自己免疫疾患はない

Bリンパ球のToll like receptor(TLR)が認識しているにもかかわらず、なぜ自己を攻撃しないのでしょうか?言い換えると、なぜ自己免疫疾患はないのでしょうか? 2021.4.22更新

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あらゆる自己のDAMP moleculesを認識できるのは、Bリンパ球の膜抗体であり、かつレセプターである膜IgM抗体です。Bリンパ球のこのレセプターは、この世に存在するあらゆる有機物質やあらゆる分子を認識できるだけのレセプターを持って生まれてきているからです。例えばヘルペスが感染した細胞から漏れ出たDAMP moleculesの中には、核をはじめ、核内のあらゆる分子のみならず、細胞質に存在するあらゆる自己の分子を認識できるレセプターを持っているのです。このレセプターに認識されたあらゆる分子は、IgM膜抗体から分泌IgM抗体として血中に放出された抗体であり、IgG抗体ではないのです。これはT細胞に依存しない活性化によって分泌IgM抗体になるのです。Bリンパ球がIgG抗体を産生するためには、必ずヘルパーTリンパ球の手助けが必要なのです。ところが、このヘルパーTリンパ球は、MHC2と結びついたペプチド複合体を認識して、様々なサイトカインを作り出して初めてBリンパ球の膜IgM抗体がIgG抗体にクラススイッチができないからです。もちろんBリンパ球もAPCですから、膜IgM抗体と結びついた自己の成分の分子はBリンパ球の細胞内に取り込まれて、例えばAPCの細胞内にあるTLR4、TLR7、TLR9に認識されることもあるのです。TLR4、TLR7、TLR9はB細胞において、T細胞に依存しない活性化を行うことができます。

通常のB細胞は抗原のペプチド断片を認識したT細胞によって同じ抗原を認識するB細胞が活性化されるのですが、danger signal(危険信号)である自己の成分ではない異物のリポ多糖に結合できるBCR(B細胞受容体)をもつB細胞(リポ多糖を抗原として認識できてそれに対する分泌抗体を作ることができるB細胞)のTLR4に危険信号となるリポ多糖が結合すると、ヘルパーT細胞の手助けがなくともBCRとTLR4の両方からシグナルが入り、Bリンパ球の増殖、分化が促されるのです。リポ多糖に結合できる特異的なBCRを持たないB細胞はあまり活性化しないのですが、細菌の大量死により多量のリポ多糖が放出されると、リポ多糖に結合できるBCRを持たない非特異的なB細胞も活性化されるので、大量の細菌が感染すると過剰なサイトカイン(TNF-αなど)の放出などの免疫系の過剰反応が起こり、これをpolyclonal activation(多クローン性活性化)といいます。抗生物質がなかった昔は、増えすぎる細菌が細菌性ショック(敗血症)を起こしたこともあります。

このように、Bリンパ球は自然免疫細胞が行うAPCの仕事と獲得免疫が作る特異的抗体を作る2つの仕事を兼ね備えているのです。したがってBリンパ球を獲得免疫細胞に属する細胞と思い込むことは間違いなのです。

既に述べたように、ヘルペスウイルスによって自己の細胞から漏れ出たDAMP moleculesは、あくまでも正常な細胞を自己の免疫が攻撃して生まれた自己の分子ではなく、ヘルペスウイルスを含む病原体によって障害された細胞から漏れ出た自己の分子ですから、この分子を処理するためにIgMと結びついて大食細胞や好中球によってゴミ処理されて事は終わるのです。自己免疫疾患の証拠として抗核抗体(antinuclear antibody、略してANA)は、あくまでも上で説明したようにIgMに属する抗体であり、たまたまこの抗体と結びつく人体の様々な核に含まれる分子を試薬として用いて反応させると陽性になったという事で、鬼の首を取ったように、この抗体を作る患者を自己免疫疾患という冤罪を被せてしまうのです。一定の抗体を基準として正常と異常を決めつけて、異常な人を全て自己免疫疾患と診断してしまうのです。正常レベルの何十倍も高い人でも、まる自己免疫疾患に関わる症状が無症状の人はごまんといるのです。抗核抗体とは、自己免疫疾患である膠原病かどうかを調べるために検査されることが多く、身体をつくる細胞の中心の核の構成成分を抗原とする自己抗体の総称です。

さらに不思議に思うことは、このようにDAMP(damage-associated molecular patterns)を認識した免疫細胞によって傷つけられたり破壊された細胞から漏れ出たmolecules (DAMP molecules)を試薬の抗核抗体と患者の抗体とを反応させて、病気にかかわらず陽性になった人たちを自己免疫疾患の汚名を着せていることに、なぜ気づかないのでしょうか?

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