コラム 用語解説

転写因子について

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 私はこれまで補体にこだわり、ときには自己免疫疾患はないということにこだわり、その他いろいろなことにこだわってきたのですが、現在は転写因子にこだわっています。それはなぜかというと、患者の病気を治すためには、病気の根本を知る必要があるからです。私は転写因子の定義を新たに作りたいと考えています。転写因子についてはこれから詳しく説明しますが、今はとにかく“遺伝子を発現するのに関わる作用と成分の全て”と考えてください。言い換えると、遺伝子以外の全ての働きといってもいいのです。現在ではこれを「エピジェネティックな働き」といいます。エピジェネティックについてはこちらを読んでください。

 つまり元来、転写因子とは、遺伝子と直接結びつく領域を持っているタンパクだけを意味するのですが、私は遺伝子の発現、つまりタンパクを作る成分の全てを転写因子と考えています。直接遺伝子には結合しないあらゆるタンパク(例えばコアクティベーターやコレセプター)も転写因子と考えています。さらに甲状腺ホルモン、エストロゲンホルモンなどの30種類以上あるホルモンの全てや、神経伝達物質の全ても転写因子と考えています。なぜならばこれらの物質は全て遺伝子をONにするために使われるからです。

 さらに近頃転写調節因子とか、転写共役因子と呼ばれる成分も全て転写に関わっているので、これらも転写因子だと考えています。もちろんビタミンA、ビタミンDの脂溶性ビタミンも転写に関わるので転写因子だと考えています。ビタミンAについてこちらのコラムをご覧ください。

 さらに転写因子を拡大解釈すれば、元来、転写因子はDNAに結びつくタンパクだけを示したのですが、このDNAにつく転写因子が結合したDNAの遺伝子の配列自身も転写に関わるので、転写因子のひとつと言ってもいいのではないかと考えています。だからこそ、これら全てを転写因子に含めると、ひとつの細胞に400万種類の転写因子が存在すると考えている医学者も出てきたのです。

 生命の維持の出発点はまず遺伝子を持って生まれることです。しかし遺伝子だけでは生きられません。この遺伝子をタンパクに変えさせることが必要です。このことを「遺伝子をONにする」とか、「遺伝子を発現する」といいます。遺伝子をONにさせるのが転写因子の働きであります。転写因子は、まず生命の設計図である遺伝子DNAをmRNAに変えてアミノ酸を作り、そのアミノ酸を寄せ集めてタンパクを作ります。この2つのどちらかに異常があれば、いわゆる遺伝子病になってしまうのです。

 一方、遺伝子病以外の病気は、正常な生命の営みに異常な物質が侵入し、それを正常な状態に戻すために、その異物を処理しようとする正しい働きに過ぎないのです。ところが現代の医療は、その正しい働きに伴う症状を病気だと言いくるめ、その症状がどうして出るかについては一言も言及しないのです。ただただ、症状を病気と言い続け、薬と称する免疫抑制剤を用いるだけで症状を取ることだけに汲々とするばかりです。本題に入りますが、転写因子の一つであるアクティベーター(activator)の働きを記した画像を英語のWikipediaから転載してきましたので、日本語に訳しながら、転写因子が染色体のDNAにどのようにくっつくかについて詳しく説明していきましょう。アクティベーターはDNA上の特定の塩基配列に結合し、RNAポリメラーゼによる転写を促進あるいは抑制するタンパク質の一群です。

 このイラストを掲載したのは、アクティベーターが、遺伝子である二重鎖DNAを転写する際に結合する遺伝子であるプロモーターやエンハンサーとどのような関係があるかを視覚的に理解してもらいたいためです。プロモーター(Promoter)とは転写の開始に関与する遺伝子の領域を指し、プロモーターに転写因子が結合して転写が始まります。エンハンサー(enhancer)とは、真核生物DNA上の塩基配列領域を区分する名称で、遺伝子調節タンパク質(転写因子)と結合することで遺伝子の発現を調節しています。

 人間の遺伝子であるDNAは23対の染色体に乗っています。この23対の染色体は全てで60億対の塩基から成り立っています。上のイラストは1対の二重鎖DNAの本当に短いほんの一部分(配列)を取り出して、どのように遺伝子が転写因子と結びついているかのイメージが描かれているだけですが、「百聞は一見に如かず」ですから、なんとなく遺伝子と転写因子の関係がわかった気になりませんか?

 人間が瞬間、瞬間を生き、寿命を全うするためには、このような転写因子が毎日毎日遺伝子と結びついて遺伝子DNAがタンパクを作り続ける必要があるのです。生きるということは、遺伝子という生命の設計図があるだけでは何の意味もないのです。この遺伝子がタンパクに変えられるためには、様々な転写因子と遺伝子とが相互反応して初めてタンパクが生み出されるものです。このような相互反応のメカニズムは、言うまでもなく全てが分かっているわけではないのです。しかしながら、外からは絶対に見ることができない遺伝子と転写因子の働きがあってこそ生命が維持されることを、少しでも理解してもらいために私も勉強し、賢いみなさんにも理解してほしいという思いで書き続けているのです。まず、DNAをメッセンジャーRNAに転写する際に、どのような働きがあるかを説明しながら、同時に1〜5の文章を翻訳していきましょう。専門用語が多いので、その他の英語も全て訳しながら解説をします。遺伝子の専門用語は日本語にはほとんど翻訳されておりませんので、英語がそのまま日本語になっています。

 Transcription factors of eukaryotic cells
(真核細胞の転写因子。eukaryoticというのは「真核の」という意味です。)
 真核細胞とは、膜で仕切られた核、つまり核膜を持っている細胞のことです。私たち人間は60兆個の真核細胞からできています。一方、核膜を持っていない細胞のことを原核細胞といいます。例えば細菌は単細胞の原核細胞からできています。

 Note:This diagram simplifies the DNA greatly–promoters, enhancers, and insulators can be dozens or even hundreds of base pairs long.
(注意:この図はDNAを甚だ単純化したものにすぎません。本当は遺伝子であるプロモーターやエンハンサーやインシュレーターは多数の塩基対、いや数百個の塩基対の長さがあり得ることを知っておいてください。)
 上の図では塩基対は階段のひとつのひとつの段として示されています。インシュレーターは十数個の塩基対しかないように思われますが、何百個の塩基対が関わっていることもあるのです。

 Othert ranscription factor proteins
(他の転写因子タンパク)
 転写因子はアクティベーターだけではないのです。他の転写因子タンパクには、いろいろあります。元来、転写因子というのは、そのタンパク因子の中にDNA結合領域を持っているものだけを指します。しかしながら私は、遺伝子がタンパクに転写される全ての因子を転写因子と考えています。このように考えられる転写因子は一つの細胞に400万個以上もあるといわれています。
 現代の医学の定義に従って転写因子を分類すると、つまりDNAに結びつく結合領域を持っている転写因子を、結合領域の種類によって分類すると、何百とあります。例えば、大きく分けて基本ドメイン転写因子、亜鉛配位DNA結合ドメイン転写因子、ヘリックスターンヘリックス転写因子、β-scaffold転写因子、その他の転写因子の5つに分けることができます。それをさらに細分化できますが、詳しく書くとキリがないので分類はここまでにしておきます。
 転写因子であるタンパクをコードしている遺伝子は、現在わかっているところでは1800以上あるといわれています。ここでもう一度転写因子とは何かについて復習しましょう。転写因子はDNAに特異的に結合するタンパク質の一群であります。英語で一般的に“transcription factor”といいます。短くTFと書きます。DNA上の遺伝子であるプロモーターやエンハンサーといった転写を制御する領域(遺伝子sequence)に結合し、DNAに乗っている遺伝情報をRNAに移し替える(転写する)過程を促進したり、逆に抑制したりするのです。
 転写因子はこのような機能を単独で、または他のタンパク質と複合体を形成することで行うことができます。個々の転写因子は必ず決まったDNAの遺伝子配列(遺伝子sequence)に結びつくので、この時には転写因子の事を詳しく英語で“sequence specific DNA binding factor”といい、日本語では「特異的配列を持つDNAに結びつく因子」と訳します。実は特定の遺伝子を転写するためには、RNAポリメラーゼを特定の遺伝子が存在する場所に集める必要があります。従って転写を促進するアクティベーターの仕事は、RNAポリメラーゼという酵素を特定の遺伝子にたくさん集めることです。一方、転写を抑制するリプレッサーの仕事は、RNAポリメラーゼという酵素を特定の遺伝子に集めることを阻止することです。

 Methyl groups
(メチル基)
 遺伝子にメチル基(CH3)が結びつくことをDNAのメチル化といいます。DNAメチル化は、例えば、シトシンのピリミジン環の5位炭素原子につくと、遺伝子発現の減少という特異的効果を示すのです。シトシンの5位の炭素原子のメチル化は、全ての脊椎動物で発見されています。成体の体細胞組織では、DNAメチル化は通常CpGジヌクレオチド部位(シトシン-ホスホジエステル結合-グアニン)で起こります。CpGはシトシンとグアニンがリン酸で隔てられたDNAの配列を意味します。言い換えると、シトシンとグアニンがリン酸で結びつけられている配列であります。ちなみに医学専門用語的にいえば、CpGは、5′-C-phosphate-G-3’の略語であります。phosphate-はリン酸のことであります。5’と3’は、6つの炭素でシトシンはできていますから、その炭素の番号です。番号は今のところ気にしないでください。
 CpGのシトシンヌクレオチドは、メチル化されると5メチルシトシンになります。シトシンをメチル化すると、その部分の遺伝子の発現を変えてしまいます。これをエピジェネティックな遺伝子制御といいます。転写因子というのは元来、全てエピジェネティックな遺伝子制御を行うものであります。ときにはその遺伝子の発現を促進したり、ときには抑制したりするものであります。従って、生命はすべからく遺伝子の設計図と転写因子の制御系の2つから成り立っていると言っても過言ではないのです。ちなみにメチル基を付け加える酵素は、DNAメチルトランスフェレースといいます。

 1.Activator proteins bind to pieces of DNA called enhancers. Their binding causes the DNA to bend, bringing them near a gene promoter, even though they may be thousands of base pairs away.
(アクティベータータンパクは、エンハンサーと呼ばれるDNAの一部分に結びつきます。結合するとDNAが上の図のように湾曲し、アクティベーターとエンハンサーはプロモーターに近づきます。たとえアクティベーターとエンハンサーがプロモーターから数千塩基離れていても。)
 activatorは、転写因子を活性化するタンパクであり、これも転写因子のひとつであります。近くにあるエンハンサーと呼ばれるDNAの配列に結合し、転写をさせやすくします。enhancerは、遺伝子でありながら近くの遺伝子の転写を高める遺伝子です。promoterは、遺伝子の転写開始点に近い領域のDNAの一部分(配列)で、DNAポリメラーゼに転写を開始させる出発点の場所を指示するのです。DNAポリメラーゼというのは、DNAの核酸を鋳型にして、新たなる核酸を合成する反応を触媒する酵素です。RNAポリメラーゼとDNAポリメラーゼの2種類があります。DNAポリメラーゼは、デオキシリボヌクレオチドを連続的につなぎ合わせて新たなるDNAを作り出す酵素です。

 RNA polymeraseヌクレオチドとは、ヌクレオシドにリン酸基が結合した化合物であります。ヌクレオシドとは、塩基と糖が結合した化合物であります。DNAの塩基は、アデニン、グアニン、シトシン、チミンの4つでありますが、RNAの塩基は、チミンの代わりにウラシルになり、アデニン、グアニン、シトシン、ウラシルの4つになります。従ってヌクレオチドは塩基と糖とリン基の3つが結合したものであります。皆さん、核酸やDNAやRNAの言葉はよく聞くでしょう。ところがその違いはよく理解していない人が多いでしょう。ここで説明しておきましょう。核酸は、塩基と五炭糖、リン酸からなるヌクレオチドがリン酸ジエステル結合で連なった生体高分子であります。五炭糖については、こちらのコラムをお読みください。もう一度簡単に復習しましょう。核酸とは、DNAとRNAのことであり、DNAは4つの塩基であるアデニン、グアニン、シトシン、チミンの窒素をどれかひとつを含む塩基と、五炭糖とリン酸が結合した高分子の有機化合物であります。RNAは4つの塩基であるアデニン、グアニン、シトシン、ウラシルの窒素をどれかひとつを含む塩基と、五炭糖とリン酸が結合した高分子の有機化合物であります。糖がデオキシリボースである時にはDNAとなります。DNAという略語は実は“deoxyribonucleic acid”であり、日本語でデオキシリボ核酸といいます。一方、糖がリボースであるときにはRNAになります。RNAは、“ribonucleic acid”の略語であり、日本語ではリボ核酸といいます。

 2.Other transcription factor proteins join the activator proteins,f orming a protein complex which binds to the gene promoter.
(他の転写因子タンパクはアクティベータータンパクと結びつき、遺伝子プロモーターと結びついてタンパク複合体を形成します。)

 3.This protein complex makes it easier for RNA polymerase to attach to the promoter and start transcribing a gene.
(このタンパク複合体はRNAポリメラーゼがプロモーター遺伝子に結びついて、遺伝子を転写しやすくしてくれます。)

 4.An insulator can stop the enhancers from binding to the promoter, if a protein called CTCF(named for the sequence CCCTC, which occurs in all insulators)binds to it.
(インシュレーターは次のような場合には遺伝子エンハンサーが遺伝子プロモーターにひっつかないようにします。それはCTCFと呼ばれるタンパクがインシュレーターに結びつく場合であります。CTCFというのは、インシュレーターという遺伝子に見られるCCCTC配列のことをいいます。このCは塩基のシトシンであり、Tはチミンのことであります。つまりシトシン・シトシン・シトシン・チミン・シトシンという5つの塩基の配列を意味します。)

 CTCF(CCCTC-binding factor)
(CTCFは、CCCTC binding factorの略であります。)真上で説明した5つの塩基の配列にひっつく転写因子であります。

 5.Methylation, the addition of a methyl group to the C nudeotides, prevents CTCF from attaching to the insulator, turning it off, allowing the enhancers to bind to the promoter.
(シトシンヌクレオチドにメチル基が添加されるときに、メチル化が起こります。このメチル化はCTCFがインシュレーターにひっつくことを妨げ、かつインシュレーターの働きをなくします。さらにエンハンサーがプロモーターに結びつくことをできなくします。)
 ヌクレオチドには4つの塩基がありますから、4つのヌクレオチドがあることになります。シトシンヌクレオチド・チミンヌクレオチド・アデニンヌクレオチド・グアニンヌクレオチドの4つであります。ほとんどの場合、遺伝子がメチル化すると、遺伝子の発現が阻止されてしまい、その働きがなくなります。

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