潰瘍性大腸炎・クローン病 理論

レチノイン酸と腸管の免疫寛容について 2018.11.8更新

投稿日:

レチノイン酸はビタミンAの代謝産物であり、このレチノイン酸が腸管の樹状細胞から作り出され、Bリンパ球からIgAの産生を促進します。さらにレチノイン酸が腸管にいる形質B細胞にIgAを分泌させたあと、他の組織に出て行ったとしても、必ず最後は腸管の周辺の組織に戻るということを以前に書きました。さらにレチノイン酸について追加しておきます。

レチノイン酸は腸間膜リンパ節にある“stromal cell”で、日本語では支持細胞とか間質細胞といわれる細胞から産生されます。“stromal cell”という言葉はよく出てきますが、実態がよくわからない細胞です。一応、支持細胞(間質細胞)の定義を言いますと、「生体組織の支持構造を構成し、実質細胞を支える細胞」であります。支持細胞(間質細胞)には、線維芽細胞、免疫細胞、血管内皮細胞および炎症性細胞があります。ついでに言えば、このような支持細胞(間質細胞)と腫瘍細胞との相互作用が知られており、癌の増殖と進行に大きな役割が認められています。難しいですがついてきてください。

このような支持細胞(間質細胞)から出されたレチノイン酸は、さらに多くの樹状細胞の働きであるIgAの産生を高めます。レチノイン酸を産生する樹状細胞は、小腸に200個あるといわれるパイエル板においても認められ、パイエル板自身のみならず腸間膜リンパ節においても抑制Tリンパ球を生み出し、腸管で免疫寛容を起こしやすくしてくれます。このような抑制Tリンパ球を“inducible regulatory helper T cell”といいます。略して“iTreg”といいます。日本語で「樹状細胞に誘導された制御性Tリンパ球」となります。この腸管にいる樹状細胞は、transforming-growth factorβ(TGFβ)を産生して、T細胞をiTregに変えて、共生細菌に対して免疫寛容を起こしやすくしているのです。このようなiTregは、小腸のみならず大腸や肺の粘膜においても見られ、これらの粘膜に常在している無害な共生バクテリアに対して免疫寛容を起こしやすくしているのです。

ちなみにビタミンAからレチノイン酸が作られるのですが、このビタミンAはどこから入ってくるのでしょうか?まず一つは、ビタミンA(レチノール)が動物性食品に多く含まれているので、普段食べる動物性食品から入ってきます。ところがもう一つのルートがあります。緑黄色野菜や海草に多く含まれる色素の一種であるβ-カロテンが、小腸の吸収上皮細胞や肝臓や腎臓において分解されてビタミンAになります。つまりβ-カロテンは体内でビタミンAに変化する前駆体のプロビタミンAであります。

ついでに言えば、レチノイドの名前が網膜 (retina) に由来するように、網膜細胞の保護にも用いられ、欠乏すると夜盲症などの症状が生じることはご存知でしょう。また、DNAの遺伝子情報の制御にも用いられることも知っておいてください。例えばビタミンAは過剰に摂取すると、分化している細胞の遺伝子情報の制御に影響し、胎児奇形の発生のリスクが高まるといわれています。ビタミンAの1日の上限許容量は5000IUとされています。妊娠12週までにビタミンAを連日15000 IU以上摂取すると、水頭症や口蓋裂等(口唇裂、兎唇)、胎児奇形発生などの危険度が、ビタミンA摂取量5000 IU未満の妊婦に比して、3.5倍高くなると報告されています。一方欠乏した場合は、未分化性の胎児奇形(単眼症など)のリスクが生じます。

ビタミンAは過剰摂取の心配がありますが、β-カロテンは体内に入ってビタミンAが十分ならビタミンAに変化しない為、緑黄色野菜や海草をいくらとっても気にすることはありません。

-潰瘍性大腸炎・クローン病, 理論

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

no image

炎症で一番よくみられる痛みとは何でしょうか?更新2022.4.8

機械的、その他の異常に強い刺激によって皮膚、粘膜、骨膜、内臓などに生ずる感覚です。後で説明しますが、ヘルペスによる炎症はすべて刺激で起こります。痛みの専門用語は痛覚で、この強い刺激を侵害刺激と言い、そ …

no image

Ⅰ型糖尿病の原因について

 私が最近経験したインフルエンザワクチンの副作用としては、Ⅰ型糖尿病になった子供がいました。これはインフルエンザワクチンの副作用というよりも、別のメカニズムによって膵島のβ細胞が破壊されたためです。そ …

no image

潰瘍性大腸炎、クローン病完治の症例報告Part44(コメントなし)更新2022.7.8

症例報告96例目 完治された病気1)潰瘍性大腸炎 患者:43歳 発症当初に駆け込んだのは総合病院の消化器内科でした。腹痛や複数回の下痢、渋り腹(便意をもよおすのに排便がない、または便意はあっても少量し …

no image

うつ病や慢性疲労症候群も原因はストレスによるherpesの青斑核感染症でおこる。抗ヘルペス剤を飲めばよくなります。更新2023.5.31

うつ病や慢性疲労症候群も原因はストレスによるherpesの青斑核感染症でおこる。抗ヘルペス剤を飲めばよくなります。 うつ病は慢性ストレスによって誘発される免疫低下でherpesが青斑核に感染して起こり …

no image

薬疹はアトピーである

 いつも言っていますように、人間が必要な物質は5大栄養素と水と酸素だけであります。病気を治すと称して、免疫を抑える様々な化学物質やあらゆる種類の化学物質が毎日毎日病人に投与されています。人体の免疫の遺 …