「なぜヘルペスが免疫から逃れることができるのか」について5年前に書いた論文がありますが、それから現在までに、全世界の免疫学者が明らかにした研究成果をもとに、どのようにしてヘルペスが宿主である人間の免疫系の働きを逃れて生き続けることができるのかのメカニズムを、もっと詳しく書きましょう。
特に明らかにされているのは、ヘルペス8種類のうち1番目と2番目の単純ヘルペスと、4番目のEBウイルスと、5番目のサイトメガロウイルスであります。まず近頃オックスフォード大学の先生が「アルツハイマーは単純1ヘルペスである」ということを発表しました。実は「アルツハイマーは単純1ヘルペスである」という真実は、30年前に明らかにされていたのでありますが、一流の医学雑誌はその論文を掲載することを無視し続けていたのでありますが、やっと日の目をみることができた論文であります。なぜ一流雑誌はこの真実を載せることを拒絶してきたのかは、皆さんが考えてください。
既にみなさんがご存知のように、私は3つも大学に居続けました。なぜでしょうか?3つ目の大学である京都府立医科大学に入学し直したのも、医者になりたかったからではありません。50年以上前に悩み始めた右目の強度視力低下、頭痛、嗜眠症、表現不能な不愉快さの原因がヘルペス性脳炎であることを知るためでありました。15年前に私の様々な不愉快な神経症状はヘルペス性脳炎であることを、突き止めました。今なお世界中の医者はヘルペス性脳炎を診断することができないのです。私は自分の病気を長い時間をかけて自分で診断し、かつ現在はその治療も自分で行っているのです。つまり抗ヘルペス剤を大量に服用すれば、様々な神経症状が取れるのです。医者になったからこそ自分の病気の原因を見つけ、治療し、診断できるようになったので、医者になった価値はあるというべきですが、16歳以後悩み苦しみ、自分の才能を十分に発揮できなかったことが今も悔やまれます。輝くべき青春時代を失ったのは、様々な医学の大発見をした現在でも悔やんでも悔やみきれません。しかしながら人類最後の敵は文明が作り出した化学物質と、太古以来、かつ現在も、かつ未来においても人間の免疫では殺しきれない8種類のヘルペスだと明らかにできたのは、せめてもの慰めとなっております。
さて、前置きはこれぐらいにして、1番目と2番目の単純ヘルペスと4番目のEBウイルスと5番目のサイトメガロウイルスが、どのような戦略を用いて、かつどのような機構を用いて、その結果免疫に対して殺されないように逃げまくっているのかを述べていきましょう。ヘルペスウイルスの8つの仲間が生み出した戦略は4つあります。
1つ目が人体の免疫の液性免疫といわれる抗体の働きを無力にすることであります。ウイルスに対する抗体の働きは3つあります。1つめはまず抗体がウイルスに引っ付くと、好中球や大食細胞に食べやすくするオプソニン作用があります。さらに2つめは、抗体がウイルスに引っ付くと、細胞の中に入れないようにする中和抗体といわれる働きがあります。3つめは、たとえウイルスが細胞の中に入っても、ADCC(Antibody-Dependent-Cellular-Cytotoxicity)という、日本語では抗体依存性細胞傷害により、その抗体がマクロファージやNK細胞といった免疫細胞を呼び寄せ、その抗体が結合している細胞や病原体を殺傷することから逃れる戦略を編み出したのです。
2つめのヘルペスウイルスの戦略は、炎症反応を起こさせないようにすることです。炎症というのは、ウイルスをはじめとする病原体を殺すために生まれたものです。この働きをヘルペスウイルスは阻止して、殺されないようにできるのです。
3つめのヘルペスウイルスの戦略は、ヘルペスウイルスがあらゆる細胞に入るのですが、とりわけヘルペスウイルスは中枢神経や末梢神経などの全ての神経細胞に入りたがるのですが、侵入された細胞はヘルペスウイルスを敵である抗原とみなし、この抗原の持つタンパクを処理し、MHCⅠに結びつけてキラーT細胞(CTL)に提示して、細胞もろともヘルペスを殺してくれと頼むのでありますが、それをさせないようにすることが3つ目のヘルペスの戦略となるのです。
4つめは、ヘルペスウイルスは宿主の免疫を抑制することができるのです。
以上の4つの戦略について、下で詳しく書きます。
それではまず1つめの戦略について詳しく書きましょう。難しいですがついてきてください。抗体はY字型になっているのはご存知ですね。下の尻尾をFcレセプターといいます。このFcレセプターに好中球や大食細胞をはじめとする免疫の細胞がひっつきます。Yの上の両手はまさに病原体であるウイルスを捕まえられる手であります。たとえヘルペスウイルスが両手で捕まえられたとしても、このFcレセプターに好中球や大食細胞がひっつかなければ、ヘルペスウイルスは大食細胞などに食べられることはなくなります。つまり抗体のオプソニン作用がなくなるのです。
どのようにして抗体のオプソニン作用はなくなってしまうのでしょうか?単純ヘルペスウイルスとサイトメガロウイルスは、自分の遺伝子を使って偽のFcレセプターを作ってしまうのです。賢いでしょう!なんのために?つまり抗体のFcレセプターに大食細胞が引っ付く前に、自分が作った偽のFcレセプターと結びつかせて、大食細胞に貪食されないように逃れてしまうのです。さらにFcレセプターには補体もひっつくことができ、補体のオプソニン作用も同じような機序で、つまりヘルペスウイルスが作ったFcレセプターに補体を引っ付けることによって、大食細胞に食べられることから逃れるのです。みなさん覚えておられますか?補体というのは安物の抗体であるので、オプソニン作用を持っていると説明しましたね。この補体に捕まえられないようにする働きは、単純ヘルペス1型2型が得意であります。ちなみに単純ヘルペスには2つあり、1型と2型があります。
さて2番目の戦略、つまりヘルペスに対して炎症を起こさせない戦略についてであります。この話をする前に一度勉強したサイトカインの一種であるケモカイン(Chemokine)についてもう少し深く勉強しましょう。
全てのケモカインが持つ共通の性質について述べましょう。ケモカインはタンパクとしてはサイズが小さいこと(8~10kDa)です。ちなみにタンパクとしては小さなアルブミンは69kDaであります。ケモカインはタンパクであるので、決まった3次元構造を取っています。さらにケモカインは、4つのシステイン残基が存在しています。システイン残基というのは、アミノ酸のシステインと考えてください。ケモカインは、これらの共通の3つの特徴を持っている一群の因子の集まりで、これをケモカイン・ファミリーといいます。ケモカインという名前は、これらの物質が細胞の走化性(Chemotoxis; ケモタキシス)を誘導する直接の作用があることに由来することはすでにご存知でしょう。いくつかのケモカインは炎症性サイトカインと呼ばれ、感染部位における免疫応答の活性化を引き起こして炎症を誘発する性質があります。また炎症生ケモカイン以外に恒常性ケモカインと呼ばれるケモカインもあります。この恒常性ケモカインは、免疫細胞の発生や分化や免疫機能の維持に貢献しています。ケモカインは免疫の働きのある標的細胞の細胞膜上にあるケモカイン受容体と呼ばれる受容体と結合することによって作用が発揮されます。ケモカイン受容体は数多く見出されていますが、いずれも細胞膜を7回貫通する特徴的な構造を有するGタンパク質共役受容体(GPCR)に属しています。GPCRというのは、G protein-coupled receptorの頭字語です。一方、リガンドであるケモカイン・ファミリーには、4つの種類があります。ケモカイン・ファミリーはもちろんアミノ酸でできているタンパクです。N末端側の2つのシステイン残基(C)と他のアミノ酸(X)でできてきます。このシステインと他のアミノ酸の配列の関係の違いにより、次の4つのサブファミリーに分類されます。(C)はシステインであり、(X)はシステイン以外のアミノ酸であります。皆さんご存知のように、アミノ酸は20種類あります。したがってこの(X)は、システイン以外の残りの19種類のアミノ酸のどれかになります。
Alpha Chemokines (CXC)、Beta Chemokines (CC) 、Gamma Chemokines (C)、Delta Chemokine (CXXXC)の4種類があります。
Alpha Chemokines(CXC)は、2つのシステインの間に他の1つのアミノ酸が入り、C-X-Cの配列となります。好中球を引き寄せる誘因物質、つまりケモカインとして働いて様々な免疫細胞を引きつけ引きつけた細胞のケモカインレセプターと結合し、その細胞を活性化します。例えばミエロペルオキシダーゼや、その他の病原体を殺す様々な酵素を好中球から放出させるのです。ちなみにミエロペルオキシダーゼは、ほとんど好中球のみに存在する酵素で、過酸化水素(H2O2)と塩素イオン(Cl-)から次亜塩素酸(HOCl)を産生します。感染した微生物は、酵素反応によって生じた次亜塩素酸(HOCl)により、効率的に殺菌されます。ヒドロキシルラジカル(OH)も同様にH2O2から作られます。過酸化水素(H2O2)は、Hydrogen peroxideといいます。過酸化水素を略して、しばしば過水(かすい)と呼びます。主にH2O2は水溶液の形で使われます。H2O2は強力な酸化剤にも還元剤にもなり、殺菌剤、漂白剤として利用されます。
Beta Chemokines(CC)は、2つのシステインが隣り合うC-Cの構造をしています。細胞内カルシウム濃度を変化させ単球からの酵素放出を促進するのです。
Gamma Chemokines(C)は、N末端から2つのシステインが欠損しており、C末端が伸長しています。
Delta Chemokine(CXXXC)は、2つのシステインの間に他の3つのアミノ酸が入るC-XXX-Cの配列をしています。
さて、ケモカインの話は終わって、本論である2番目の、ヘルペスが人間の免疫に炎症を起こさせないという戦略の話に戻りましょう。サイトメガロウイルスは、今述べたβケモカイン受容体を持っている単球(大食細胞・樹状細胞)とβケモカインが結びついて、炎症が起こって自分を殺さないようにするために、偽のケモカインレセプターを作ることができるのです。サイトメガロウイルスが感染した細胞に、偽のケモカインレセプターができ、そこに様々なβケモカインがひっついてしまうと、単球を呼び寄せる力がなくなってしまうのです。すると、大食細胞は炎症細胞の代表でありますが、その結果、炎症を起こせなくなってしまうのです。一方、EBウイルスは、EBウイルスが感染した細胞に、キラーT細胞が結合することを阻止することができるのです。それは、白血球の膜に発現するLFA-3(leucocyte function-associated antigen-3)、日本語では白血球機能関連抗原3という接着分子やICAM-1という接着分子などが、サイトメガロウイルスが感染した細胞にひっつかないようにすることができるのです。すると白血球が感染細胞に引っ付かなくなると、白血球の働きが活性化されずに炎症が起こらなくなるのです。
3つ目の戦略についてであります。つまり単純ヘルペスとサイトメガロウイルスが侵入した細胞は、ヘルペスウイルスを敵である抗原とみなし、この抗原の持つタンパクを処理し、MHCⅠに結びつけてキラーT細胞(CTL)に提示して、細胞もろともヘルペスを殺してくれと頼むのでありますが、それをさせないようにするメカニズムついてであります。MHCⅠにヘルペスのタンパク(ペプチド)が引っ付かない限り、キラーT細胞にヘルペスウイルスを提示できないので、キラーT細胞は感染している細胞を認識できないので、殺すことができなくなります。もう一つは、単純ヘルペスに感染したヘルペスのペプチドは、TAPという輸送タンパクに乗せられて感染された細胞の膜まで運んで初めてキラーT細胞に認識されるのですが、単純ヘルペスはTAPというタンパクを作らせないようにしてしまうことができるのです。
4つ目の戦略は、EBウイルスだけが持っている戦略であります。皆さんご存知のように、インターロイキン10(IL-10)というのは抑制性のインターロイキンであり、Th2が作り出すアレルギーを起こす排除のサイトカインです。このインターロイキン10(IL-10)は、炎症を引き起こすTh1が増えないようにすることもご存知ですね。つまり宿主の免疫を抑制して、殺す仕事を辞めてしまうということになります。EBウイルスは、偽のインターロイキン10(IL-10)を作ることができるのです。すると、Th1というヘルパーTリンパ球は、病原体であるEBウイルスを殺すための出発点となるインターフェロンγ(IFN-γ)を作る力がなくなり免疫が抑制され、EBウイルスはいつまでも人体に住み着き、永久に生き続けることができるのです。
今日はここまでです。2018/12/28