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γ(ガンマ)ヘルペスウイルスは他のヘルペスの仲間と違って何故癌が出来ることが実証されているのですか?更新2025.10.14

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ガンマヘルペスウイルスが他のヘルペスウイルスと異なり、がんを引き起こす明確な理由は、がん遺伝子の発現、宿主細胞の遺伝子発現の操作、および免疫回避という独自のメカニズムにあります。
ガンマヘルペスウイルスには、EBウイルス(EBV)やカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)が含まれます。これらのウイルスは、がんにつながる一連の複雑な細胞操作を行うことで知られています。

ガンマヘルペスウイルスの発がんメカニズム
1. がん遺伝子の発現
EBVやKSHVは、感染した細胞内で、細胞の異常増殖を促進したり、細胞死(アポトーシス)を抑制したりする特定のウイルス遺伝子を発現します。
EBVのがん遺伝子:代表的なのはLMP1です。これは、細胞の生存や増殖に関わるNF-κBなどの細胞内シグナル伝達経路を活性化します。
KSHVのがん遺伝子:vFLIPやvCyclinといった遺伝子が、細胞の増殖と生存を促進します。

2. 宿主細胞の遺伝子発現の操作
ガンマヘルペスウイルスは、宿主細胞の遺伝子発現を変化させることで、がん化を促進します。
DNAメチル化:EBVは、感染細胞内のDNAメチル化酵素の発現を亢進させ、宿主細胞の遺伝子を過剰にメチル化させます。このメチル化は、がん抑制遺伝子を不活性化させるため、がん化につながります。
エピジェネティックな改変:ウイルスは、DNAメチル化やヒストン修飾など、エピジェネティックな制御を操作して、がん遺伝子の発現を増加させたり、がん抑制遺伝子を沈黙させたりします。

3. 免疫からの隠蔽(免疫回避)
ガンマヘルペスウイルスは、宿主の免疫系から逃れるための巧妙な戦略を持っています。
潜伏感染:EBVはリンパ球(B細胞)に潜伏感染し、ウイルス遺伝子の発現を最小限に抑えることで、免疫細胞に認識されにくくします。
免疫系の操作:免疫応答を抑制したり、感染細胞の生存を助けたりするウイルス性のタンパク質を産生します。

特徴ガンマヘルペスウイルスアルファヘルペスウイルス
主な潜伏感染細胞リンパ球(B細胞)神経細胞
発がん性明確な発がん性がある通常は発がん性がない
発がん関連遺伝子LMP1, vFLIPなどのがん遺伝子を発現発がんを直接引き起こす遺伝子は発現しない
細胞への影響潜伏感染中に細胞の増殖促進やアポトーシス抑制を行い、細胞をがん化させる。主に神経細胞に潜伏し、がん化を誘導するような遺伝子発現は起こさない。

まとめると、ガンマヘルペスウイルスは、単に細胞に潜伏するだけでなく、細胞内で発がんを直接的に引き起こす遺伝子を巧妙に発現させ、宿主細胞の遺伝子発現を改変し、さらに免疫から身を隠すという、他の一部のヘルペスウイルスには見られない独特な戦略をとっているため、がんを引き起こすのです。

ウイルスとがん ― EBウイルス胃がんの研究―
エプスタイン・バー(EB)ウイルスは、バーキットリンパ腫、上咽頭がん、そして胃がんの10%に関連するヒト腫瘍ウイルスです。EB ウイルス胃がんでは、感染した胃上皮細胞の DNA メチル化というエピジェネティクス異常が、がんの発生に重要であることが判明しました。ウイルスの増殖をDNAメチル化によって防ごうとする細胞側の仕組みが、過剰に細胞自身にも働いてしまっている可能性があります。これらの仕組みを解明することは、がんの新しい治療法の開発につながります。

ヒト腫瘍ウイルスとEB ウイルス
EB ウイルスはほとんどの人が感染しているウイルスですが、実はヒトに腫瘍を発生させる腫瘍ウイルスです。
この仲間としては、ヒトパピローマウイルス(HPV)や B型、C 型肝炎ウイルスなどがよく知られています。
これらのウイルスに感染すると、①目立った異常を起こさないキャリアーと呼ばれる状態になり、②一部の人だけにがんが起こってきます。EBウイルスは1964 年にEpstein とBarr によって発見され、ヒトの腫瘍から見つかった最初のウイルスです。その後、バーキットリンパ腫などのリンパ腫や上咽頭がんの発生に関与していることが明らかにされていったのですが、 1990 年代の初め、胃がんの10%にEBウイルスが感染していることがわかりました。その場合にはがん細胞のすべてにウイルスが感染しているので、この胃がんをEBウイルス(関連)胃がんと呼んでいます。

胃がんにもいろいろなタイプがある
胃がんと一口に言ってもいくつか特徴のあるタイプがあります。EBウイルス胃がんでは、男性で胃の上部(食道側)に発生することが多く、特に手術で幽門側胃を切除された残胃に起こるがんでは3 割を占めます。また、顕微鏡的にはリンパ球浸潤が強い腺がんです。そこで、この明確なタイプの胃がんに絞って、発生のメカニズムを調べることにしました。

 EB ウイルス胃がんはどのようにしてできるのか?
EB ウイルスは殻に入った直鎖状の二本鎖DNAからできていますが、感染した細胞の核内では両端が結合した円環状構造をとっています。直鎖状ウイルスDNAの両端には繰り返し配列が存在し、円環状になる時に幾つかの「繰り返し」が切り出されます。そのため感染細胞で認められる「繰り返し」の個数は感染したウイルスごとに異なってきます。ところがEBウイルス胃がんのがん組織では、ウイルスの「繰り返し」個数が 単一であることが確認されました。つまり EBウイルス胃がんは、EBウイルスに感染した上皮細胞がモノクローナルに(細胞1 個が分裂して)増殖したがんであることが示されたことになります。 次に、 EB ウイルス胃がんについて細胞の形質について検討しました。すると、EBウイルス胃がんの大部分では、正常の胃粘膜の増殖帯に存在する胃上皮細胞と同一の発現パターンを示しました。このことから、EBウイルスの感染・腫瘍化の標的となっているのは胃固有腺増殖帯にある上皮細胞だと推定されました。

γ-ヘルペスウイルスによる発がんエプスタイン・バーウイルス(EBV)とカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)
γ-ヘルペスウイルスによる発がんエプスタイン・バーウイルス(EBV)とカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)ガンマ(γ)ヘルペスウイルスの唯一のメンバーであり、バーキットリンパ腫、鼻咽頭癌、ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、原発性滲出性リンパ腫など、様々なヒト癌の発生に大きく寄与する発癌性ウイルスです。γヘルペスウイルスによって引き起こされる発癌には、ウイルスの遺伝学、宿主細胞のメカニズム、そして免疫回避戦略の間の複雑な相互作用が関与しています。遺伝子レベルでは、重要なウイルス性癌遺伝子が細胞シグナル伝達の阻害に関与し、制御不能な増殖とアポトーシスの阻害を引き起こします。これらのウイルスタンパク質は、細胞の生存と炎症に重要な役割を果たすNF-κB経路やJAK/STAT経路など、いくつかの細胞経路を調節することができます。エピジェネティック修飾は、EBVおよびKSHVを介した癌の発生にさらに寄与する。EBVとKSHVはともに宿主細胞のDNAメチル化、ヒストン修飾、クロマチンリモデリングを操作し、これらの相互作用が癌遺伝子発現の亢進と癌抑制遺伝子のサイレンシングに寄与する。免疫因子もまた、癌の発生において極めて重要な役割を果たしている。γヘルペスウイルスは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の操作やサイトカインの放出など、複雑な免疫回避戦略を発達させており、感染細胞は免疫による検出と破壊を回避している。さらに、HIV/AIDS患者のような免疫不全状態は、EBVおよびKSHVに関連する癌のリスクを著しく高める。本総説は、γヘルペスウイルスが癌発生を促進する遺伝学的、エピジェネティック、および免疫学的メカニズムの包括的な概要を提供し、主要な分子経路と潜在的な治療標的を明らかにすることを目的としている。

EB ウイルスによる発癌機構
EB ウイルス(EBV)は様々な癌との関連が知られている DNA 腫瘍ウイルスである.癌細胞内において EBV は潜伏感染を維持しており,発現するウイルス遺伝子の種類により潜伏感染様式は1型から3型に分けられる.EBV は B リンパ球をトランスフォーム(不死化)し,すべての潜伏感染遺伝子が発現する3型感染のリンパ芽球様細胞株(LCL)とする活性をもつが,その機構は免疫不全状態での日和見リンパ腫などの発生のモデルとも考えられている.一方1型や2型の癌では遺伝子発現が限定されるが,これまでの研究により核抗原 EBNA1,膜蛋白質 LMP1 や LMP2A などの発癌に関わる機能が明らかとされ,また我々は小 RNA である EBER が発癌において重要な役割を果たしていることを明らかにした.本稿では最近までに明らかにされている EBV による発癌の分子機構について概観する.

Epstein-Barr ウイルス(EBV)はバーキットリンパ腫(BL)から最初のヒト癌ウイルスとして1964年に分離された.その後現在までに上咽頭癌やホジキンリンパ腫,NK/Tリンパ腫,AIDSや臓器移植などに伴う日和見リンパ腫,胃癌などへの関与が明らかにされており,これらはEBV関連癌と呼ばれる.これらの癌細胞においてEBVは潜伏感染状態を維持しており,発現しているウイルス遺伝子の機能が発癌に関与している.EBV関連癌で発現するウイルス遺伝子EBVは約170kbの二本鎖DNAウイルスで,成人の場合ほとんどがEBVに感染している.初感染時の疾患として伝染性単核球症が知られるが,多くは不顕性感染となり,Bリンパ球において終生潜伏感染が維持される.一方で先述の通り,EBV感染は一部の例において癌の発生へ関与するということが明らかとなっている.つまり,EBV感染=発癌ではなく,何らかのコファクター(免疫異常や感染細胞の遺伝子変化など)がEBVによる発癌に寄与しているということである.EBVは癌細胞において潜伏感染し,完全長のウイルスゲノムが染色体に組み込まれずにプラスミドとして維持されている.表1に各種EBV関連癌とそれらにおいて発現しているEBV遺伝子を示す.各々の癌において発現するEBV遺伝子は異なり,そのパターンにより潜伏感染様式は3つに大別される.このうち,BLや胃癌,上咽頭癌の約3分の2の症例などにおいて認められる1型は発現する遺伝子が最も限定され,EBV核抗原(EBVnuclear antigen: EBNA)1,EBVがコードする小RNA (EBV-encoded small RNAs: EBERs),BamHIA rightward transcripts(BARTs),および一部の症例で膜蛋白質である Latent membrane protein(LMP)2Aが発現しているのみである.これらにLMP1,LMP2Bの発現が加わった2型は上咽頭癌の約3分の1,ホジキンリンパ腫やNK/Tリンパ腫でみられる.EBVはinvitroにおいてBリンパ球を無限増殖可能なリンパ芽球様細胞株(Lymphoblastoid cell line: LCL)へとトランスフォームする活性をもつ(Bリンパ球の不死化とよばれる).LCLは潜伏感染遺伝子すべてを発現する3型を示し,日和見リンパ腫などではLCL様の腫瘍細胞が増殖していると考えられる.しかし正常な免疫状態ではEBNA3などがCTLの標的となるためLCL様の細胞の増殖はおこりにくく,遺伝子発現の限定されたⅠ型,Ⅱ型の潜伏感染様式を示す腫瘍細胞が増殖可能であると考えられる.

何故α、βウイルスは癌がないとされているのですがγヘルペスは癌を作るのか?
αやβウイルスが必ずしもがんの原因にならない一方、γヘルペスウイルスの一種であるEBウイルスは、特定の条件下でがんを誘発することが知られています。この違いは、各ウイルスの特性と、宿主の細胞に与える影響の違いに起因します。γヘルペスウイルスには、細胞の成長制御を乱す作用を持つものがあります。
がんを引き起こすメカニズムの違い
α・βウイルス:これらのウイルスは、細胞増殖を直接的にがん化するほど操作することは少ないです。
γヘルペスウイルス:EBウイルスは、細胞の増殖や分裂を制御する遺伝子に干渉し、細胞を異常な増殖に導くことがあります。一部のγヘルペスウイルスは、宿主のDNAと組み合わさり、細胞の異常な成長を促すことがあります。
主ながん原因ウイルス
がんを引き起こすことが知られているウイルスは、現在7種類が確認されています。
EBウイルス(ヒトヘルペスウイルス4型)
カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(ヒトヘルペスウイルス8型)
ヒトT細胞白血病ウイルス1型
B型肝炎ウイルス
C型肝炎ウイルス
ヒトパピローマウイルス
メルケル細胞ポリオーマウイルス

αヘルペスウイルスやβヘルペスウイルスは、通常、癌を引き起こさないと考えられていますが、γヘルペスウイルスが癌を引き起こすのは、以下のような生物学的な特性とメカニズムの違いによります。
ウイルスの潜伏様式と標的細胞の違い
αヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルスなど): 主に神経細胞に潜伏感染します。潜伏感染中はウイルスの遺伝子の発現が非常に限定的で、細胞の増殖を促すような働きはしません。通常、免疫系によってがん化する前に排除されるか、潜伏状態を維持します。
γヘルペスウイルス(EBウイルス、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスなど): 主にリンパ球(B細胞など)に潜伏感染します。γヘルペスウイルスは、潜伏感染中に宿主細胞の増殖を促し、細胞死(アポトーシス)を抑制する遺伝子を発現させることで、感染した細胞が異常に増殖するのを助けます。

遺伝子発現と細胞増殖への影響
γヘルペスウイルスは、細胞の増殖を制御する重要な遺伝子に直接働きかけ、細胞を悪性化させます。
遺伝子産物による発がん: EBウイルスは「LMP-1」のような遺伝子を、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルスは「vGPCR」のような遺伝子を発現させます。これらは細胞の増殖シグナルを活性化し、アポトーシスを阻害するなどの働きをすることで、がん化を促進します。
免疫系の抑制: γヘルペスウイルスは、宿主の免疫系を回避するメカニズムを多数持っており、感染細胞が免疫細胞に認識されて排除されるのを防ぎます。これにより、異常な細胞が生き残り、増殖しやすくなります。

免疫不全状態での発症

γヘルペスウイルスによる発がんは、特に免疫機能が低下している患者で顕著に見られます。
免疫監視からの逃避: 健常者であれば、ウイルスに感染した異常な細胞は免疫系によって速やかに排除されます。しかし、免疫不全の状況下ではこの「免疫監視機構」が機能せず、γヘルペスウイルスに感染した細胞が無制限に増殖し、腫瘍を形成しやすくなります。

炎症と遺伝子変異の誘導
慢性炎症: γヘルペスウイルスの持続感染は、慢性的な炎症を引き起こすことがあります。慢性炎症は細胞に酸化ストレスや損傷を与え、遺伝子変異を蓄積させ、がん化のリスクを高めます。
「ヒット・アンド・ラン」メカニズム: 一部のαヘルペスウイルスでも、実験的にはがん化を促す可能性が示唆されていますが、ウイルスDNAが細胞のがん化を開始させ、その後に消失する「ヒット・アンド・ラン」メカニズムが提唱されているに過ぎません。γヘルペスウイルスのように、ウイルス遺伝子自体が細胞内に持続して発がんを促進するわけではありません。

まとめると、αやβヘルペスウイルスは潜伏感染中の遺伝子発現が限定的で、癌を直接引き起こすような分子メカニズムを持たないのに対し、γヘルペスウイルスは、潜伏感染中に細胞の増殖を促し、アポトーシスを抑制する遺伝子を発現させ、さらに免疫監視機構を回避する能力を持つため、がんを形成するのです。

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