症例報告15例目
完治させた病名1)潰瘍性大腸炎2)糖尿病3)硬化性胆管炎
患者:21歳、男性
小さな頃からよく風邪を引き、心配性な母親はその度に病院に連れて行きました。12歳のとき体の倦怠感や口の渇きを訴え病院へ行き、1型糖尿病と診断され入院しました。主治医から原因不明の病気であり、一生インスリン注射が必要であることを告げられました。この時インフルエンザワクチンは打ったかと訊かれ、「打ちました」と答えたやりとりが患者さんの心に引っかかりました。
これ以後、数年間はインスリンを毎日打っていましたが、糖尿病に関する知識もそれほどなく、普通の中学生高校生が考えていないのと同様に、高血糖の弊害や合併症について考えておらず、血糖値は下が30、上は400まで乱高下し、HbA1c は8点台でした。主治医は「1型糖尿病の患者において HbA1c が7点台や8点台であることはよくあることで、一般人のように低く保つことは不可能だ」と言われたそうです。
高校1年生のとき腹痛を感じて病院に行き、目で見てわからないほどの血が便に混じっていることと、血液検査で CRP と ALP と γ-GTP の値が高いことを指摘され入院しました。大腸カメラ、肝生検、内視鏡的逆行性胆管膵管㐀影検査、小腸㐀影、胃カメラを言われるままに受け、その結果として潰瘍性大腸炎、硬化性胆管炎と診断されました。どの検査もとても苦痛でした。主治医からは原因不明であり一生治らないと告げられ、脂肪分をできる限り摂らない食事制限を指導され、ペンタサとウルソを処方されました。不幸中の幸いと言うべきか、大腸の炎症は比較的軽かったので、血糖値に影響するステロイドは処方されませんでした。また、「毎年大腸カメラをし、肝生検を5年に1回するのが一般的であるのでそうしましょう」と言われました。
患者さんにとってのストレスは、自分が 1 型糖尿病であり普通の人間ではないという思いから生じる劣等感、当時は慣れてしまいそれが普通のことだと感じていた大幅な血糖値の変動、高血糖による体の倦怠感や低血糖、そういった悩みを抱え鬱屈とし人間関係もうまくいっていなかったことでした。
これ以後は、ほとんど母親が作った食事制限を厳格に守った食事(糖質を多くし、肉は鶏のムネ肉とささみだけ、魚も白身だけしか食べない食事)を食べていました。ごくたまに友達と外食するときも、食べてはいけないと言われているものを食べている罪悪感を覚え、皆と同じ食事をできないことにより自己嫌悪がつのりました。大腸カメラも何度か受けましたが症状はたいして改善せず、むしろ「少し悪化している」と言われることさえありました。主治医に対して、「言われた通りにしているのにどうして改善しないのか」と問うても、「わからない」を繰り返し、「そういうものだ」と言われ不信感を抱きました。またあるとき主治医から、「今まで親にしか言っていなかったが、あと5~10年で肝臓が50%の確率で駄目になり、そうなれば移植も考えなければならない」と言われました。どうしていいのかわからず病気による劣等感や体の倦怠感から自分はまともな人間じゃないと思い、またそんな中、人間関係もうまくいっておらず、自己嫌悪がさらにつのりました。1番嫌いな人間は自分で、自分を1番嫌っているのも自分でした。
白血球除去療法を提案されたこともありました。どういう効果があるのか尋ねると、「よくはわかっていないが免疫に何らかの刺激を加えることで症状が改善することがある」と言われました。“よくわかってないの?”と不信感を覚えながらも、どうにかしたいと思い10回受けましたが、その後の大腸カメラで「症状があまり改善していない」と言われました。患者さんは言われたことをしっかりとやる患者の「優等生」だったと思います。でも病気は一向によくなりませんでした。
糖尿病については、高校生の中頃には HbA1c が8点台ではまずいと思い、インスリンを多めに打ち、下がりすぎたら補食することを繰り返し、HbA1c を6点台に保っていました。そんな中、何をしても症状は改善しないじゃないかと思いながらインターネットを見ていると、松本漢方クリニックのサイトを見つけました。そこには患者さんが疑問に思っていた自己免疫疾患と呼ばれている病気の原因や、免疫は抑えるべきか、高めるべきものかということに関する答えが書かれていました。患者さんは早速当院に受診されました。
初診でまず私は、「怖い病気は何もない」「絶対に治してあげるから」と言って緊張をほぐしました。患者さんは潰瘍性大腸炎や硬化性胆管炎に対してこんなふうに自信にあふれた様子で言ってくれる人は初めてで嬉しかったそうです。また「何を食べてもいいよ」「1型糖尿病の原因はインフルエンザワクチンや」とも言ってくれました。今までやってきた食事制限はなんだったのかと思い、私の1型糖尿病の原因はやっぱりそうだったんだとも思い、虚しさと悔しさを感じました。
その日からペンタサとウルソはすぐにやめもらい、漢方の煎じ薬を処方し飲み始めました。漢方の煎じ薬は苦かったそうですが、これで免疫が上がり、病気が治るならたいした問題ではないと頑張って飲み続けました。慣れてくると味わって飲んでいたそうです。ステロイドを使っていなかったこともあり、リバウンドもほとんどなく、毎日しっかりとした便が出るようになり、腹痛もなく、顎のあたりにブツブツができるようになりました。また肝臓の方は、「血液検査の値はまったく問題なく、心配することはない」とお墨付きをあげました。
松本漢方クリニックに通い始めてからしばらく経ったとき、突然吐き気に襲われました。患者さんは松本漢方クリニックのサイトを見てヘルペスの症状だと思い、松本漢方クリニックでアシクロビルを処方して欲しいと言われ、アシクロビルを処方しました。しばらく飲み続けると吐き気はおさまりました。
重だるい症状を軽くするため、糖質制限を勧めました。血糖値を大きく変動させるのは、糖質と糖新生だけです。体感と違う部分があり、最初患者さんは戸惑われましたが、納得され糖質制限を始められました。
以下は、患者さんが偶然本屋で見つけたリチャード K バーンスタイン医師(自身も1型糖尿病の患者で糖質を制限する治療法を提唱する)の著書を参考に、患者さんが自力で自分の生活に取り入れた糖質制限に関する記述です。1型糖尿病の患者は糖質を摂取すると膵臓のランゲルハンス島に本来はある β 細胞がほとんどないため、インスリンを打たなければ血糖値が大幅に急上昇します。そのためインスリン注射が必要なのですが、摂取した糖質の量に応じた適切なインスリンの単位数を推測することは非常に難しく、また注射したインスリンが実際にどれだけ吸収されるかにはある程度不確実性があり、また脂肪に注射されたインスリンが吸収されるスピードは体が糖質を吸収するスピードに比べてゆっくりであり、糖質が吸収され始めたときの血糖値の急上昇をぴったり抑えるように注射することは非常に難しいのです。
そのため1 型糖尿病の患者はできる限り食事の糖質を少なくし、注射するインスリンを減らすことで不確実性をできるだけ少なくすることが正常な血糖値を目指す上で重要なのです。今思えば前主治医に指導された糖質を多くとる食事制限は糖尿病を悪化させかねないものでした。患者さんは当時、超gal効型のインスリンで食事による血糖値の上昇を抑えて、基本的に朝5単位、昼3単位、夕3単位ほど打ち、持効型のインスリンで糖新生による血糖値の上昇を抑えて、基本的に朝3単位、昼9単位、夕5単位ほど打っていました。また1日に食事と食事の間や寝る前などに約6回血糖値の測定をして、その度ごとに高ければ追加のインスリンを1、2単位、低ければ補食をしていました。上記のインスリン単位数は、体調や食事の量やそのときの血糖値によって毎回調整します。血糖値は75~100の間を目標として調節されていましたが、今も血糖値は50~140の間を変動し、たまに30や180ほどになることがあったそうです。
正常な血糖値を目指す上で、1型糖尿病の患者は自分で考えて血糖値を調節する必要があると思います。2型の糖尿病に関しては、主な原因は糖質を過剰に摂取することのせいで β 細胞を酷使することになり、β 細胞が疲弊し、インスリンを出せなくなることです。そのため糖質制限をし、β 細胞の機能を持続させることが重要です。また1型糖尿病の患者でも、発症後すぐに糖質制限をおこなえば、β細胞が少しでも残り、インスリンは必要ですが血糖管理が少しは楽になる可能性があると患者さんは思われました。
糖質制限をしてしばらくすると体重が7kgほど減少しましたが、それ以上に驚いたことは体のだるさが減り、頭がすっきりし気分がとてもよくなりました。母親に思わず「普通の人はこんな世界にいるなんてずるい」と言ってしまいました。今まで「普通」だと思っていたことが、普通でないと気づき、人間は主観的に生きているんだなということを体感されました。糖尿病による高血糖や大幅な血糖値の変動は、全身に悪影響を与えます。血管は傷つき、神経障害や網膜症や腎症になり、足を切断したり、失明したり、透析が必要になったりする人もいると、調べれば調べるほど悲しくなってきます。
患者さんは上記のように精一杯血糖値を管理されていますが、今もどうしても高くなったり低くなったりすることがあります。普通の人は意識することはないでしょうが普通の人の体は勝手に血糖値が一定になるよう調節してくれているのです。失くしたからこそ改めて実感したのは人間の体の素晴らしさです。
今もリンパ球の値は10%台であることが多く、なんとか30%台にしたいと思っています。そのためにストレスを減らさなければなりません。患者さんにとってのストレスは、やはり自分は他の人とは違うという劣等感です。普通の人間になりたいという強い思いは、自分の体や病気について知りたいと思う原動力となりましたが、ストレスをなくすためには普通の人間になりたいという思いに固執しすぎず、もちろん興味のおもむくままに学びたいと思っておられますが、自分は普通の人間でないと認めて、それでも自分を肯定することが必要なのです。自分が血糖測定や注射をしているところを見られたり、以前の食事制限とは違い自分が納得している糖質を食べない食事制限を人に説明したり、糖質が入っていなくてもアルコールを飲むと糖新生に影響が出たり、酔っ払っているのか低血糖なのかわからなくなったりして困るので酒はほとんど飲まないことを説明したりすることを、劣等感を感じず、平然とできるようになることがストレスに対する患者さんの今後の課題ですね。
病気になり患者さんの人生は一変し、苦しみ、劣等感に苛まれることとなり、思わぬ方向に進むことになりましたが、どれだけ後悔してもどれだけ恨んでも過去は変えられないので、精一杯、前を向いて進んでいってほしいです。
潰瘍性大腸炎の症状が完治され、糖尿病も以前に比べものにならないほど良くなり、当院へも疎遠になりました。