コラム 関節リウマチ

何故リウマチになると貧血が起こるのか?

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 長い間私は何故リウマチになると鉄欠乏性貧血が起こるのか?その答を捜し求めていたのですがどこにも答えは見つかりませんでした。貧血の大部の専門書さえ一言もリウマチの貧血について言及していませんでした。臨床と基礎の乗り越えられない深淵の大きさに絶望を感じざるを得ませんでした。しかしとうとうやっと私なりに納得のいく答えをほとんど自分の力で見出しました。貧血はリウマチのみならず、全ての膠原病に見られる症状の一つです。しかも血中の血清鉄が少ないので、リウマチの患者さんに鉄剤を投与しても決して赤血球は増えないのです。

 膠原病は化学物質が体内に入り、結合組織に溜まった化学物質を排除しようとする正しい免疫の働きでありますが、その戦いが行われる組織の種類によって病名が異なり、症状も違ってくるのです。人体には約210種類の組織がありますが、全ての組織において膠原病が生じてもおかしくはないのですが、化学物質と結びついたタンパク質が溜まりやすい結合組織の多い組織に膠原病が起こりやすいのです。最も膠原線維が多い結合組織が関節であり、従って膠原病で一番多いのはいわゆるリウマチであります。ところが炎症が起こる結合組織の部位によって出血がしやすくて出血性貧血が起こり、鉄欠乏性の貧血が起こることがあります。この代表がクローン病と潰瘍性大腸炎であります。クローン病や潰瘍性大腸炎の場合は、炎症がなくなれば出血もなくなり、鉄欠乏性貧血も消えてしまうのは当然であります。ところが出血がなくてもほとんど全てのリウマチ性膠原病で貧血が見られるメカニズムについては誰も考えたことはないのです。この難題を私が免疫学を駆使して答えを出してみせましょう。

 ここでリウマチ性膠原病の病名を全て羅列しておきましょう。まず関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、混合性結合組織病(MCTD)、全身性硬化症(SSc)(強皮症ともいわれます)、多発性筋炎(PM)(皮膚筋炎ともいわれます)、全身性血管炎、シェーグレン症候群、抗リン脂質抗体症候群、ベーチェット病、通風、若年性関節リウマチ、成人スチル病、リウマチ性多発筋痛症(PMR)乾癬性関節炎、サルコイドーシス、掌蹠膿疱性骨関節症、再発性多発性軟骨炎、線維筋痛症候群(線維筋痛症)などであります。

 さてリウマチは免疫の抗原抗体複合体によるⅢ型のアレルギーであるのは既に述べました。軽いリウマチでは抗原抗体複合体は少量なので貧血は初期のリウマチでは見られません。しかし炎症がどんどん進行していくと抗原である化学物質とそれに対する抗体とが結合した抗原抗体複合体がますます増えていきます。それを食べようとするマクロファージ(大食細胞)や好中球もどんどん増えていきますが、食べても食べても化学物質でありますから溶かしきれません。溶かして殺すことはできないので、これを大食細胞は吐き出します。吐き出してもそれがまた結合組織に蓄積していきます。とりわけ抗原抗体複合体の抗体であるIgG抗体のしっぽの部分にはC3bという補体(後で説明します。)に対するレセプター(CR1)があります。血中にあるおびただしい数の補体がIgG抗体に引っ付きます。実はこのようにIgG抗体に補体がくっつくのはマクロファージ(大食細胞)や好中球がこの補体と結びついて抗原抗体複合体の抗原を食べるようにするためなのです。どんどん大食細胞はこの化学物質とIgG抗体と補体が結びついた抗原抗体複合体を食べ続けますが、化学物質は殺しきれない上にさらにどんどん体内に摂取されるので追いつかなくなります。さらに肝臓で補体が大量に作られ続けるのですが、今述べた抗原抗体複合体も大食細胞に食べきれなくなってしまいます。さらにどんどん肝臓で作られた補体も手ぶらになっていきます。大食細胞に食べられない補体が引っ付いた抗原抗体複合体と、大量に作られた単独の補体の2種類の補体が最後に赤血球の補体レセプターに引っ付いてしまうのです。つまりマクロファージや好中球では食べきれなくなった抗原抗体複合体が最後には赤血球で処理されざるを得なくなるのです。

 ここで補体がどのような人体の細胞に結びつくかについて少し説明しておきましょう。補体と結びつくためには補体レセプターが必要です。この補体レセプターを有している細胞にしか補体は結びつくことはできません、その細胞には6つあります。まず大食細胞と好中球と単球とB細胞とリンパ節にある樹状細胞の5つの免疫細胞であります。そして6つめに、赤血球にも補体が結びつくレセプター(CR1)があるのです。特に1個の赤血球には700個の補体レセプターがあるのです。本来、補体というのは免疫細胞と結びついて異物を殺したり排除する手助けをしてくれるのです。ところが赤血球は全くこのような免疫の働きとは関わりがないのです。何故このように補体が赤血球の補体のレセプターにつくのでしょうか?ここにリウマチ性膠原病に貧血が見られる答えが潜んでいるのです。その答えは次のようです。

 抗原抗体複合体は循環血液中にいつまであっても無害なのですが、血液をろ過する腎臓の糸球体というけまりの様な毛細血管を通過するときに沈着することがあるのです。というのは、糸球体は毛細血管網の間に結合組織成分があるので、化学物質を結びつけている抗原抗体複合体が沈着しやすくて、ここで大食細胞や好中球に食べられる戦いの炎症が起こると糸球体腎炎を起こし、腎不全になってしまい、一生腎透析をしなければならなくなることがあるのです。このような緊急事態が起こらないように、赤血球が補体と結びついて脾臓で大食細胞に食べられてしまうと考えられます。特に膠原病で最も難病といわれるSLEに、補体のC3やC4が少なくなると同時に貧血の度合いも強いのは、腎炎を起こさないためだと考えられます。つまり肝臓で作られた補体が、最終的にははるかに多い赤血球と結びついて脾臓で大食細胞に食べられてしまうので、腎炎は起こらない代わりに低補体血症と貧血が生じるのであります。

 ところがSLEで腎炎が起こることがあります。脾臓や肝臓で食べられきれなかった抗原抗体複合体や赤血球と結びついた抗原抗体複合体が血液に運ばれて腎臓の糸球体に沈着して、そこで再び大食細胞や好中球に貪食されて炎症が起こることがあり、SLEにおいてさらに腎炎という病気を引き起こしてしまうことがあるのです。

 一個の赤血球の細胞表面には700個の補体レセプターがあることは既に述べましたが、以上のように赤血球の補体レセプターに補体が引っ付いてしまうと腎炎は起こらないのですが、残念ながら貧血は起こしてしまうのです。赤血球の大量の補体レセプターは、この抗原抗体複合体の補体と赤血球を結合させ、それを肝臓や脾臓に運んでいくのです。つまり肝臓や脾臓はまさに血中の異物を処理するための最大の臓器であり、そこにはマクロファージ(大食細胞)が一番多く集積しており、そこで赤血球とともに抗原抗体複合体も処理するのです。つまり毒食らわば皿までというわけです。こんな処理の仕方は他にも見られます。例えばウイルスが細胞に入り込んでしまうと免疫はウイルスを殺すために自分の細胞まで殺してしまうのです。他にも似た例があります。異物が気管支に侵入すると免疫は異物を入れまいとして気管を狭めてしまいます。そして窒息死することがあるくらいです。つまり免疫は可能な限りの手段を用いてあくまでも目の前の異物を処理しようとするのですが、他に人体にどのようなとばっちりを起こすかは意に介さないのです。これこそ免疫の本質なのです。こうして免疫は自己の役割を貫徹するために貧血を起こすことをもまるで気にかけないのです。

 これはちょうどリウマチもアレルギーも同じ意味合いを持っているのです。つまりリウマチもアレルギーのような人間に都合の悪い症状を起こしてまで、とにかく最後まで免疫がなりふり構わず異物を排除するのも同じことだと考えられます。人体に迷惑をかけても免疫の本来の目的を最後まで貫徹しようとするのは、人間の自我が他人を省みず自己を貫徹しようとするのと似ています。したがってリウマチの貧血は、見かけは鉄欠乏性貧血であるのですが、いくら造血剤といわれる鉄剤を投与しても絶対にリウマチの貧血は是正できないのです。赤血球が仮に増えても上に述べたように赤血球をマクロファージ(大食細胞)が貪食し続けるからなのです。しかしリウマチがよくなるにつれて必ずリウマチ性貧血も治るのです。

 それでは大食細胞に食べられた赤血球の中にある鉄はどこにいくのでしょうか?鉄の代謝について語るとまたまた極めて難しくなるので、実際的な事柄だけ書きます。リウマチの貧血は、血清鉄が低下しているのにフェリチンだけが高い値をとるという特徴が見られます。このフェリチンは脾臓や肝臓などの細胞に存在し、鉄と結びつくことができる水溶性タンパク質であり、細胞内の鉄を貯蔵するタンパク質であります。肝臓、脾臓以外に骨髄や筋肉組織にも存在する分子量45万の水溶性タンパク質であるアポフェリチン1分子が最大限2500個の3価の鉄と結合したものをフェリチンとよびます。フェリチン内の鉄は3価の状態で貯蔵されます。遊離の鉄はハイドロオキシラジカル(活性酸素)の生成に関与するので、脾臓や肝臓の細胞は鉄をフェリチン内に封じ込めるように貯蔵するのです。フェリチンの役割は今述べたように鉄の貯蔵に加えて、鉄が過剰に吸収されても活性酸素を作って直接組織が障害されないように結びつく2つの働きがあります。

 補体とは何か?

 補体は7億年前にウニも作り出していた先天性免疫の極めて大切な免疫系の武器です。補体は細菌やウイルスを殺すことができるのです。遺伝病のために補体が生まれつき備わっていなければ、十分な抗体を作り出すこともできないのです。活性化された補体を作り出すルートは3つあります。これを完全に理解することは極めて難しいので、語ることはやめます。補体の働きを理解すればいかに人体の免疫が合理的にしかも複雑にして簡明であるか、ということに驚くでしょうが、やはり複雑すぎて簡単には語れません。医者でさえ本格的に勉強したがらないほど複雑なのです。補体を勉強するだけで、免疫はせいぜい理解することを許されるだけで、決して変えてはならないということも理解できるほど免疫の進化の素晴らしさに感心するほどの複雑さです。補体のメカニズムを勉強するだけで、異物である薬を用いて免疫の働きを変えようなどというのはとんでもないことだということが分かるぐらいです。

 補体という言葉は、抗体の働きを補うという意味で名づけられたのですが、下等動物はまさに、補体だけで外敵を倒していることを考えればいかに大切かがわかるでしょう。補体の全てを解説するのにちょっとした一冊の本ができてしまいます。ただ一言、先天性免疫の重要な成分であると同時に、後天性免疫を発動させるのにも絶対に欠かせない成分であることを付け加えておきます。

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