理論

大腸の粘膜層と杯細胞について 2018.10.19更新

投稿日:2018年10月19日 更新日:

皆さんは、腸に住んでいる常在細菌が1000種類以上、トータルで100兆個〜200兆個であることはご存知でしょうが、そのほとんどが大腸に住んでいます。それでは大腸はどのようにして莫大な常在細菌から身を守っているのでしょうか?

腸管の模式図を左において説明しましょう。Mucosal layer(粘膜層)にmucus(粘液)がありますね。小腸はこのMucosal layerが1層であるのですが、大腸はOuter mucosal layer(外粘膜層)と、Inner Mucosal layer(内粘膜層)の2層があるのです。(上の図は小腸の模式図です。)外粘膜層は、小腸の1層の粘膜層と同じで、密ではなく粘度が強くありません。ところが内粘膜層は、下の上皮細胞と密着した粘膜があり、濃い粘膜であるので細菌は移動しにくく、粘膜上皮に近づきにくいので上皮細胞に入り込める細菌が少なくなります。さらにαデフェンシンのような抗菌ペプチドが非常に多いのです。

なぜ大腸の内粘膜層がこのように守りが固いのでしょうか?それは腸管腔内にある常在細菌のみならず、様々な飲食物から侵入する怖い細菌が粘膜上皮を破ってその下のLamina propria(粘膜固有層)に入り込んだ後、炎症が起こらないように防御しているからです。腸管に感染が起こるのは、細菌が腸管を覆っている上皮細胞にまずひっつく必要があるからです。

それではmucus(粘液)は、腸管のどのような細胞が作るのでしょうか?小腸の腸絨毛にある栄養を吸収する小腸上皮細胞間にある杯細胞(goblet cell)であります。他の粘膜でも杯細胞は存在しています。例えば気道粘膜においては多列繊毛上皮間に杯細胞が散在し、粘液を作って侵入した異物を痰として排泄しています。目の結膜上皮にいる杯細胞は小腸と同じくムチンを分泌します。分泌されたムチンは角結膜に侵入する異物を涙とともに流し去るのです。

ちなみに腸管上皮細胞には吸収上皮細胞、杯細胞、腸管上皮内分泌細胞、パネート細胞(Paneth cell)の4種類の細胞があります。杯細胞と同じくパネート細胞(Paneth cell)は陰窩の底部に存在し、抗菌物質の産生により腸管内腔を細菌から守っています。

腸管の杯細胞(goblet cell)は、粘液を数時間で入れ替えることができます。そのたびごとに、粘液の中に潜んでいた細菌は、すぐに粘液とともに便に排泄されてしまいます。さらに、粘液にはムチンといわれるムコ蛋白が含まれています。「ムコ」とは「粘液」のことですから、ムコ蛋白は粘液の多いタンパク質という意味です。このムコ蛋白には糖の長い鎖(糖鎖)がひっついています。この糖鎖は共生細菌(commensal bacteria)の大好物であり、この糖鎖のついたムコ蛋白(ムチン)を共生細菌は食べた後、butyrate(酪酸)やacetate(酢酸)などの短鎖の脂肪酸に変えてしまいます。するとこのような短い脂肪酸は簡単に粘液に拡散し、粘膜の上皮細胞に取り込まれます。そしてこのような脂肪酸分子は上皮細胞の重要なエネルギーになります。言い換えると、共生細菌はムチンを上皮細胞に食べ物として加工していると言ってもいいのです。だからこそ腸管に住んでいる常在細菌が共生細菌と呼ばれる理由の一つなのです。

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