コラム ネフローゼ症候群

ネフローゼ症候群はどのように生じるのでしょうか?更新2023.4.30

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まず糸球体腎炎とネフローゼ症候群とは始まりは全く違う病気でありますが最後は腎不全になるのは同じです。糸球体腎炎は糸球体の内側からherpesが機能を失なわせるのですがネフローゼ症候群は糸球体の外側からherpesが機能を失なわせ最後は最悪の場合はふたつとも糸球体機能不全となるのです。腎臓は、血液を濾過して尿を作っています。腎臓で代謝によって生じた老廃物が濾過され流れ出ていく足細胞のの穴が大きくなりタンパク質のアルブミンが尿に多量に漏れ出てしまうと、血液中のアルブミン濃度が薄くなってしまいます。血中のアルブミンが減ると血管の外にある水分を血管に再吸収できないので、むくんで浮腫になってしまう病気がネフローゼです。むくみは足だけでなく、手や目の周りもむくみ、体内に水がたまることにより体重が急激に増加し、だるさ、疲れやすさを感じたり、進行すると肺や(胸水)お腹にまで水がたまり(腹水)、息苦しさや食欲低下、腹痛が見られ、男性であれば陰嚢に水がたまること(陰嚢水腫)もあります。以上の症状に加えて尿蛋白が1日3.5g以上、血液のアルブミン濃度が3.0g/dL以下になった場合にネフローゼ症候群と呼んでいます。ネフローゼ症候群では高コレステロール血症も見られ診断の補助になります。なぜでしょうか?血液からタンパク質のアルブミンが不足した状態であると認識した人間の体は、「アルブミン」と呼ばれるタンパク質を肝臓で作られるのですが、この「アルブミン」という蛋白を産生するときに仲間であるほかの蛋白も一緒にに生成されてしまい、その一つが「リポタンパク」というコレステロールを運ぶ蛋白なのです。肝臓で作られた「リポタンパク」は血液中に入ると運ぶ脂質の量が急激に上げるため、高コレステロール血症になってしまうのです。血液検査ではコレステロールという検査項目になっていますがじつはコレステロールを測定しているのではなくコレステロールを運ぶ蛋白を測定しているのです。コレステロールは脂肪ですから血液では解けないので水に溶けるリポ蛋白という蛋白に運んでもらっているのです。

それではネフローゼ症候群はどのようにして生じるのでしょうか?アルブミンが不足して生ずるネフローゼ症候群を起こす原因のうち、アルブミンが減る明らかな原因がないものを一次性ネフローゼ症候群といい、全身性疾患によってアルブミンが減って生じてネフローゼ症候群をきたすものを二次性ネフローゼ症候群といいます。明らかな原因がないものを一次性ネフローゼ症候群と言われますが実は原因不明の一次性ネフローゼ症候群の原因もherpesなのです。糸球体の外面を覆っている上皮細胞の足細胞に Herpesが感染することから始まります。一方糸球体腎炎は糸球体の内側にあるメサンギウム細胞に Herpesが感染することから始まります。

それでは足細胞(podocytes)とは何でしょうか?足細胞(podocytes日本語でポドサイト)は高度に分化した,核や ゴルジ装置が局在する大きな細胞体を持つ細胞でありますが分裂ができない細胞なのです。突起を持っているのでその外観からタコ足細胞とも呼ばれています。糸球体基底膜を外側から覆い糸球体の表面(外面)をなす上皮細胞で糸球体の外部にいる病原体から糸球体を守っています。一方メサンギウム細胞は,糸球体の内面(内側)にあり糸球体の内部に侵入する病原体から守っています。足細胞はタコ足と言われる独特な突起構築を持つことで血漿タンパク質が尿中へ漏れ出るのを防ぎぐ重要な役割も持っています。成熟足細胞は3つのコンパートメントである細胞体,一次突起,足突起からなり,これらが順に連なり構造階層を形成しているのです。一次突起とは細胞体から直接伸びる太い突起で,一次突起から出る細い突起が足突起であり、隣接する足細胞同士は足突起によって噛み合っており,スリット間隙と言われる足突起間の隙間を通じて濾過が行われます。スリット間隙には特殊化したタイト結合であるスリット膜が張られています。タイト結合とは密着結合(英語でtight junctionタイトジャンクション)とは、隣り合う上皮細胞をつなぎ、さまざまな分子細胞間を通過するのを防ぐ、細胞間結合のひとつです。スリット膜は,血漿タンパク質のアルブミンなどが尿に漏出を防ぐ血液濾過の 最終バリア(障壁)としての機能を持っています。したがっ て足突起が消失するとスリット膜も消失して著明な蛋白尿が引き 起こされるのです。ポドサイトの他の生理的機能は,糸球体係締壁の安定化,糸球体基底膜の分解と産生,メサンギウム細胞と同じような免疫学的機能も有しています。糸球体係締壁とは下の左図でお分かりになるように係締壁とも言い糸球体上皮細胞の足細胞と血管内細胞と糸球体基底膜の三つから成り立っています。

ポドサイト障害の早期に は,まず足突起間の隙間にあるスリット膜の分子構造の変化が認めら れ,足突起の細胞骨格の分布が変化し,足突起 は消失して足突起 同士の噛 み合わせを失います。Herpesによるポドサイト障害の持続はポドサイトのアポトーシスを含む細胞死により,ポドサイトの糸球体基底膜からの脱落を引き起こします。アポトーシスは、アポプトーシス (apoptosis) とも言い、多細胞生物の体を構成する細胞の死に方の一種で、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされます。免疫では殺しきれないherpesを自分で殺すために最後の手段である細胞自身も共に死ぬ自爆テロであり遺伝子によって管理かつ調節された細胞の自殺つまり遺伝子によってプログラムされた細胞死です。細胞自殺にはカスパーゼという酵素が用いられます。さらに,ポドサイトの糸球体基底膜からの脱落により線維化が生じて 糸球体硬化を引き起こし最後には慢性腎不全へと進行して行くのです。

 なぜ以上のような足細胞にherpesが感染し始まったネフローゼ症候群から,つるべ落としのように糸球体硬化へと悪化して最後に腎不全にいたる過程がどんどん進行するのでしょうか?それは足細胞はひとたびヘルペスに破壊されると残された足細胞は細胞分裂ができない細胞なので減るばかりで死んだあとは線維化して硬くなってしまいしまい、糸球体の外面は硬化してしまい最後は糸球体全体が硬化症となっていくのです。腎臓の糸球体にある糸球体足細胞は複雑な突起構造を持ちますが、腎疾患になると足細胞は突起構造を失い、扁平な形状に変化します。足細胞に感染したヘルペスは足細胞の遺伝子に入り込み足細胞が濾過作用に必要なタンパクの 遺伝子に変異を起こし足細胞の正常な形態を維持できなくなり濾過の障壁が破壊され修復のためにアクチン骨格 の再構成を図ろうとするのですが、その間に濾過液が通っていく穴が大きくなってアルブミンが流出していくのです。 

 ネフローゼ症候群の代表的な疾患は微小変化型ネフローゼ症候群です主に小児に見られる糸球体疾患で、足細胞の傷害により、大量のタンパク尿を生じ足突起消失が糸球体の広範囲に起こりますが、腎生検で病理組織学的に光学顕微鏡で調べても糸球体の障害をほとんど変化を認めないのですが高度蛋白尿, 低蛋白血症,浮腫が見られます。ステロイド に良好に反応することが知られ予後良好とされ ていますが,一方で再発を繰り返しやすく,ステ ロイドの長期投与による副作用が臨床上問題と なります。水痘が重症化しかつ、帯状庖疹が増加するのは微小変化型ネフローゼ症候群の原因は元々herpesであるからです。

 メサンギウム細胞にherpesが感染して起こる糸球体腎炎と上皮細胞の足細胞にherpesが感染して起こるネフローゼ症候群との違いは最初に糸球体のろ過システムを成り立たせている重要な細胞のうちherpesが最初に感染するのはどの細胞であるのかの違いです。最初に感染した細胞がメサンギウム細胞と足細胞の違いだけです。もちろん同時感染もあるでしょうが。

ネフローゼ症候群と腎不全の違いに関しては、症状の違いもあります。血圧異常などの症状が現れるようになっていますが、尿が出ているのでまだ腎機能があるというところが違いとなっています。したがってこの状態であれば透析をしなければいけないと言うことはありません。ネフローゼ症候群はとくに子供に発症が多く見られます。腎不全となってしまうと、腎機能がなくなってしまった状態となります。

ネフローゼ症候群と腎不全の違いとしては、ネフローゼは腎不全になる前の状態となります。もちろんひどくなればネフローゼも腎不全になることもあるのです。

 ついでに書き加えておきたいのは腎臓の血管内皮細胞は腎臓濾過層の一部ではないので濾過には関わりはありません。二つ目は腎症 は、腎臓のさまざまな非炎症性疾患の医学的な総称です。つまり病原体によって起こされた腎臓病ではないのです。最も代表的な腎症は糖尿病性腎症です。これは、長年の糖尿病の結果として発生する腎臓への損傷です。しかしIgA腎症も腎症がついていますが原因は病原体のヘルペスですから正しくはIgA腎炎というべきですね。アッハハ!

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