の塩基の特定の配列を認識し、その場所を切断します。しかし、4~6個の塩基では、同じ配列がゲノムDNA上に多数存在することになり、制限酵素をただ使ったのではゲノムはバラバラになってしまいます。
そこで、より多くの数の塩基配列を認識できるように人工的に作られたのが、ZFNです。 ZNFは、DNAの認識・結合を担うZFと、DNAの切断を行うFok1から構成されます。ZFは3個の塩基配列を認識でき、ZNFではこのZFを複数個連結して使用します。
4つのZFを連結すれば12塩基、それをペアで使用することにより24塩基が認識できます。24塩基の配列は、哺乳類のゲノムであれば理論的に1カ所にしか現れないため、狙いを定めた特定の場所の切断が可能となるのです。
ただし、ZFNは作製が難しく、作製を一部の企業に頼らざるを得ませんでした。
3-2. TALEN
ZFNの次に開発された人工ヌクレアーゼは、2010年に米国のグループにより発表されたTALENです。ZFNと同様に制限酵素を元に作られます。TALENのDNA認識・結合部分「TALEタンパク質」は、一組で30~40の塩基配列の認識が可能です。
TALEタンパク質はそれ以前にすでに作製法が確立されていたため、ZFNと比べると作製が容易です。そのため、発表されるとすぐにゲノム編集技術の主役となりました。しかしそれでも、作製にはかなりの労力が必要です。
3-3. CRISPR-Cas9
2012年に、ZFNやTALENより、さらに簡便に作製できる人工ヌクレアーゼが開発されました。それが、CRISPR-Cas9です。作製が簡便・高効率なことに加え、基礎研究なら誰でも自由に使えるため、急速に広がって現在の主流となっています。
CRISPR-Cas9の作製が簡便なのは、DNA認識・結合部分に酵素ではなく、RNAを用いるからです。
RNAとは、DNAと同じ核酸です。前述のとおりDNAがA、T、G、Cの4種類の塩基から構成されるのに対し、RNAはA、U(ウラシル)、G、Cの4種類の塩基から構成され、DNAのように2本鎖ではなく1本鎖の形をとります。 DNAの塩基A、T、G、CはRNAの塩基U、A、C、Gとそれぞれ水素結合を形成します。そのため、DNAの特定の塩基配列と水素結合できる塩基配列(「相補的」な塩基配列)のRNAは、そのDNA塩基配列の認識・結合に使用できることになります。
CRISPR-Cas9は、標的とするDNA配列と相補的な配列を持つガイドRNA(gRNA)と、DNA切断を行うタンパク質Cas9により構成されます。gRNAは化学合成により作製できるため、作製に煩雑な過程を要する酵素をDNA認識・結合のために使用するZFNやTALENと比べ、作製がはるかに簡便になるというわけです。
CRISPR-Cas9はもともと日本人研究者により発見された人工ヌクレアーゼです。
CRSIPR-Cas9はもともと、1996年に石野良純 現九州大学農学研究院教授により発見されました。大腸菌のゲノムの中に、一定の長さのスペーサーをはさんだ奇妙な繰り返し配列が存在することを見つけたのです。この奇妙な繰り返し配列は他の細菌などのゲノムにも存在することがわかり、2002年にCRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)と名付けられたものの、その意味や役割は不明でした。
その後の研究により、CRISPRは細菌だけに感染するウイルスであるファージなどのDNAから、細菌が身を守るための免疫システムであることが明らかになりました。侵入してきたファージなどのDNAは、Casタンパク質により断片化され、細菌のゲノムにCRISPRとして取込まれ、細胞に記憶されます。次に同じDNAが侵入すると、ゲノム中のCRISPRから相補的な塩基配列のRNAが作られます。このRNAがCasタンパク質などと複合体を形成し、侵入してきたDNAに結合して、侵入してきたDNA鎖を切断・不活性化します。
2012年に米カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ博士と、独マックスプランク研究所のエマニュエル・シャルパンティエ博士のグループが、Casタンパク質のうちCas9を使用したCRISPR-Cas9により、標的DNAの切断が試験管内で行なえることを示しました。この成果により、CRISPR-Cas9がゲノム編集に用いられることとなり、ダウドナ、シャルパンティエ両博士はノーベル化学賞を2020年に受賞しました。
4. ゲノム編集技術の問題点・危険性
以上のようにゲノム編集は、ゲノムの中の狙った部分を切断して突然変異を誘発し、生物の性質を改変する技術です。このゲノム編集技術にどのような問題点や危険性があるのかを見てみましょう。
4-1. 食品における問題点・危険性
ゲノム編集された食品については、①ハサミ遺伝子が細胞内に残る、②狙った場所以外が切断される「オフターゲット変異」が起こる、の問題点が指摘されています。しかし、ハサミ遺伝子が取り除かれた場合は、健康被害などのリスクは従来の品種改良と同程度とみなされるため、遺伝子組換え食品で必要となる審査は求められず、届け出だけが必要となっています。
① ハサミ遺伝子が細胞内に残る
特に植物の場合、細胞壁があることや技術的な障壁があり、CRISPR-Cas9を細胞内にそのまま導入するのは容易ではありません。そのため、前述のとおりいったん遺伝子組換えの手法でCRISPR-Cas9の遺伝子をゲノムに組込み、細胞内でCRISPR-Cas9が作られるようにすることが一般的です。
もし、このCRISPR-Cas9の遺伝子がゲノム中に残ったままなら、その植物を食品として流通させる場合には「遺伝子組換え生物」に該当し、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)の規制対象となります。
しかし、このゲノムに導入されたCRISPR-Cas9遺伝子は、交配によりあとから取り除くことが可能です。そのため、CRISPR-Cas9遺伝子が取り除かれたゲノム編集植物はカルタヘナ法の規制対象外となり、所轄官庁への情報提供だけが求められることとなっています。
② 狙った場所以外が切断される「オフターゲット変異」が起こる
ゲノム編集においては「オフターゲット変異」が起こる可能性があります。オフターゲット変異とは、人工ヌクレアーゼが本来狙う塩基配列と、よく似た別の塩基配列があった場合に、そちらに結合・切断して変異が生じてしまうことです。本来狙った場所と別の場所を切断してしまうオフターゲット変異により、予期しなかった危険なものが生まれてしまう可能性が全くないとはいえません。
このオフターゲット変異についても、以前から用いられている品種改良技術で起こる突然変異と区別できないとの理由で、日本においては大きく問題視されていません。
ゲノム編集食品は、遺伝子組換え食品が必要とされる食品安全委員会による安全性審査は求められず、利用したゲノム編集技術の方法や内容、CRISPR-Cas9遺伝子が残っていないことの確認などについての、厚生労働省への届け出だけが必要とされています。
海外では、南米諸国やオーストラリアなどは日本と同様に、外来遺伝子が残存していないことが確認されれば規制対象外としています。EUやニュージーランドは、遺伝子組換え食品と同様の規制を受けます。
アメリカでは、作物については日本と同様、外来遺伝子が残存していなければ規制対象外となります。その一方、動物については、遺伝子組換え生物として扱われる方針が打ち出されています。
4-2. 人間に適用する場合の問題点・危険性
ゲノム編集を人間の細胞に適用するケースは、①治療目的で体細胞に適用する、②生殖細胞に適用する、の2つがあります。問題点や危険性は、この2つで大きく異なります。
① 治療目的で体細胞に適用する
治療目的で体細胞に対しゲノム編集を行う場合にまず懸念されるのは、オフターゲット変異が発生することによるがん化などのリスクです。オフターゲット変異により、がん遺伝子の活性化、あるいはがん抑制遺伝子の不活性化などが起こる可能性があるからです。
また、ゲノム切断に伴いゲノムが不安定化し、ゲノムの大規模欠損や目的外配列の挿入などが起こるリスクもあります。
ゲノム編集を治療目的で体細胞に適用する場合には以上のようなリスクがあるため、これらのリスクを最小化するための技術開発が進められています。
② 生殖細胞に適用する
人間の生殖細胞に対するゲノム編集の適用は、生殖細胞の初期発生、発育などに未解明な点が多いこと、また次世代に対する予想できない影響があり得ることから、日本では「遺伝子治療等臨床研究に関する指針」により禁止されています。海外でも多くの国が、指針または法律で禁止しています。