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DNAのエピジェネティックな異常とガン 2018.8.16更新

投稿日:2018年8月18日 更新日:

「エピジェネティック」という英語は「後成的」と訳されます。後成的というのは「後で出来上がる」という意味ですが、はじめに出来上がるのは、DNAの正常な塩基の並びであり、この塩基通りの遺伝子を発現してタンパクを作ることです。ところが塩基の並び通りに素直に遺伝子が発現されないで、まるでそのDNAの配列の変化があったごとくに、つまりエピジェネティックな(後成的な)変化が生じてしまうことです。このように遺伝情報であるDNAの塩基の配列そのものは変えないのにもかかわらず、遺伝子情報の発現のパターンが変化し、その結果その細胞の性質を半永続的に変えてしまう様々なメカニズムを扱う学問や現象を広く漠然とエピジェネティックスというのです。遺伝子の設計図に組み込まれている暗号を転写・翻訳によってタンパク質に変えることを遺伝子の発現といいますが、この遺伝子の多様な発現のために転写・翻訳の調節を行うのに、エピジェネティックスが深く関わっているのです。しかもこのエピジェネティックスは、発現されたタンパク質によっても逆に制御されていることも知っておいてください。今までは生命現象の中心的役割を担っているのはDNA(ジェネティックス)だけだと考えられた時代もあったのですが、現在では生命機能を統括しているのは、ジェネティックス、エピジェネティックス、タンパク質の3者が密接に調節し合っていることも知っておいてください。

それではエピジェネティックな変化はどのようにして生じるのでしょうか?ちょっと専門的になりますが、ついてきてください。主な機序は大きく分けて4つあります。ひとつめは「DNAのメチル化」であります。DNAのメチル化は一度行われると、永続した安定した影響が残ります。2つめは「ヒストンの修飾」であります。ヒストン修飾というのは、DNAのメチル化と違って、可逆性をもっています。3つめは「クロマチンの構造の変化(クロマチンの再構築)」であります。これもヒストン修飾と同じく可逆性があります。4つめは「非コード(翻訳)RNAの作用」であります。ちなみにRNAは、本来はDNAの情報を転写し最終的にはタンパク質に翻訳する仕事のためにあるのですが、翻訳されないRNAがあります。それを非翻訳RNAといいます。DNAからアミノ酸への転写はされるのですが、そのままRNAの状態で色々な仕事をするのです。この4つによってエピジェネティックな種々多様な現象が生じます。この4つの機序については機会があれは詳しく説明します。

このようなエピジェネティックな作用や現象は、細胞の発生、分化、老化、リプログラミング(遺伝子の初期化)、統合失調症、生活習慣病、ガンの発症に深く関わっていることがわかりました。とりわけ複数のエピジェネティックな異常な変化が、ガンの発生や進展に大きく関わっていることが最近ますますわかってきました。

iPS細胞は4つの山中4因子であるOct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycという4つの転写因子を皮膚から得られた線維芽細胞に入れて、細胞の様々な遺伝子の発現をエピジェネティックに大きく変えてリプログラミング(遺伝子の初期化)を行って生み出されたものであります。従って、いわゆるiPS細胞ができるのはたったの数%であり、残りの90%以上がガン細胞になってしまったのです。結局、山中4因子は受精卵が200種類以上の細胞に分化するために必要であった遺伝子のメチル化をアトランダムに解除しすぎたので、ガンが生まれたのです。ということは、メチル化をしすぎてガンになる細胞もあり、逆に細胞分化のために必要な遺伝子のメチル化を外したために、ガンができてしまったのです。私が思うに、iPSを作る際に生じたガン細胞のどの遺伝子がメチル化を失ったのかを(脱メチル化)研究すれば、ガンの成り立ちがより深く理解できるのではないかと希望を持っています。いずれにしろ、ガンを治す薬は永遠に見つけることはできないと思います。ある高名な学者は、老化はガンにならないために起こるとまで言っているぐらいですからね。ガンを取るか老化を取るかは運任せでしょう。

現在、日本人の2人に1人はガンになり、3人に1人はガンによって死亡します。最近の研究ではガン細胞にはジェネティックな遺伝子異常に加えて、様々なエピジェネティックな異常が蓄積していることがわかってきました。皮肉なことに、山中先生はiPS細胞を作る際に、同時にエピジェネティックな遺伝子異常を生み出すことによって、ガン細胞ができるということを証明されたとも言えます。もちろんそのメカニズムについては一度も発表されたことはなさそうですが。

ガン細胞ではDNAのメチル化によって、複数の遺伝子が同時に遺伝子の発現が抑制されています。ガン細胞のDNAメチル化の頻度は遺伝子ごとに異なり、さらにガンの種類に特異的にDNAのメチル化が行われる遺伝子もあります。さらにガン細胞が生じる臓器によってもDNAメチル化がされる遺伝子が異なる場合もあります。

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