理論

発熱のメカニズム

投稿日:

 発熱を起こす物質を発熱物質と呼びます。体外から由来するウイルス、細菌、真菌などの微生物自身や菌体成分、キャリアタンパクと結びついたハプテンである化学物質などを外因性発熱物質といいます。このような外因性発熱物質によって様々なサイトカインが作られ、発熱を生み出すものを内因性発熱物質と呼びます。まず外因性発熱物質が生体に侵入すると、大食細胞に食べられ、TNF-αという発熱活性を有する内因性発熱物質が放出されます。さらに大食細胞で作られたTNF-αはNK細胞に働いて内因性発熱物質であるIFN-γを作らせます。さらに内因性発熱物質としては、インターロイキン1(IL-1)とインターロイキン6(IL-6)というサイトカインもあります。まずIL-1は未熟な樹状細胞である単球をはじめ、樹状細胞や好中球、Tリンパ球、Bリンパ球、マクロファージ、血管内皮細胞など様々な細胞によって産生されます。次にIL-6はTリンパ球やBリンパ球、線維芽細胞、単球、血管内皮細胞、腎臓のメサンギウム細胞などの様々な細胞により産生されます。マクロファージ は細胞表面のToll様受容体(Toll like receptor = TLR)を介して細菌の膜にあるエンドトキシンといわれるリポポリサッカライド (LPS)の刺激を受けることによりIL-6をはじめとした様々なサイトカインを分泌します。

 これらの内因性発熱物質であるサイトカインであるTNF-α、IFN-γ、IL-1、IL-6は、血流によって脳に運ばれ、血液・脳関門(BBB)がもともと欠落している脳室周囲器官の細胞に作用してプロスタグランジン(PG)E2を産生させます。産生されたPGE2は脳組織の中へ拡散し、視床下部にある視索前野のPGE2受容体を活性化しサイクリックAMPを遊離します。サイクリックAMPは神経伝達物質として体温調節中枢である視床下部にシグナルを伝え、体温のセットポイントを上昇させます。

 また内因性発熱物質以外に、直接外から来た外因性の微生物由来物質に対しても熱が上昇することがあります。これらも外因性発熱物質といいます。外因性発熱物質に対する受容体も視床下部の血管内皮細胞に存在し、これらの内皮細胞もPGE2産生を生じ、視床下部に発熱を起こさせます。つまり体温調節中枢である視床下部が刺激されると、交感神経系が活性化され、脂肪組織における代謝性熱産生が上昇し、皮膚内を走る血管の平滑筋が収縮することで、体表面の血流が減少し、体表面からの熱放散が抑制され、発熱します。一方、発熱シグナルによる運動神経の活性化は、骨格筋におけるふるえ、熱産生につながります。このようにして熱産生促進と体表面からの熱放散抑制の2つの作用によって体の深部温度が上昇します。体深部温を上昇させる生理学的意義としては、体内に侵入した細菌類の増殖至適温度域よりも体温を上げ、細菌の増殖を抑える作用と、温度上昇による免疫系の活性化を促す作用の2つがあります。むやみに解熱薬を使用することは、生体の感染防御機能を弱めることにつながることを知っておいてください。熱がなくなったら気持ちは良いものですが。解熱鎮痛薬の多くは、プロスタグランジン合成酵素群のなかのシクロオキシゲナーゼと呼ばれる酵素の働きを阻害することで、プロスタグランジンE2(PGE2)の合成を抑制して発熱を抑えます。

-理論
-, ,

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

no image

ALSやアルツハイマー認知症の原因はherpesウイルス感染症であることを証明しましょう。更新2024.11.22

ALSやアルツハイマー認知症の原因はherpesウイルス感染症であることを証明しましょう。  ミクログリア(microglia)は中枢神経系グリア細胞の一つで、中枢の免疫担当細胞として知られ、中枢神経 …

no image

エピジェネティックについて

 全ての細胞の生命の設計図である遺伝子は、同じ遺伝子であるのにもかかわらず、その遺伝子が細胞によって発現されたりされなかったりする違いを「エピジェネティックな違い」といいます。分化とは、とどのつまりは …

no image

レチノイン酸と腸管の免疫寛容について 2018.11.8更新

レチノイン酸はビタミンAの代謝産物であり、このレチノイン酸が腸管の樹状細胞から作り出され、Bリンパ球からIgAの産生を促進します。さらにレチノイン酸が腸管にいる形質B細胞にIgAを分泌させたあと、他の …

no image

強迫性障害は、不合理な考えや行動を繰り返し行ってしまう精神疾患です。更新2025.7.8

強迫性障害(Obsessive-compulsive disorder 略して OCD)は、不合理な考えや行動を繰り返し行ってしまう精神疾患です。 強迫観念(頭から離れない考え)と、それを打ち消そうと …

no image

関節症と関節炎の違いは何でしょうか?更新2022.4.12

関節症と関節炎の違いは何でしょうか? 関節症とは、関節炎を含む多様な症状の総称です。関節症の中に関節炎が含まれています。関節炎とは関節に炎症が起きている事を言い、関節で炎症が起こることで様々な症状が出 …