神経芽細胞腫(しんけいがさいぼうしゅ)は、主に乳幼児(5歳以下)に多く見られる、小児がんの中で最も頻度の高い固形腫瘍の一つです。
交感神経節や副腎など、神経のもとになる細胞(神経芽細胞)から発生します。
1. 主な特徴と症状
発生場所: 約半数が副腎から発生し、その他は腹部、胸部、首などの交感神経沿いに発生します。
症状: お腹のしこりや腫れ、転移がある場合は目の周りの腫れ、足の痛み、発熱などが現れます。
自然退縮: 非常に稀ですが、治療をしなくても腫瘍が自然に消えたり、良性の組織に変化したりすることがあります(特に1歳未満の症例)。
2. リスク分類と治療
神経芽腫は、遺伝子の状態(MYCN遺伝子の増幅の有無)や進行度によって、リスクが大きく3つに分けられます。
MYCN遺伝子とは MYCN遺伝子(ミック・エヌ/エヌ・ミック)は、細胞の増殖や生存を司る強力な「がん遺伝子」の一種です。
特に小児がんである神経芽腫において、治療の進め方や予後(今後の見通し)を決定する非常に重要な指標として知られています。
1. MYCN遺伝子の主な機能:細胞増殖の司令塔
MYCN遺伝子は、DNAに結合して他の多くの遺伝子の働きをコントロールする「転写因子」というタンパク質を作ります。
MYCN遺伝子の本来の役割: 胎児期などの発生初期において、神経細胞が適切に増殖し、成長するのを助けます。
がん細胞での暴走: がん細胞ではこの遺伝子がヘルペスウイルスによって異常に働き、細胞に対して「無限に増殖せよ」「死ぬな(アポトーシス回避)」という強力な命令を出し続けます。
2. 「MYCN増幅」とは?
通常、人間は1つの細胞にMYCN遺伝子を2つ持っています。しかし、一部の神経芽腫ではこの遺伝子のコピーが数十倍から数百倍に増えてしまうことがあり、これを「MYCN増幅」と呼びます。
人間は1つの細胞にMYCN遺伝子を2つ持っているのは何故ですか?人間は1つの細胞にMYCN遺伝子を2つ持っているのは、母と父から一つずつもらっているからです。
人間は「常染色体(2番染色体)」の上にMYCN遺伝子を持っているため、父親から1つ、母親から1つの合計2つ(1対)を受け継いでいます。生物学的なポイントを補足すると、以下のようになります。
対立遺伝子(アレル): この「父母から一つずつ」というペアの状態が、私たちの体の設計図の基本セットです。
遺伝子増幅との違い: 通常の「遺伝」では2つあるのが正常ですが、神経芽腫などの腫瘍で問題になる「MYCN増幅」は、親から受け継いだ数が増えるのではなく、がん細胞の中だけでそのコピーが勝手に数百倍に増えてしまう現象を指し後天的な体細胞の遺伝子変異と言います。後天的な「体細胞遺伝子変異」とは、親から受け継いだ「生まれ持った蛋白の設計図」ではなく、生まれてから(あるいは胎児の成長過程で)特定の細胞だけに起こった設計図(遺伝子)の書き換えを指します。
「体細胞遺伝子変異」を理解するポイントを3つにまとめます。
1. 「一部の細胞」だけに起きる
人間の体には、子孫に遺伝情報を伝える「生殖細胞(卵子・精子)」と、それ以外の「体細胞(皮膚、内臓、血液など)」があります。
体細胞遺伝子変異は、特定の部位の細胞(例:副腎の細胞や皮膚の細胞)の遺伝子でだけ発生します。
そのため、その遺伝子の変異が子供に遺伝することはありません。
2. なぜ起きるのか(原因)
コピーミスや外的なダメージが主な原因です。
コピーミス: 細胞分裂でDNAを複製する際、稀にタイピングミスのようなエラーが起きます。
外的要因: 紫外線、化学物質、放射線、ウイルスなどがDNAを傷つけることで起こります。
偶然: 特に小児がんの場合、成長が非常に速い時期に「たまたま」起きてしまったコピーミスが原因となることが多いと考えられています。
3. がんとの関係
がんのほとんどは、この「体細胞遺伝子変異」の積み重ねによって発生します。
アクセルが踏みっぱなしになる: 先ほどの MYCN遺伝子 が増幅(コピーミスで激増)すると、細胞増殖のアクセルが全開になります。
ブレーキが壊れる: がんを抑制する遺伝子が変異で働かなくなると、ブレーキが効かなくなります。
つまり、もともと親からもらった2つのMYCN遺伝子が、がん細胞という特殊な環境下で「コピー機の故障」のように大量増殖してしまった状態が、病気の悪性度に関わってくるのです。
悪性度の指標: 神経芽腫の約25%にこの増幅が見られ、増幅がある場合は「高リスク群」に分類されます。
予後との関連: 増幅がある腫瘍は進行が速く、従来の治療が効きにくい傾向があるため、より強力な集学的治療が必要と判断されます。
低リスク群: 手術による摘出のみで経過を見ることが多いです。
中間リスク群: 手術と化学療法(抗がん剤)を組み合わせて治療します。
高リスク群: 大量化学療法、造血幹細胞移植、放射線、免疫療法などを組み合わせた強力な「集学的治療」が必要です。
3. エンドソームや最新研究との関わり
最初の質問にあった「エンドソーム」の観点からも、神経芽腫の研究は進んでいます。
細胞内輸送の異常: 神経芽腫の増殖に関わる受容体(ALK受容体など)がエンドソーム内でどう処理されるかが、がんの悪性度に関わることが示唆されています。
GD2免疫療法: 最近では、腫瘍細胞の表面にある「GD2」という物質を標的にした抗GD2抗体療法が国立成育医療研究センターなどで導入され、高リスク群の生存率向上に貢献しています。
神経が細胞腫の化学療法で用いられる抗がん剤のチロシンキナーゼ阻害薬とは何ですか?
チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は、がん細胞が増殖するための「スイッチ」をオフにする薬です。
細胞には、外部からの刺激を受け取って「増殖せよ」という命令を細胞内に伝える「チロシンキナーゼ」という酵素(スイッチ)があります。がん細胞ではこのスイッチが常に「オン」の状態になっており、暴走して増殖を続けてしまいます。
主な作用メカニズム
増殖シグナルの遮断:
チロシンキナーゼが働くには「ATP(アデノシン三リン酸)」というエネルギー源が必要です。TKIはこのATPが結合する場所に先回りしてブロックし、増殖命令が伝わらないようにします。
ピンポイント攻撃(分子標的薬):
従来の抗がん剤が「増殖の速い細胞を(正常細胞も含めて)攻撃する」のに対し、TKIはがんの原因となっている特定のタンパク質を狙い撃ちするため、比較的効率よくがんを抑え、副作用の性質も異なります。
血管新生の阻害:
がんが栄養を得るために新しい血管を作るスイッチ(VEGFRなど)をブロックするタイプのTKIもあります。これにより、がんに兵糧攻めを仕掛けます。
神経芽腫との関わり
先ほどの「神経芽腫」においては、ALK(アルク)というチロシンキナーゼに異常があるケースがあります。
ALK遺伝子に変異がある難治性の神経芽腫に対し、ALKの働きを抑えるロルラチニブなどのTKIが治療の選択肢として研究・使用されています。
副作用の特徴
細胞全体の毒ではないものの、正常な細胞のスイッチも一部阻害してしまうため、下痢、発疹(皮疹)、肝機能障害、高血圧などの特有の副作用が出ることがあります。
正常な細胞のスイッチとはレセプターのことです。正確に言うと、チロシンキナーゼ阻害薬がターゲットにするのは、「レセプター(受容体)そのもの」、あるいは「レセプターからつながる伝達役」です。
細胞には以下のような「スイッチの構造」があります。
1. 受容体型チロシンキナーゼ(アンテナ型スイッチ)
細胞膜を貫通して存在しているレセプターです。
外側(アンテナ): 細胞の外で増殖因子(刺激)をキャッチします。
内側(スイッチ): ここがチロシンキナーゼという酵素部分になっています。
仕組み: 外側で刺激をキャッチすると、内側のスイッチが「オン」になり、細胞の核へ「増殖しろ」という電気信号のようなものを送ります。
2. 「スイッチをオフにする」とはどういうことか
多くのチロシンキナーゼ阻害薬は、このレセプターの内側(チロシンキナーゼ部分)に結合して、信号が流れるのを物理的にブロックします。
3. 「正常な細胞のスイッチ」も影響を受ける理由
がん細胞は、このレセプターが壊れて「常にオン」になっていたり、数が異常に増えていたりします。薬はそこを狙いますが、正常な細胞にも同じ種類のレセプター(スイッチ)が存在しているため、それらも一緒にオフにしてしまうことがあります。
これが、副作用として現れます。
例(EGFR): 皮膚の再生に関わるレセプター(EGFR)を阻害すると、がんの増殖は止まりますが、肌の再生もうまくいかなくなり肌荒れや発疹が起きます。
例(VEGFR): 血管を維持するレセプターを阻害すると、血圧を調整する仕組みに影響が出て高血圧になります。
チロシンキナーゼ阻害薬をまとめると
チロシンキナーゼ阻害薬は、レセプターという「アンテナ兼スイッチ」の根元部分をブロックする薬だと言えます。