ZBP1(DAI)がA型インフルエンザウイルス(IAV)感染中に生成されたZ型RNAを感知し、ネクロトーシスと呼ばれるカスパーゼ非依存性の炎症性細胞死が起こることが最近、発見されました。ZBP1(DAI)がA型インフルエンザウイルス(IAV)のリボ核タンパク質複合体を感知して細胞死を誘導するのです。
リボ核タンパク質とは、リボ核酸タンパク質ともいい、リボ核酸というのは英語でribonucleic acidといい、RNAのことです。このリボ核酸(RNA)とタンパク質が結合した複合体をリボヌクレオタンパク質、英語でRibo-nucleo-proteinといい、略してRNPと呼ばれるのです。転写因子であるIRF1(Interferon regulatory factor 1、訳してインターフェロン制御因子1)がZBP1(DAI)発現の上流調節因子である転写因子です。
Z型RNAとは何でしょうか? ちょうどDNAの二重らせん構造の取り方に3種類のA-DNA、B-DNA、Z-DNAがあるように、RNAにもDNAと同様にらせん構造があり、その構造の取り方の1つにZ-RNAがあるのです。リボ核酸は英語でribonucleic acidで、略してRNAは、単一の(モノマー)のリボヌクレオチド(RNA)が何個もホスホジエステル結合で重合して鎖状に繋がった核酸です。ちょうどDNAは2個のDNAのヌクレオチドをリン酸がホスホジエステル結合で結びつけることを繰り返して何個も結びつけて鎖状にしたのがDNAなのです。1個のRNAヌクレオチドはリボース、リン酸、塩基の3つの成分から構成され、基本的に核酸塩基としてアデニン (A)、グアニン (G)、シトシン (C)、ウラシル (U) を有していますが、DNAはウラシル (U) がチミン(T)になっている違いがあるだけです。RNAポリメラーゼによりDNAを鋳型にして転写(合成)されてmRNAになります。RNAは生体内でタンパク質合成を行う際に必要なリボソームの活性中心部位を構成しています。現在、新型コロナウイルスワクチンのmRNAはリボゾームで新型コロナウイルスのスパイクを作らせ、このウイルスのスパイクのタンパク質に対して人間の免疫がIgM抗体を作っているのですが、IgG抗体はmRNAワクチンでは作れないのでせいぜいワクチンとしての効果が続くのは6か月以内でIgMが消えてしまうので本当のワクチンではないのです。
RNAには色々種類があり、生体内での挙動や構造により、RNAには、伝令RNA(メッセンジャーRNA、mRNA)、運搬RNA(トランスファーRNA、tRNA)、リボソームRNA (rRNA)、ノンコーディングRNA (ncRNA)、リボザイム、二重鎖RNA(dsRNA) 等の様々な分類があります。
DNAのらせん構造の3種類のA-DNA、B-DNA、Z-DNAについて説明しましょう。 A-DNAは、B-DNAに似た右巻き二重らせんですが、B-DNAよりも短くコンパクトならせん構造であり、塩基対はらせん軸に対して直交していません。A型とB型のDNA構造は本当はワトソンとクリックと一緒にノーベル賞をもらうべきであったロザリンド・フランクリンによって発見されました。彼女こそがDNAは二重らせん構造が遺伝子であることを証明したのです。さらにロザリンド・フランクリンは脱水条件下でA型のDNA構造となることも示しました。こうした条件はDNAの結晶の形成の際によく利用され、多くのDNAの結晶構造がA型構造です。同様のらせん構造は、RNAの二重らせんやDNA-RNAハイブリッドの二重らせんでもみられるのです。
ネクロトーシスとは、プログラムされた形態の壊死、または炎症性細胞死です。従来、壊死は、アポトーシスを介した秩序だったプログラム細胞死とは対照的に、細胞損傷または病原体による浸潤破壊によって起こるプログラムされていない細胞死です。ネクロトーシスの発見は、細胞がプログラムされた方法で壊死を実行できるのみならず、アポトーシスが必ずしも細胞死の好ましい形態であるとは限らないのです。さらに、ネクロトーシスの免疫原性(免疫を活性化する性質)は、免疫系による病原体に対する防御を助けるなど、特定の状況でのネクロトーシスの関与に有利に働きます。なぜならば、ネクロトーシスによって感染した細胞はウイルス(ヘルペス)と共にネクロトーシスしてしまうのですが、新しい細胞に感染させないので生体細胞に対する感染拡大を防ぐからです。ネクロトーシスはヘルペスウイルス防御メカニズムとして明確に定義されており、ウイルス複製を制限するウイルスカスパーゼ阻害剤の存在下で、細胞がカスパーゼ非依存的に「細胞自殺」を起こすことが可能なのがネクロトーシスなのです。ネクロトーシスは、疾患への反応であることに加えて、クローン病、膵炎、心筋梗塞などの炎症性疾患の構成要素としても特徴づけられています。つまりこのような病気にはヘルペスが絡んでいることを示唆しているのです。言い換えると、クローン病のような腹痛をもたらす自己免疫疾患もヘルペスが関与していると考えるべきです。このようなネクロトーシスの代表はヘルペス感染細胞が自らIFN-αやIFN-βを産生し、自らの細胞もろともヘルペスを博愛主義的な細胞自殺に追い込むカスパーゼ非依存的な殺し方と言えます。
ヘルペスウイルスがネクロトーシスをもたらすシグナル伝達経路について説明しましょう。 その経路はまず体内にヘルペスウイルスが感染し、大食細胞に貪食され、大食細胞のToll like receptorに認識されるとTNFαが作られ、血中に放出されるとあらゆる細胞の細胞膜に存在するその受容体TNFR1(Tumor necrosis factor receptor 1)を刺激します。TNFR1(Tumor necrosis factor receptor 1)結合タンパク質TNFR関連死タンパク質であるTRADD(Tumor necrosis factor receptor type 1-associated DEATH domain)およびTNF受容体関連因子TRAF2(TNF receptor-associated factor 2)はRIPK1(Receptor-interacting serine/threonine-protein kinase 1)にシグナルを送り、RIPK3(Receptor-interacting serine/threonine-protein kinase 3)を動員してネクロソームを形成します。ネクロソームはリポプトソームとも呼ばれます。ネクロソームとは、ネクローシスを誘導するシグナル伝達複合体であります。ネクロソーム複合体に含まれているタンパク質にはRIPK1(receptor-interacting protein kinase 1)と, RIPK3(receptor-interacting protein kinase 3)と, MLKL(mixed lineage kinase domain-like protein)です。リポプトソームは、ネクロプトーシスとアポトーシスによる細胞死を活性化するのです。リポプトソームによるMLKL(mixed lineage kinase domain-like protein)のリン酸化は、MLKLのオリゴマー化(MLKLがいくか繋がること)を促進し、MLKLが細胞の原形質膜および細胞小器官に挿入され、MLKLが自由に透過できるようになってしまい、MLKLが細胞の原形質膜および細胞小器官と一体化することにより、炎症を起こしている状態となり、様々のダメージ関連分子パターン(DAMP)が放出され、後始末のための免疫応答が誘発されます。免役応答には敵との戦いによって正常な細胞が崩壊したあとの屑であるDAMPも処理する仕事も含まれているのです。