「かゆみ」はかつて「痛みの弱いもの」と考えられていましたが、現在は「痛みとは独立した専用の伝達システム」があることが解明されています。
かゆみを感知し、脳へ伝える「かゆみセンサー(受容体)」のメカニズムをスッキリ解説します。
1. 末梢(皮膚)のセンサー:受容体
皮膚にある神経の末端には、特定の刺激をキャッチする「センサー」が備わっています。
ヒスタミン受容体(H1受容体)です。
ヒスタミン受容体(H1受容体)とはヒスタミンH1受容体(H1受容体)は、体内でアレルギー反応や炎症を引き起こす主要な受容体で、花粉症やくしゃみ、かゆみ、鼻水、蕁麻疹などの症状を発生させ、気管支収縮(喘息の原因)や血管拡張・透過性亢進(腫れや赤み)に関与します。H1受容体をブロックする抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)は、これらの症状を抑えるために使われ、脳にも存在するため眠気(鎮静作用)を引き起こすこともあります。
ヒスタミンの血管拡張・透過性亢進のメカニズムはヒスタミンが血管を広げ、血液成分を漏れやすくする(透過性亢進)メカニズムには、主に血管の内側を覆う「血管内皮細胞」のH1受容体が関わっています。
1. 血管拡張のメカニズム(NOの放出)
ヒスタミンが結合すると、血管をリラックスさせる物質が作られます。
H1受容体への結合: 血管内皮細胞にあるH1受容体にヒスタミンが結合します。
Ca²⁺濃度の「上昇」: 細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇します。
一酸化窒素(NO)の生成: 上昇したカルシウムが一酸化窒素合成酵素(NOS)を活性化し、NO(一酸化窒素)を放出させます。
平滑筋の弛緩: 放出されたNOが血管の外側にある「平滑筋」に届き、筋肉を緩めることで血管が広がります(拡張)。ヒスタミンがH1受容体に結合することで、細胞内貯蔵庫(小胞体)からカルシウムイオンが放出され、細胞質内のCa²⁺濃度が急激に上昇します。この濃度変化がスイッチとなり、一酸化窒素(NO)の合成や細胞の収縮が引き起こされます。
2. 血管透過性亢進のメカニズム(細胞の収縮)
血管の壁から水分やタンパク質が漏れ出す現象は、内皮細胞が「縮む」ことで起こります。
内皮細胞の収縮: ヒスタミン刺激により、内皮細胞内の骨格(アクチンフィラメント)が変化し、細胞自体がギュッと縮みます。
隙間の発生: 細胞同士を接着しているVE-カドヘリンなどの結合が緩み、細胞と細胞の間に「隙間(内皮間隙)」が生まれます。
成分の漏出: その隙間から、通常は通れない血漿タンパク質や水分が血管の外(組織)へ漏れ出します。これが浮腫(むくみ)や膨疹(はれ)の正体です。
補足:血流増加の影響
最近の研究では、単に細胞に隙間ができるだけでなく、NOによる血流自体の増加が血管壁への圧力を高め、より多くの水分を押し出すことも透過性亢進に大きく寄与していると考えられています。
H1受容体の主な役割
アレルギー・炎症反応: アレルゲンが体内に入ると、肥満細胞からヒスタミンが放出され、H1受容体に結合して炎症反応(血管拡張、かゆみ、くしゃみなど)を引き起こします。
症状の発生:
血管内皮細胞: 血管を拡張させ、透過性を高め、腫れ(浮腫)や赤みを生じさせます。
神経: 神経に作用してかゆみを感じさせます。
気管支平滑筋: 収縮させて気道を狭めます(喘息の原因)。
中枢神経系: 脳にも存在し、覚醒や興奮を保つ役割(神経伝達物質としてのヒスタミン)も担っています。
抗ヒスタミン薬の治療での使われ方(抗ヒスタミン薬)
抗アレルギー作用: H1受容体にヒスタミンが結合するのを邪魔(拮抗)し、アレルギー症状を緩和します。
副作用(眠気): 脳内のH1受容体をブロックすると眠気が起こり(第1世代抗ヒスタミン薬)、これを避けるために脳への移行性が低い薬(第2世代抗ヒスタミン薬)も開発されています。
抗ヒスタミン薬の役割: 蚊に刺された時や蕁麻疹の際、肥満細胞から出る「ヒスタミン」をキャッチします。
特徴: 抗ヒスタミン薬がよく効くタイプのかゆみです。
PAR2(プロテアーゼ活性化受容体2)
役割: ダニの排泄物や細菌、黄色ブドウ球菌などが持つ「酵素(プロテアーゼ)」に反応します。
特徴: アトピー性皮膚炎の激しいかゆみに関与しています。
Mrgprs(マサツ受容体群)とはMrgprs(Mas関連Gタンパク質共役受容体群)は、近年の研究で明らかになった「ヒスタミンを介さないかゆみ」の鍵を握る受容体ファミリーです。Mrgprsの英語は正確な英語表記は Mas-related G protein-coupled receptors です。 東京大学の研究報告などでもこの名称で記載されています。
内訳を分解すると以下の通りです:
Mas-related: 原型となった「Mas受容体」に関連した
G protein-coupled receptors: Gタンパク質共役受容体(GPCR)というタンパク質のグループ
頭文字を繋げて Mrgprs(末尾のsは複数形)と呼ばれます。
その名の通り、かつてはMas受容体に関連する「孤児受容体(役割不明)」とされていましたが、現在では知覚神経の末端で多種多様なかゆみ物質をキャッチするセンサーであることが分かっています。
1. 「ヒスタミン非依存性かゆみ」の司令塔
抗ヒスタミン薬が効かないかゆみの多くが、このMrgprsを経由しています。
MrgprX1: 薬物の副作用や、牛バエなどの寄生虫に由来する物質に反応します。
MrgprX2: 肥満細胞に存在し、ある種の薬剤(抗生物質など)や神経ペプチドに反応して、ヒスタミンとは別のルートで炎症・かゆみを引き起こします。
2. 「痛み」を「かゆみ」に変える?
Mrgprsは、通常は「痛み」として感じるはずの刺激を「かゆみ」として脳に誤認させるプロセスに関わっている可能性が指摘されています。これが「掻くと痛いけれど、すぐまたかゆくなる」という複雑な感覚の一因かもしれません。
3. なぜ「マサツ」と呼ぶ?
正確には英語の Mas-Related G Protein-Coupled Receptors の略称ですが、日本では「マサツ(Mrg)」という語感から覚えられがちです。研究者の間でも、この受容体をブロックすることで、「既存の薬が全く効かなかった難治性のかゆみ」を克服できるのではないかと期待されています。
ヒスタミン・IL-31・GRP・Mrgprs の関係図
ヒスタミン: H1受容体を刺激(じんましん系)
IL-31: 免疫T細胞から放出(アトピー系)
Mrgprs: 神経末端で多様な刺激をキャッチ(難治性・薬剤性)
GRP: 脊髄でそれらの信号を脳へパス(共通の伝達役)
役割: ヒスタミン以外の物質(クロロキンなど)に反応するセンサー。
特徴: 近年、「ヒスタミンが効かないかゆみ」の正体として注目されています。
TRPチャネル(TRPV1, TRPA1など)。TRPV1, TRPA1の英語は何?それぞれの英語表記は以下の通りです。
TRPV1: Transient Receptor Potential Vanilloid 1
(トランジェント・レセプター・ポテンシャル・バニロイド1)
TRPA1: Transient Receptor Potential Ankyrin 1
(トランジェント・レセプター・ポテンシャル・アンキリン1)
これらはTRPチャネルファミリーと呼ばれるセンサー群で、かゆみや痛み、温度を感じ取る役割を担っています。
簡単に解説すると:
TRPV1: カプサイシン(唐辛子)や43℃以上の熱に反応する「熱刺激センサー」です。
TRPA1: ワサビやシナモン、冷刺激(17℃以下)に反応する「化学・冷刺激センサー」です。
最近の研究では、先ほど挙げられた Mrgprs が受け取った刺激を、最終的にこの TRPV1やTRPA1 が電気信号に変換して神経を興奮させるという、連携プレイの仕組みが解明されつつあります
役割: 温度やカプサイシン(熱さ)に反応するセンサーですが、かゆみの信号増幅にも深く関わっています。
2. 脊髄での「中継」センサー:ガストリン放出ペプチド
皮膚でキャッチされた信号は脊髄へ送られますが、ここで「かゆみ専用のスイッチ」が押されます。
GRP(ガストリン放出ペプチド)
役割: 脊髄において「かゆみの信号」を脳へ送るための専用の神経伝達物質です。
重要性: これをブロックすると、痛みは感じるのに「かゆみだけ感じなくなる」ことが研究で分かっています。GRP(ガストリン放出ペプチド)とはもともとは胃酸分泌を促すホルモンとして発見されましたが、近年の研究で「脳へかゆみを伝える専用の伝達物質」であることが判明し、非常に注目されています。
「ヒスタミンが効かないかゆみ」の正体に一歩踏み込んだ、非常に鋭いポイントです。
1. 「かゆみ専用」の伝達物質
皮膚で発生したかゆみの信号は、脊髄を通って脳へ伝わります。このとき、脊髄の中で信号を中継するのがGRPです。
中継役: 皮膚からの神経末端からGRPが放出され、脊髄にあるGRP受容体(GRPR)に結合することで、「かゆい!」という情報が脳へ送られます。
かゆみ特異性: 面白いことに、GRPは「痛み」には反応せず、ほぼ「かゆみ」の伝達だけに特化していると考えられています。
2. ヒスタミンとの関係
IL-31(インターロイキン31)などが「皮膚レベル」でかゆみを起こすのに対し、GRPは「神経の通り道(脊髄レベル)」でかゆみを増幅させます。
抗ヒスタミン薬が効かない頑固なかゆみも、最終的にはこのGRPのルートを通って脳に伝わることが多いため、GRP受容体をブロックする薬が「究極のかゆみ止め」になるのではないかと研究が進められています。
3. 腫瘍マーカーとしての側面
医療現場では、かゆみ以外に肺がん(小細胞肺がん)の腫瘍マーカー(ProGRP)としても利用されています。がんと診断された際にかゆみを伴うことがあるのは、がん細胞がGRPを放出するためだという説もあります。
IL-31とGRPのまとめ
IL-31 = 皮膚で炎症とかゆみを起こす(現場の犯人)
GRP = 脊髄でかゆみ信号を脳へ送る(情報の運び屋)
3. 脳の「帯状回」や「島皮質」といった場所がかゆみを認識し、「かきむしりたい!」という欲求(スクラッチ行動)を引き起こします。かくと快感を得るため、さらにかきたくなる「かゆみの悪循環」が生まれます。
4. 漢方とのかゆみセンサーへのアプローチ
漢方薬はこれらセンサーの過敏状態を和らげる働きがあります。
消風散(しょうふうさん):熱を冷ますことで、温度感受性センサー(TRPチャネル)の興奮を鎮めます。
黄連解毒湯(おうれんげどくとう):強力な抗炎症作用により、受容体を刺激する化学物質の発生自体を抑えます。
実は、ヒスタミンが原因(H1受容体経由)のかゆみは、アレルギー性のじんましんなどが主で、「ヒスタミンが効かないかゆみ(抗ヒスタミン薬抵抗性)」は日常的に多く存在します。
抗ヒスタミン薬抵抗性の頑固なかゆみには、主に以下の2つのメカニズムが関係していることが多いです。
1. 神経の過敏化(イッチ・スクラッチ・サイクル)
かゆみを伝える神経(C線維)が表皮のすぐ近くまで伸びてきて、わずかな刺激(衣類のこすれ、温度変化)でも激しいかゆみを感じる状態です。
対策: ヘパリン類似物質などを含む保湿剤でバリア機能を修復し、外敵刺激から神経を保護することが最優先されます。
2. ヒスタミン以外の物質(サイトカイン等)
湿疹やアトピー性皮膚炎では、ヒスタミンではなくIL-31(インターロイキン31)などのサイトカインが直接神経を刺激します。IL-31とはIL-31(インターロイキン31)は、別名「かゆみ性サイトカイン」と呼ばれる、かゆみを引き起こす中心的なタンパク質です。
アトピー性皮膚炎などの湿疹において、ヒスタミンが効かない「頑固なかゆみ」の主犯格とされています。
1. なぜ「ヒスタミンが効かない」のか?
ヒスタミンは肥満細胞から出ますが、IL-31は主に活性化したT細胞(免疫細胞)から放出されます。
直接刺激: IL-31は、知覚神経の末端にある「IL-31受容体」にダイレクトに結合します。
ヒスタミンのルートをバイパス: ヒスタミンのルートを通らずにかゆみを伝えるため、抗ヒスタミン薬(H1ブロック)を飲んでもこのかゆみは止まりません。
2. かゆみの悪循環を加速させる
IL-31には、単にかゆみを起こすだけでなく、皮膚の状態をさらに悪化させる厄介な性質があります。
バリア機能の低下: 皮膚の保湿に重要な「フィラグリン」などの生成を抑えてしまい、乾燥を悪化させます。
「フィラグリン」(Filaggrin / Filament Aggregating Protein)とは肌のバリア機能を支える「保湿の元」となるタンパク質です。
アトピー性皮膚炎や乾燥肌のメカニズムを語る上で、最も重要な要素の一つです。
1. 「天然保湿因子(NMF)」の原料
フィラグリンは表皮の細胞で作られ、最終的にバラバラに分解されます。その分解物が天然保湿因子(NMF)となり、角層の中で水分をがっちり抱え込む役割を果たします。
原料: プロフィラグリンという前駆体から作られます。
機能: 水分を保持し、肌のpH(弱酸性)を維持して雑菌の繁殖を防ぎます。
2. 「レンガの接着剤」を補強する
角層を「レンガ壁」に例えると、細胞(レンガ)の中にあるフィラグリンは、ケラチンという繊維を束ねて細胞の形を整え、壁を強固にする役割を担っています。ケラチンは繊維ですか?はい、ケラチン(Keratin)は非常に強固な構造を持つ「繊維状のタンパク質」です。日本生化学会などの定義でも、細胞の骨格を形作る「中間径フィラメント」の一種として分類されています。
皮膚のバリアにおけるケラチンの役割は、以下の通りです。
1. ケラチンは「細胞の骨組み」としての繊維
皮膚の角層細胞(レンガ)の中で、ケラチンは網目状の繊維として張り巡らされています。
フィラグリンとの関係:フィラグリンは、このバラバラなケラチン繊維をギュッと束ねて固める「糊(のり)」のような役割をします。
強度の維持: ケラチンがフィラグリンによって束ねられることで、細胞は硬く丈夫になり、物理的な刺激に強い「角層」が完成します。
「角層」とは角層(かくそう、Stratum Corneum)は、肌の最も外側に位置する、わずか0.02mm(ラップ1枚分)ほどの厚さの層です。「死んだ細胞の集まり」と言われることもありますが、実際には生体防御の最前線として高度な機能を果たしています。
1. 「レンガとモルタル」の構造
角層の仕組みは、よく建物の壁に例えられます。
レンガ(角層細胞): 中にはケラチン繊維が詰まり、フィラグリンによって強固に固められています。
モルタル(細胞間脂質): 細胞の隙間を埋める脂質で、主成分はセラミドです。これが水分を挟み込み、蒸発を防いでいます。
2. 角層の主な2つの役割
バリア機能: 外からの刺激(細菌、ウイルス、アレルゲン、紫外線)の侵入をブロックします。
保湿機能: 体内の水分が外へ逃げるのを防ぎます。
3. かゆみとの深い関係
角層が健やかであれば、ヒスタミンを出す肥満細胞や、かゆみを感じる神経(C線維)は奥深くに隠れています。しかし、乾燥などで角層がめくれると神経が伸びてくる: 刺激を求めて神経が角層のすぐ下まで伸びてきます。
刺激の直撃: 普段なら通さないような微細な刺激がダイレクトに神経を刺激して興奮させてしまい、IL-31やGRPを介した激しいかゆみを引き起こします。
4. ターンオーバーの終着点。皮膚の細胞のターンオーバー(Turnover)とは肌の細胞が新しく生まれ変わり、古い細胞が剥がれ落ちる「」のことです。
皮膚の細胞の新陳代謝のサイクルは主に以下のプロセスで進みます。
1. ターンオーバーの仕組み(4つのステップ)
誕生(基底層): 表皮の最も深いところにある「基底細胞」が分裂して、新しい細胞が生まれます。
形を変えながら上昇: 細胞が徐々に形を変え、ケラチンなどのタンパク質を作りながら表面へ押し上げられます。
角層の形成: 細胞が核を失い、丈夫な「角層」となります。ここでフィラグリンが分解され保湿成分に変わります。
剥離(垢): 最後に役目を終えた細胞が、目に見えないほど小さな垢となって剥がれ落ちます。
2. 理想的なサイクル
一般的に約28日間(基底層から角層まで14日+角層として留まるのが14日)と言われますが、これは20代の目安です。加齢とともに周期は長くなり、40代では約45日以上かかるとも言われています。
3. 「早すぎ」も「遅すぎ」も問題
早すぎる場合(未熟な細胞): 炎症や強い摩擦(掻き壊し)があると、肌は大急ぎで修復しようとサイクルを早めます。しかし、急いで作った細胞はフィラグリンやセラミドが不足しているため、バリア機能がスカスカな肌になり、ヒスタミンなどの刺激に敏感になります。
遅すぎる場合(停滞): 加齢などでサイクルが遅れると、古い角質が居座り、肌がゴワゴワしたり、くすみの原因になります。
皮膚の細胞の新陳代謝のまとめ
健康な肌とは、このターンオーバーが「適切なスピード」で繰り返されている状態を指します。「掻く」という行為(イッチ・スクラッチ・サイクル)は、このターンオーバーを強制的に早めてしまい、未熟な肌を露出させてさらなるかゆみを招く元凶となります。イッチ・スクラッチ・サイクルの英語と意味とは「イッチ・スクラッチ・サイクル」の英語表記と、それぞれの単語が持つ意味は以下の通りです。英語表記はItch-Scratch Cycleでそれぞれの意味は以下の通りです。
1. Itch(イッチ)
意味: 「かゆみ」(名詞)、または「かゆい」(動詞)。
このサイクルでの役割: 始まりの合図です。ヒスタミンやIL-31などの物質が神経を刺激し、「かゆい」という信号が脳に伝わった状態を指します。
2. Scratch(スクラッチ)
意味: 「(爪などで)掻く」「ひっかく」。
このスクラッチのサイクルでの役割: かゆみに対する反応行動です。掻くことで一時的に「痛み」が脊髄で上書きされ、かゆみが紛れたように感じますが、同時に角層を物理的に破壊します。「痛み」が脊髄で上書きされの意味とは脊髄には信号の通り道を閉鎖したり促進したりする調節する「ゲート(門)」のような場所があります。掻くことで強い「痛み・刺激」の信号が脳へ殺到すると、脊髄のゲートでかゆみの信号がブロック(上書き)され、一時的に脳まで届かなくなるのです。
このように「かゆいところを掻くと気持ちいい、または楽になる」と感じる背景には、脳と神経の巧妙なメカニズムが関係しています。
1. ゲートコントロール理論
神経が情報を伝えるスピードや優先順位を利用した仕組みです。
信号の混雑: かゆみを伝える神経(C線維)よりも、掻いたときの「痛み」や「刺激」を伝える神経(Aβ線維など)の方が、情報を伝えるスピードが速いという特性があります。
脊髄の関門(ゲート)の閉鎖: 脊髄には「痛み・刺激」の信号と「かゆみ」の信号の通り道を調節する「ゲート(門)」のような場所があります。掻くことで強い「痛み・刺激」の信号が脳へ殺到すると、脊髄のゲートでかゆみの信号がブロック(上書き)され、一時的に脳までかゆみの信号が届かなくなります。
2. 快感物質(ドパミン)の放出
掻く刺激は、脳の報酬系を刺激し、ドパミンなどの快感物質を放出させます。
一時的な麻痺: この快感によって「かゆみ」という不快な感覚が塗りつぶされます。これが「掻き始めると書くことが止まらない」原因となるのです。
3. 下行性抑制系の活性化
強い痛み刺激が加わると、脳はそれを和らげようとして、脊髄に向かって「痛みやかゆみを抑えろ」という指令(内因性オピオイドなど)を出します。これが一時的にかゆみを鎮めます。内因性オピオイド(Endogenous Opioids)とは、私たちの体の中で作られる「天然の鎮痛剤(麻薬様物質)」のことです。脳が強いストレスや痛みを感じた際に、それを和らげるために内因性オピオイド(Endogenous Opioids)が分泌されます。
1. 内因性オピオイド(Endogenous Opioids)の主な種類と役割
以下の3つが代表的です。
- β-エンドルフィン: 「脳内麻薬」とも呼ばれ、多幸感をもたらし、痛みを強力に抑えます。ランナーズハイの原因とも言われます。
- エンケファリン: 脊髄などで、痛み信号の伝達をブロックします。
③ダイノルフィン: 痛みの抑制に関わりますが、実は「かゆみ」を強める側面も持っています。
2. かゆみとの深い関係(ブレーキとアクセル)
かゆみの世界では、内因性オピオイドの「バランス」が非常に重要です。
ブレーキ(μ受容体): β-エンドルフィンなどが結合すると、痛みは抑えられますが、副作用として「かゆみ」を引き起こすことがあります(モルヒネを使うとかゆくなるのと似た原理です)。
アクセルとブレーキの逆転(κ受容体): ダイノルフィンなどが結合すると、逆にかゆみを抑える働きをします。
3. なぜ「ヒスタミンが効かないかゆみ」に効くのか?
肝疾患や腎不全(透析)に伴う、末梢(皮膚)ではなく「脳」で感じるかゆみは、このオピオイドのバランスが崩れ、μ受容体(かゆみ促進)が優位になることで起こります。
「ヒスタミンが効かないかゆみ」の治療: このオピオイドのバランスを整えるために、先述したナルフラフィン(レミッチ)のような、κ受容体を刺激する「抗そう痒薬」が使われます。「抗そう痒薬」とは抗そう痒薬(こうそうようやく、Antipruritics)とは、その名の通り「そう痒(かゆみ)」を抑えるための薬の総称です。
「かゆみ=抗ヒスタミン薬」と思われがちですが、医学的にはかゆみの発生ルートに合わせて、以下のように使い分けられます。
1. 抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)
最も一般的なかゆみ止めです。
ターゲット: H1受容体。
適応: じんましん、花粉症、湿疹の初期など、ヒスタミンが主因のかゆみ。
注意: 先述の「ヒスタミンが効かないかゆみ(IL-31やGRP由来)」には効果が薄いことがあります。
2. オピオイド受容体調節薬(レミッチなど)
脳や脊髄にある「かゆみのスイッチ」を調整する新しいタイプの薬です。
ターゲット: κ(カッパ)受容体を刺激し、μ(ミュー)受容体(かゆみを強める側)を抑える。
適応: レミッチ(一般名:ナルフラフィン)は、透析患者さんや肝疾患に伴う、既存の薬が効かない「難治性のかゆみ」に使用されます。
3. 外用抗そう痒薬(塗り薬)
皮膚の表面から直接アプローチします。
局所麻酔薬成分: リドカインなどが、知覚神経(TRPV1など)の興奮を一時的に麻痺させます。
清涼剤: メントール(TRPM8受容体に作用)などが「冷たい」という刺激でかゆみを上書きします。
抗炎症薬: ステロイドやタクロリムスが、IL-31などの原因となる炎症自体を鎮めます。
タクロリムスとはアトピー性皮膚炎の治療では、ステロイドではない塗り薬としてプロトピック軟膏という名称で広く知られています。
1. メカニズム:T細胞の暴走を止める
かゆみの元となるIL-31などのサイトカインは、免疫の司令塔である「T細胞」から放出されます。
カルシニューリン阻害: タクロリムスは、T細胞内の「カルシニューリン」という酵素の働きをブロックします。
蛇口を閉める: これにより、かゆみや炎症を引き起こす物質(サイトカイン)の産生を根本からストップさせます。
2. ステロイドとタクロリムスとの違い・メリット
皮膚が薄くならない: ステロイドを長期間使うと皮膚が薄くなる副作用(皮膚萎縮)がありますが、タクロリムスにはその心配がほぼありません。
デリケートな部位に強い: 顔や首など、皮膚が薄くてステロイドの副作用が出やすい場所に非常に適しています。
3. 特有の「刺激感」
使い始めに、塗った部位に「熱感(火照り)」や「ヒリヒリ感」が出ることがあります。
原因: 実はこれ、先ほど登場したTRPV1(熱刺激センサー)をタクロリムスが一時的に刺激するために起こります。
経過: 皮膚の状態が良くなり、バリア機能が回復してくると、この刺激感は数日で消えていくのが一般的です。
4.タクロリムスの 飲み薬としての別の顔
もともとは臓器移植後の拒絶反応を抑える薬として開発されました。強力な免疫抑制作用があるため、現在でも重症の自己免疫疾患などで飲み薬として使われることがあります。
ステロイドとタクロリムスのまとめ
ステロイド = 炎症全体を「強力に抑え込む」
タクロリムス = 免疫のスイッチを「スマートにオフにする」
4. 生物学的製剤(ミチーガなど)1/16
特定の「かゆみ物質」だけをピンポイントでブロックする、最新の注射薬です。
ターゲット: IL-31受容体。
適応: アトピー性皮膚炎の激しいかゆみ。
抗そう痒薬まとめ
「抗そう痒薬」という言葉は広い意味を持ちますが、最近では特に「抗ヒスタミン薬が効かないかゆみ」に対する飲み薬を指して使われる場面も増えています。
これまで深掘りしてきた GRP や Mrgprs をターゲットにした新しい抗そう痒薬も、現在世界中で研究されています。
抗そう痒薬の総まとめ
内因性: 自分の体の中で作られる
オピオイド: アヘン(麻薬)に似た作用を持つ物質
「掻くことで一時的に楽になる」のは、このオピオイドが脳内で放出され、一瞬の多幸感とかゆみの抑制をもたらすからですが、その後にリバウンドが待っています。
これまで登場した H1・IL-31・GRP・Mrgprs・TRP が「皮膚から脊髄」のルートなら、オピオイドは「脳」を中心としたルートと言えます。「薬を塗っても効かない、内側から突き上げるようなかゆみ」にお悩みだったりしますか?
「上書き」の代償1・16
残念ながら、この効果は「一時的なごまかし」に過ぎません。
刺激が消えると再燃: 掻くのをやめると、痛みによる上書き効果が消え、さらに炎症が悪化した状態(IL-31やGRPの放出)で、より強いかゆみが襲ってきます。
さらなるダメージ: 上書きのために強く掻けば掻くほど、角層やフィラグリンが破壊され、「イッチ・スクラッチ・サイクル」が加速してしまいます。
冷やしたり叩いたりするのも「刺激による上書き」の一種ですが、皮膚を傷つけない分、掻くよりはダメージが少なくなります。
現在は、「掻くのが止められなくて、つい血が出るまで掻いてしまう」といった状況でしょうか?
3. Cycle(サイクル)
意味: 「周期」「循環」「悪循環」。
このサイクルでの役割: 繰り返される終わりなきループを指します。
サイクルの全容
英語圏の医療現場では、以下のような流れで説明されます。
Itch: 皮膚がかゆくなる。
Scratch: 我慢できずに掻く。
Inflammation: 掻くことで皮膚バリア(フィラグリンなど)が壊れ、炎症が起きる。
More Itch: 炎症によってさらに強力なかゆみ物質(サイトカイン)が放出され、神経が過敏になる。
Repeat: 1に戻り、さらに激しく掻いてしまう。
この悪循環を断ち切るために、日本皮膚科学会などのガイドラインでは、「薬でかゆみを抑える(Itchの遮断)」と「保湿でバリアを補う(Scratchのダメージ軽減)」の両立が推奨されています。
現在は、「肌がゴワついて治りにくい」状態でしょうか?それとも「炎症で赤く、皮が剥けやすい」状態でしょうか?それによって必要なケア(守るケアか、促すケアか)が変わります。
基底層で生まれた細胞が形を変えながら押し上げられ、最後に核を失って角層になります。役目を終えると垢(アカ)として剥がれ落ちますが、この剥がれるペースが乱れると、肌荒れやかゆみの原因になります。
これまで解説したフィラグリン(レンガの強度)の不足やセラミド(モルタル)の不足は、すべてこの「角層」の崩壊に直結します。
2. 髪や爪も「ケラチン繊維」
皮膚だけでなく、髪の毛や爪の主成分もケラチンです。2種類のケラチン繊維があります。
硬ケラチン: 髪や爪に含まれる、より硫黄(システイン)が多くて硬いタイプ。
軟ケラチン: 皮膚の角層に含まれる、比較的柔軟なタイプ。
3. バリア機能への貢献
ケラチン繊維がしっかり詰まっていることで、肌は外からの衝撃に耐え、内部の水分が蒸発するのを防ぐことができます。ケラチンが不足したり、フィラグリンによる「束ね」がうまくいかないと、皮膚の構造がもろくなり、かゆみ物質(ヒスタミンやIL-31など)が反応しやすい状態になってしまいます。
これまでの話をまとめると、「ケラチン(鉄筋)を、フィラグリン(コンクリート)が固めて、丈夫な壁(皮膚)を作る」というイメージです。
これが不足すると、レンガがスカスカになり、外からのアレルゲンや刺激物質が侵入しやすくなります。
3. フィラグリン遺伝子とアトピー
多くのアトピー性皮膚炎患者において、フィラグリンを作る遺伝子の異常(変異)が見つかっています。
遺伝的要因: 生まれつきフィラグリンが少ないと、バリア機能が弱いため、ダニや花粉などが容易に侵入して免疫系を刺激し、アレルギー症状を引き起こします。
後天的要因: 先述の IL-31(かゆみ物質) が過剰に出ると、フィラグリンの産生を抑えてしまい、さらに乾燥が悪化するという悪循環に陥ります。
まとめ
フィラグリン不足 = 肌の貯水タンクが空っぽ + 防壁がザル状態。
この欠乏を補うために、ヘパリン類似物質やセラミドなどの保湿剤による外側からの補強が不可欠になります。
これまで挙げられた H1・IL-31・GRP・Mrgprs・TRP などの「かゆみの回路」が活発になるのは、そもそもこのフィラグリン不足によるバリア崩壊がスタート地点であることも多いです。フィラグリン(Filaggrin / Filament Aggregating Protein)は、「フィラグリン」
フィラグリン(Filaggrin / Filament Aggregating Protein)は、肌のバリア機能を支える「保湿の元」となるタンパク質です。
アトピー性皮膚炎や乾燥肌のメカニズムを語る上で、最も重要な要素の一つです。
1. 「天然保湿因子(NMF)」の原料
フィラグリンは表皮の細胞で作られ、最終的にバラバラに分解されます。その分解物が天然保湿因子(NMF)となり、角層の中で水分をがっちり抱え込む役割を果たします。
原料: プロフィラグリンという前駆体から作られます。
機能: 水分を保持し、肌のpH(弱酸性)を維持して雑菌の繁殖を防ぎます。
2. 「レンガの接着剤」を補強する
角層を「レンガ壁」に例えると、細胞(レンガ)の中にあるフィラグリンは、ケラチンという繊維を束ねて細胞の形を整え、壁を強固にする役割を担っています。
これが不足すると、レンガがスカスカになり、外からのアレルゲンや刺激物質が侵入しやすくなります。
3. フィラグリン遺伝子とアトピー
多くのアトピー性皮膚炎患者において、フィラグリンを作る遺伝子の異常(変異)が見つかっています。
遺伝的要因: 生まれつきフィラグリンが少ないと、バリア機能が弱いため、ダニや花粉などが容易に侵入して免疫系を刺激し、アレルギー症状を引き起こします。
後天的要因: 先述の IL-31(かゆみ物質) が過剰に出ると、フィラグリンの産生を抑えてしまい、さらに乾燥が悪化するという悪循環に陥ります。
まとめ
フィラグリン不足 = 肌の貯水タンクが空っぽ + 防壁がザル状態。
この欠乏を補うために、ヘパリン類似物質やセラミドなどの保湿剤による外側からの補強が不可欠になります。
これまで挙げられた H1・IL-31・GRP・Mrgprs・TRP などの「かゆみの回路」が活発になるのは、そもそもこのフィラグリン不足によるバリア崩壊がスタート地点であることも多いです。肌のバリア機能を支える「保湿の元」となるタンパク質です。
アトピー性皮膚炎や乾燥肌のメカニズムを語る上で、最も重要な要素の一つです。
1. 「天然保湿因子(NMF)」の原料
フィラグリンは表皮の細胞で作られ、最終的にバラバラに分解されます。その分解物が天然保湿因子(NMF)となり、角層の中で水分をがっちり抱え込む役割を果たします。
原料: プロフィラグリンという前駆体から作られます。
機能: 水分を保持し、肌のpH(弱酸性)を維持して雑菌の繁殖を防ぎます。
2. 「レンガの接着剤」を補強する
角層を「レンガ壁」に例えると、細胞(レンガ)の中にあるフィラグリンは、ケラチンという繊維を束ねて細胞の形を整え、壁を強固にする役割を担っています。
これが不足すると、レンガがスカスカになり、外からのアレルゲンや刺激物質が侵入しやすくなります。
3. フィラグリン遺伝子とアトピー
多くのアトピー性皮膚炎患者において、フィラグリンを作る遺伝子の異常(変異)が見つかっています。
遺伝的要因: 生まれつきフィラグリンが少ないと、バリア機能が弱いため、ダニや花粉などが容易に侵入して免疫系を刺激し、アレルギー症状を引き起こします。
後天的要因: 先述の IL-31(かゆみ物質) が過剰に出ると、フィラグリンの産生を抑えてしまい、さらに乾燥が悪化するという悪循環に陥ります。
まとめ
フィラグリン不足 = 肌の貯水タンクが空っぽ + 防壁がザル状態。
この欠乏を補うために、ヘパリン類似物質やセラミドなどの保湿剤による外側からの補強が不可欠になります。
これまで挙げられた H1・IL-31・GRP・Mrgprs・TRP などの「かゆみの回路」が活発になるのは、そもそもこのフィラグリン不足によるバリア崩壊がスタート地点であることも多いです。
神経を伸ばす: かゆみを感じる神経を皮膚の表面まで伸ばし、過敏な状態(神経の過敏化)を作り出します。
3. 最新の治療薬(ミチーガ)
このIL-31の働きをピンポイントで邪魔する画期的な薬が、世界に先駆けて日本で開発されたミチーガ(ネモリズマブ)という注射薬です。
IL-31受容体に先回りしてブロックすることで、アトピー性皮膚炎の「眠れないほどのかゆみ」を劇的に抑える効果が期待されています
対策: 炎症を抑えるステロイド外用薬や、特定のサイトカインをブロックするデュピクセントなどの生物学的製剤、または神経の過剰な興奮を抑える飲み薬が選択肢に入ります。
3. 内臓疾患に伴うかゆみ
肝疾患や腎不全(透析)に伴うかゆみは、脳内で分泌されるオピオイドという物質のバランスが崩れることで起こります。
対策: この場合は通常の抗ヒスタミン薬はほぼ効かず、ナルフラフィン(レミッチ)などの専用の治療薬が用いられます。