なぜシリーズ 理論

漢方はなぜ免疫を上げるのか part2 〜ファイトケミカルと免疫について〜

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 「侵入した異物との出会いによってのみ免疫が活動し始める、つまり免疫が上がる」とどこかに書いたことがあります。それでは飲むと免疫が上がる漢方生薬は何をしているのでしょうか?漢方を飲むと風邪はひきにくくなるし、病気の回復も早くなりますし、いわゆる病気になりにくいという経験は何千年も知られていたことです。

 巷に免疫を上げるという植物が色々喧伝されていますが、本当でしょうか?そのように言われている植物を幾つか挙げておきましょう。にんにく、梅干し、納豆、長芋、大根、小松菜、にら、長ネギ、茶そば、キノコ、トマト、唐辛子、イチジク、ブルーベリー、生姜…など挙げればキリがありません。これらの野菜類はファイトケミカルと呼ばれています。ちなみにファイトケミカルは日本語で「植物の持つ天然化学物質」と訳します。ファイトケミカルは、活性酸素を分解除去する力があるという植物であります。ご存知のように、抗酸化作用がある植物といわれています。活性酸素は決して人体に入ってきた異物ではないのです。したがってファイトケミカルをたくさん持っている植物は、異物を処理するための免疫を上げる働きとは直接関わりがないのです。

 それでは、これらのファイトケミカルがときに免疫を上げると世間で言われているのはなぜでしょうか?植物の全ては人間の細胞と違って細胞の周りに細胞壁と言われる壁を持っています。皆さんご存知のように、細胞膜は脂質の二重膜でできています。この細胞膜の外側に壁があり、それを細胞壁といいます。この細胞壁は細胞を保護し、さらに細胞の形状を保つことができるのです。セルロース、ヘミセルロース、ペクチン、アミロースなどが主成分であります。これらのセルロース、ヘミセルロース、ペクチン、アミロースは糖鎖をいわれます。糖鎖(とうさ)とは、各種の糖がグリコシド結合によってつながりあった一群の化合物であります。結合した糖の数は2つから数万まで様々であり、10個程度までのものをオリゴ糖ともいい、多数のα-グルコース分子が直線上に結合したアミロースやセルロースは最も単純な糖鎖といえます。糖鎖は糖同士だけでなく、タンパク質や脂質その他の低分子とも結合して多様な分子を作り出し、これら糖タンパク質、糖脂質は生体内で重要な生理作用を担っているのです。

 これらのファイトケミカルが多い植物を食べると、植物の細胞壁にある糖鎖がマクロファージや樹状細胞や好中球などの白血球が異物と認識し、刺激されます。細胞壁にある糖鎖が免疫にとっては異物と認識されるのです。これを異物と認識したこれらの非特異的な白血球が刺激されると、他の異物を非特異的に認識する力が増えると、先天的な免疫の力が増強されるのです。とりわけ腸管は異物が入る第一関門でありますから、腸管の免疫能力を強めることになり、腸管の異物を見つけ出す能力を高めることになり、腸管に最初に入ってきた怖い敵である病原体を処理する力が増え、免疫力が上がるといえるのです。つまり、まさに免疫にとって植物の細胞壁が異物と認識されて免疫が上がったのです。ところがこの植物の細胞は、腸管の消化酵素により溶かされ、吸収され、人間の栄養分となってしまうものですから、わざわざ植物の細胞壁を攻撃する必要もないのです。溶かすことができないセルロースなどは便として排除されていまいます。つまり全てのファイトケミカルをたくさん持っている植物のみならず、細胞壁を持っている全ての植物は免疫を活性化する力、つまり免疫を上げる力を持っていると言えるのです。だからこそ腸管の免疫は特別扱いされることになります。

 このような腸管の免疫の働きを、特別にMALT(Mucosa-Associated Lymphoid Tissue)といいます。Mucosa-Associated Lymphoid Tissueは日本語で「粘膜関連リンパ組織」と訳します。このMALTは腸管から人体内に入り込んでしまった異物をやっつけるための免疫の働き以上に大切な仕事をしているのです。なぜならばMALTは異物が人体内に入らないようにするために生まれたのですから。

 さらになぜファイトケミカルは“ケミカル”がつくのでしょうか?それは活性酸素が血管を障害したり、老化や癌化を促進するので、その活性酸素を処理する化学物質、つまり抗酸化物質を多く持っている植物をファイトケミカルというようになったのです。例えば、ポリフェノール、カロテノイド、硫黄化合物、糖関連物質、アミノ酸関連物質、芳香成分などであります。赤ぶどう酒にも大量に含まれているポリフェノールの仲間には、アントシアニンやイソフラボンやタンニンやクロロゲンなど5000種類以上あります。

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