以前から「なぜヘルペスウイルスはアシクロビルに対する耐性を持ちにくいのか」の答えを出しておきたかったので、説明しましょう。これは以前ヘルペスについて書いたコラムの続きになります。このコラムのテーマは、「抗ヘルペス剤であるアシクロビルに対して、なぜヘルペスは耐性(抵抗性)を持たないのか」と言い換えてもいいのです。さらにアシクロビルは副作用がないのでしょうか?についても書き加えておきます。
薬に対する耐性とは一体何でしょうか?耐性とは繰り返し使用していると、薬に対する耐性(tolerance)が生じることがあります。 例えば、モルヒネの使用やアルコールの摂取(飲酒)が長期にわたると、だんだん量を増やさなければ同じ効果を得られなくなります。一方、薬剤耐性とは、大量に使用された抗菌性物質に対する、細菌の抵抗性のことです。耐性の仕組みを元々持っている細菌もいますが、他の細菌から耐性の仕組みをもらったり、細菌の構造が突然変わることで耐性を獲得することがあります。
ヘルペスはウイルスなので抗ヘルペス剤であるアシクロビルに対するヘルペスウイルスの抵抗性は世界中で抗ヘルペス剤は何故か使用されることは無いのでいまだかって問題視されることは一度もありません。大量に使われない薬は効きが悪くなることが出現することは無いのです。
以前書いた様に、ヘルペスはDNAが遺伝子なので、ヘルペスは増殖するためにはDNAを作る必要があります。つまり4つの塩基であるチミン、グアニン、アデニン、シトシンのうち一つの塩基と五炭糖とリン酸の3つの結合体であるヌクレオチドを重合していく必要があります。五炭糖は五員環で成り立っており、この五員環の炭素の一つがリン酸と結びついて、どんどん次のヌクレオチドと結合して重合し続け、正常なヘルペスのDNAが連なり、ヘルペスの遺伝子が複製され最後は新しいヘルペスウイルスが誕生するのです。ヌクレオチドと結合して重合し続ける作業は、DNAポリメラーゼという酵素が必要です。これを繰り返し何千個、何万個のヘルペスウイルスを増殖させていくのです。このDNAポリメラーゼという酵素の働きを阻止すればherpesは増えることが出来なくなるのです。
アシクロビルの作用機構はヘルペスウイルス感染細胞内でウイルス誘導のチミジンキナーゼによりアシクロビル一リン酸誘導体に変換された後、ウイルス細胞内酵素によりさらにリン酸化されアシクロビル三リン酸まで変換されます。この アシクロビル三リン酸がウイルスのDNAに取り込まれ、DNA鎖の伸長を阻害するのです。何故ならばヘルペスはDNAを合成するためにはDNAポリメラーゼと言う酵素が絶対に必要なのでこのDNAポリメラーゼの働きを阻害すればherpesウイルスの増殖を抑制できるのでアシクロビルから作られたアシクロビル三リン酸(ACV-TP)は正常基質であるdGTP(デオキシグアノシン三リン酸)と競合してどちらも三リン酸ですから、ウイルスのDNAポリメラーゼは間違ってウイルスDNAの3’末端にアシクロビル三リン酸(ACV-TP)が取り込まれると、ウイルスのDNA鎖の伸長を停止させ、ウイルスDNAの複製を阻害するのです。
アシクロビルは単純ヘルペスウイルスあるいは水痘・帯状疱疹ウイルス・EBヘルペスなどが感染した細胞内に入ると、細胞が持っているウイルス性チミジンキナーゼにより一リン酸化された後、細胞が持っているキナーゼによりリン酸化され、アシクロビル三リン酸(ACV-TP)となる。アシクロビル三リン酸(ACV-TP)は正常基質であるdGTP(デオキシグアノシン三リン酸)と競合してウイルスDNAポリメラーゼによりウイルスDNAの3’末端に取り込まれると、ウイルスDNA鎖の伸長を停止させ、ウイルスDNAの複製を阻害する。デオキシグアノシン三リン酸は、ヌクレオシド三リン酸であり、DNA複製に用いられるヌクレオチドの前駆体である。この物質は、シークエンスやクローニングにおけるポリメラーゼ連鎖反応に用いられる。また、ヘルペスウイルスの治療に用いられるアシクロビルを競合阻害します。アシクロビルリン酸化の第一段階である一リン酸化は感染細胞内に存在するウイルス性チミジンキナーゼによるため、ウイルス非感染細胞に対する障害性は低いのです。
ヘルペスウイルスはDNAの周りをカプシドで取り囲まれているだけの単純な構造をしており感染細胞の機構を利用して自分のDNAの複製をやることによって自己増殖を行なうことが出来るのでDNAの複製を阻害してしまえばherpesの増殖を抑制できます。
アシクロビルは核酸類似体の抗ヘルペスウイルス薬です。偽のヌクレオチドなので、次の新しいヌクレオチドと繋がることができないのです。なぜならば、アシクロビルは五員環ではなくなっているので、本来ならば五員環の炭素と隣のヌクレオチドのリン酸と繋がっていくべきなのですが、五員環がそもそもないので、五員環の炭素も無くなっているので、繋がることができないのです。その結果、ヘルペスのDNAの作成は途中で止まってしまい、正常なDNAが作れなくなるのです。アシクロビルは、五員環でないということだけが正常なヌクレオチドとは異なった偽のヌクレオチドなのです。簡単にいうと、ヘルペスウイルスは正しいヌクレオチドではなくて、偽のヌクレオチドを取り込んでしまうのです。それは偽のヌクレオチドが正常のヌクレオチドと非常に似ているからです。これを頭に叩き込んでください。そうすれば、ヘルペスがアシクロビルに耐性を起こしにくい理由が簡単に理解できます。
みなさん、なぜ私が例のごとくしつこくヘルペスにこだわるのかご存知ですか?言うまでもなく、人類絶滅の最後まで人類を苦しめ続けるのはヘルペス8種類しかないからです。なぜでしょうか?人類の免疫では殺しきれないからです。それではなぜ殺しきれないのでしょうか?8種類のヘルペスは全てエピソームという形で人間の免疫からこっそり逃げ隠れすることができるからです。これを潜伏感染とか溶原感染とか不顕性感染などといいます。
それでは、単純ヘルペスや水痘帯状ヘルペスが、エピソームの状態から増殖感染(溶解感染)へと変わっていくのはどんな時でしょうか?もちろん免疫を下げた時ですね。それでは免疫を下げた時にどのように増殖するのかを説明しましょう。
抗ヘルペス剤が、抑制療法として一番よく効くのは、Ⅰ型単純ヘルペスと、Ⅱ型単純ヘルペスと、水痘帯状ヘルペスの3つです。EBウイルスにも少ないですが効きます。この抗ヘルペス剤の作用をよく理解するためには、どのようにHSVやVZVやEBVが増殖するかを知る必要があります。これについては実は2〜3年前に「1」なぜアシクロビルが超安全な薬であるか?2」なぜアシクロビルに耐性なヘルペスウイルスが生まれないのか?」という2つのテーマで書いた詳しすぎる論文を思い出しました。1つ目の「なぜアシクロビルが超安全な薬であるか?」はその時に書き切りました。ところが2つ目の「なぜアシクロビルに耐性なヘルペスウイルスが生まれないのか?」についてはいずれ機会があれば書きます、で終わってしまっていました。今それに対する答えを書きます。
皆さんは、今日書くアシクロビルに対する単純ヘルペスウイルス(HSV)が耐性を持つ話を理解するためには、以前書いた一つ目の論文を何回も読み返す必要があります。それを理解されたという前提条件で、単純ヘルペスウイルス(HSV)の耐性の話を以下に書き始めます。耐性という言葉は英語で“resistance”といいます。“resistance”は抵抗性という意味ですから、耐性という言葉を使うよりも「ウイルスの薬に対する抵抗性」と言った方がわかりやすいでしょう。つまり、アシクロビル耐性ウイルスというよりも、アシクロビル抵抗性ウイルスと言えばすぐに分かるでしょう。
アシクロビルに対してヘルペスウイルスが耐性(抵抗性)を示すのは、結局のところヘルペスウイルスが持っているthymidine kinase(TK)をコードする遺伝子の領域の突然変異であります。TKをコードする遺伝子の領域の変異というのは実は様々であり、その遺伝子の発現形であるTKの酵素自身の形や機能の違いも無限の可能性があると言っても間違いないかもしれません。しかしながらTK自身が完全に消失してしまえば、ヘルペスウイルス自身が存在しなくなるかもしれません。しかしながら現在のテーマは、あくまでも抗ヘルペス剤であるアシクロビルに対する単純ヘルペスウイルス(HSV)の抵抗性だけに絞って話を進めるだけです。
単純ヘルペスウイルス(HSV)のDNAポリメラーゼは、ヘルペスが増殖するためには絶対に必要です。ところがTKは単純ヘルペスウイルス(HSV)自身が複製するために役には立ちますが、絶対に必要なものではないのです。しかしながら、既に1)のテーマで書いたように、アシクロビルのリン酸化を開始させるには絶対に必要であります。なぜならばアシクロビルが単純ヘルペスウイルス(HSV)の偽のヌクレオシドになるためには、アシクロビルをリン酸化させるために単純ヘルペスウイルス(HSV)が持っているTKが絶対に必要であるからです。
ところが仮に、単純ヘルペスウイルス(HSV)が持っているthymidine kinase(TK)をコードする遺伝子の領域の突然変異が生じたとしても、その突然変異を起こした単純ヘルペスウイルス(HSV)は特別に新たに病原性を持つものではありません。なぜならばTKは単にリン酸化をもたらすだけの酵素タンパクに過ぎないからです。この点に関して抗ヘルペス剤が病原性や毒性を持つ副作用をもたらす心配はないのです。実際、もともと単純ヘルペスウイルス(HSV)が感染した人体においても、自然にTKが変異したHSVの割合はとても低いのです。だいたい感染した人の0.01%〜0.1%のヘルペスウイルスが自然に変異したTKを持っています。なぜこんなに少ないのでしょうか?これは変異しない正常なTKを持っている単純ヘルペスウイルス(HSV)に比べて、変異体の方が複製しにくいからです。複製しにくくなると、最後はこの世から消え去らざるを得なくなるからです。まさにアシクロビルは正常なTKを持ったウイルスの増殖を抑制するだけであり、何も新たなるヘルペスの変異を求めているのではなくて、そのような自然に変異したヘルペスをたまたま選んだだけなのです。
さらにときに見られる頻度が低いアシクロビル抵抗性の変異には、アシクロビルがリン酸化されるために必要なヘルペスウイルスのTKの基質特異性を上昇させることによって、アシクロビルがリン酸化しにくくする変異もあります。さらにアシクロビルがリン酸化され、最後にアシクロビル三リン酸化物ができます。このアシクロビル三リン酸化物が最後にヘルペスのDNA鎖への取り込みのために必要となるのですが、その取り込みを阻止するヘルペスのDNAポリメラーゼの変異も時に見られることもあります。しかしこのようなヘルペスのDNAポリメラーゼ内の変異は、ウイルスにとっても致命的になるほどのDNAポリメラーゼの活性の完全な消失が起こることはないのです。というのは、DNAポリメラーゼの完全な消失は、アシクロビルを投与されようがなかろうが、いずれにしろ自分自身の増殖が不可能になるからです。
いずれにしろアシクロビル単一で用いる場合は、アシクロビルに抵抗性を持ったり、かつTKをも持つ変異は生体内で生じることはほとんどないのです。なぜならば、ヘルペスウイルスのTKの機能消失を防ぐためには、アシクロビルに対してかなり基質特異性の高い変異が必要であるからです。基質特異性の高い基質変異性が必要であるという意味を理解するのが難しいでしょうから、基質特異性についてもっと詳しく説明しましょう。結局ヘルペスウイルスのTKは酵素ですから、酵素とは何か、基質とは何かから説明しましょう。
酵素とか基質の働きは一体なんでしょうか?まず酵素は化学反応を起こさせる触媒であります。触媒とはなんでしょうか?化学反応が生じる時に、酵素タンパク自身は化学変化を受けず、しかも化学反応の速度を高める物質であります。酵素は言うまでもなくタンパク質であります。タンパク質は特定の分子と結合することが基本性質であります。一般にタンパク質が結合する相手の物質をリガンド(ligand)といいます。酵素タンパクのリガンドは基質といいます。英語で“substrate”といいます。酵素タンパクはまず基質と結合する必要があります。これが第一段階です。次に基質(substrate)に化学反応をこさせ、基質を別の物質に変化させます。アシクロビルを例にとって具体的に説明しましょう。アシクロビルというリガンドにウイルスのTKという酵素が結合します。その結果、アシクロビル一リン酸という新たなる化学物質ができます。
酵素はタンパク質ですから、固有の立体構造を取っています。その構造の中に基質と特異的に結合する部分があります。つまりみなさんがご存知のように、鍵と鍵穴の関係、つまり酵素と基質の関係が決まっています。酵素と基質が第一段階で結合すると、酵素分子の立体構造が微妙に変化し、これによって触媒作用が引き起こされます。この鍵と鍵穴の関係が極めて特異的なのであります。特異という意味は、他のものと非常に異なっているという意味です。酵素と基質との関係が鍵と鍵穴の関係ですから、酵素が鍵で基質が鍵穴となります。この関係が極めて特異的であるということは、鍵であるウイルスのTKという酵素が少しでも変化すると、鍵穴であるアシクロビルに結合できないという意味です。理解できますか?理解できますね。
しかしながら、ヘルペスウイルスのTKの機能が保たれている変異ウイルスの持つ病原性は残されているので、将来的には問題となるかもしれません。しかしながら免疫を抑制しない限りは、エピソームの形で潜伏感染の状態で永久に抑制し続けることができるので、ヘルペスウイルスは増殖することができなくなります。このように免疫を維持し続けられる人は一生ヘルペスウイルスと戦う必要がないので、ヘルペス関連の病気は起きないことになります。ここをもって以前の私の以前の宿題の一つは終わりました。
昔書いた「1)なぜアシクロビルが超安全な薬であるか?」の長い答えを再掲載しておきますから、関心のある人はここを読んでください。
薬の副作用とはどういう意味でしょうか?副作用とは期待した薬の効果(主作用)以外の望ましくない作用のことをいいます。アシクロビルの副作用というのは現在の病気の原因のすべてヘルペスですから漢方煎じ薬と飲むとかならず免疫があがるので今まで飲んできた免疫抑制剤を止めると必ずヘルペスと免疫と闘う症状が出現します。これを「リバンド」とい言い日本語で「免疫向上症状」と訳しそれまで間違ってきた免疫を抑える薬をすべて止めると必ず出現します。あらゆる病気は免疫を抑制する限り症状が楽になっても絶対治らないのはその間にherpesがこっそり増えまくっているので世界で唯一の私の免疫向上療法を受けると必ずリバンド症状が出現します。この症状は免疫を押さえていた間に増えたヘルペスと戦っている症状なのにアシクロビルや漢方煎じ薬の副作用と騒ぎ立てる無知でバカな医者が多すぎます。ヘルペスとの戦いの症状とアシクロビルとの副作用を見分けることが出来ない本末転倒の藪医者の解釈に過ぎないのです。私はアシクロビルの副作用をいまだかって経験したことはなくすべて過去の間違った免疫を抑えてきた間に増えたherpesとの戦いによる「リバンド」症状であるのです。