IgM抗体は一体何者なのでしょうか?
ご存じのように、Bリンパ球が形質細胞に分化して作られるImmuno-globulin(略してIgで、訳して抗体として働く蛋白)には5種類(クラス)があります。まず骨髄でBリンパ球のすべては膜状にIgDとIgEを持って生まれます。IgDは、免疫グロブリンD(Immunoglobulin D、IgD)であり、免疫グロブリンMとともに未成熟のB細胞表面に存在するタンパク質の約1%を占める抗体タンパク質の一つであり、血清中の分泌タンパク質としても極微量存在します。分泌IgDは、δクラスの2つの重鎖と2つのIg軽鎖からなる単量体です。分泌IgD抗体の半減期は2.8日です。IgDは扁桃腺および上気道にある抗体を産生する形質細胞から放出され、呼吸器系の免疫に関わっています。IgDはB細胞の膜型抗体としてIgMの後に膜型抗体として発現します。
IgDの機能は、IgDは、適応免疫システムを持つ軟骨魚からヒトまでの種に存在していることは、IgDが重要な免疫機能を持っていることを示唆しています。IgDの機能はB細胞が活性化するような信号を送り、B細胞を活性化することによって、B細胞は免疫系の一部として体の防御反応に参加する準備をさせます。B細胞の分化中、IgMは未成熟なB細胞によってのみ発現される独占的なアイソタイプです。その後IgDは、B細胞が骨髄を出て末梢リンパ組織に移入すると発現し始めます。B細胞が成熟状態に達すると、IgMとIgDの両方を共発現します。ごく微量である分泌IgDは好塩基球と肥満細胞に結合し、これらの細胞を活性化して抗菌因子を生成し、ヒトの呼吸器免疫防御に関与しています。
IgM
免疫グロブリンM(IgM)は、脊椎動物によって産生される抗体(免疫グロブリン)のいくつかのアイソタイプの1つですが、五量体から成り立つIgMは最大の抗体であり、抗原への最初の曝露に応答して現れる最初の抗体です。IgMを作り出す形質芽球(plasma-blast)は脾臓に最も多く存在しています。
免疫グロブリンは、軽鎖(λまたはκ)と重鎖から成り立っています。軽鎖のλまたはκはそれぞれ約220アミノ酸のタンパク質であり、可変ドメイン(約110アミノ酸のセグメント)と定常ドメイン(これも約110アミノ酸長)で構成されています。IgMのµ重鎖は、約576アミノ酸のタンパク質であり、可変ドメイン(VH、約110個のアミノ酸)、4つの異なる定常領域ドメイン(Cµ1、Cµ2、Cµ3、Cµ4、それぞれ約110アミノ酸)および約20個のアミノ酸のテールピースから成り立っています。µ重鎖は、オリゴ糖に5つのアスパラギン残基を持っています。テールピース(tailpiece)とは何でしょうか? 定常域の最端の尻尾に存在するテールピース(tailpiece)は5つのIgMを繋ぐのに必要であり、IgM重鎖(Ig-μ)鎖の定常域にあるアスパラギン残基のC末端のテールピースのペプチドが伸長して五量体が生まれるのです。5つのIgMを組み立てて五量体を作るきっかけは、2つのテールピースをつなぐジスルフィド結合の形成によって引き起こされます。これにより、テールピースと隣接するドメインのコンフォメーション変化が誘発され、さらなる重合が促進されます。大きくて立体的なIgM複合体の生合成は、アスパラギン残基のペプチド伸長による局所的なコンフォメーションスイッチが行われることによって生まれるのです。
IgMは、いくつかの他の生理学的分子と相互作用して3つの機能を果たします。
1)IgMは補体成分C1と結合することができ、補体の古典経路を活性化し、その結果、抗原をオプソニン化したり、病原体の細胞溶解をもたらします。
2)IgMは腸管腔などの粘膜表面に存在するPoly Immunoglobulin receptor(重合体免疫グロブリン受容体、略してpIgR)と結びついたり、さらに母乳に五量体のIgMを運ぶことができます。この結びつきはJチェーンによって行われます。Jチェーンとは何でしょう? 上図の紫の長方形がJチェーンです。JチェーンはIgM抗体のみならずIgA抗体でも見られます。
3)IgMに結合するFc受容体は腸粘膜の他に2種類があります。その2つのFc受容体はFcα/ µ-Rと、Fcµ-Rの2つです。Fcα/ µ-Rは、pIgRと同様に、高分子である五量体IgMと二量体IgAに結合します。Fcα/ µ-Rは腸管の粘膜細胞が行うエンドサイトーシスの仲介することができます。Fcµ-RはIgMだけに結合し、IgMと結合した抗原を腸管の粘膜細胞が取り込むのを仲介することができます。五量体のIgMが補体と結合した五量体IgM抗原補体複合体をBリンパ球が捕捉すると、このリンパ球は効率的な免疫応答が生成される脾臓の領域に複合体を輸送しやすくなり、IgMはIgGが作られる前の免疫応答の初期に産生されるために、二次リンパ節である脾臓に複合体を運搬することは抗体応答の開始に重要です。なぜならば、脾臓には自然免疫である補体によって捕捉された病原体をオプソニン作用によって食いつくす大食細胞や好中球がわんさかいるからです。
IgMの臨床的意義は、1)IgMは、ヒト胎児で受精約20週間後に発現する最初の免疫グロブリンです。系統発生的に最も初期に発現する抗体です。2)IgM抗体は感染の初期段階で出現しますが、IgM抗体はヒト胎盤を通過できません。ヒト胎盤を通過できるのはアイソタイプのIgGのみです。3)IgMのこれら2つの生物学的特性により、感染症の診断に役立ちます。患者の血清中のIgM抗体の発現は最近の感染を示し、新生児の血清中のIgM抗体は子宮内感染(先天性風疹症候群など)を示します。4)臓器移植後の抗ドナーIgMの発症は、移植片拒絶反応とは関連していません。にも関わらず、移植片に対してIgM(抗ドナーIgM)が作られるのはIgMが全てのこの世の有機物質を直接認識できる無限の多様性を持っているからです。5)正常な血清中のIgMは、事前の免疫がなくても、特定の抗原に結合することがよくあります。このため、IgMは「天然抗体」と呼ばれることもあります。この現象はIgMが全ての有機物質を認識する能力があるからです。さらに自分自身の分子も認識することができるので、自己免疫疾患が存在すると言われる理由となっています。たとえ自分自身の成分分子を認識しても自然免疫の大食細胞や樹枝状細胞のToll like receptorやNOD like receptorのPRRに認識されても、デンジャーシグナル(danger signal)としての反応が起こされないのです。
A型の血液型を持っている人に自然抗体であるA抗体ができているにも関わらず、なぜ自然抗体であるA抗体がA型の赤血球を攻撃しないのか?それはこの自然抗体(Natural antibody)はIgM抗体であるからです。
たとえば、赤血球のAおよびB抗原に結合するIgM抗体は、細菌またはおそらく植物材料にも存在するAおよびB様物質への曝露の結果として、幼少期に形成される可能性があります。
IgM抗体は、輸血のレシピエントが血液型に適合しない血液を受け取った場合、主に赤血球の凝集(凝集)の原因となります。